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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第504話 減らない追手

「寒っ!? ね、ねぇ、ちょっと……? なんかここ、寒くない……?」


 走っている途中でいきなり襲ってきた冷気に、リィルが小さな悲鳴を上げていた。


 丁度、さっき《凍獄尋雷》を発動させた近く。

 通り抜けるために急いで氷の塊を取り除いたから、その影響だろう。


 指を鳴らせばたちまち消滅、なんて便利なものでもない。


「すまない、通り抜ける間だけ我慢してくれ。さすがにこの辺りを温めるような時間はなかった」

「本当に凍らせてたのね、この近く……」

「涼しいのも悪くない、ですよ?」

「それにしたって限度があるでしょうが。限度が」


 外と比べて温度が低かったのはプラスと受け止めるか、それともマイナスとして受け止めるべきか。


 とりあえず、アイシャ達にとって急激な変化だったことは間違いない。

 平然としていたのは、マユくらいのものだ。


「っ……」


 表情に出さないだけで、サーシャさんもどことなく寒そうにしていた。

 さすがの[ラジア・ノスト]も瞬時に温度を整えてくれるような便利品はお持ちではないらしい。


(……この辺りには何もなし、か……)


 ――しかしそれも、あっという間に過ぎ去っていった。


 変化と呼べそうなものは何もない。

 残り香のようなものも、感じられなかった。


「どうやら、上手い具合に逃げたようですね。大した離脱速度ですよ。さっきの魔法を避けたとなると」

「あるいはそもそもここにいなかったのかも、しれませんね」


 さっきの黒い魔法を撃っていた何かが氷に閉ざされた様子はなかった。


 氷の塊を取り除く前、遠くから確かめた時からそうだった。

 見落としたとかではなく、本当にその場所に何もいなかった。


 最初からそこにいなかったと言われた方が、まだ納得できる。


「転送ですか? あり得ない話ではありませんが……それらしい痕跡はありませんよ?」

「あくまで可能性の話です。可能性の話。さすがに、好き放題撃てるわけではないと思いますけどね」

「あらかじめ指定した座標に……なるほど?」


 サーシャさんも、その可能性を完全に否定はしなかった。


 やはり、そういうモノに触れたことがあるのだろう。

 長距離狙撃以外の形で。


 射出装置はなく、術者の姿も見当たらない。

 しかし、魔力の反応からして、この辺りが発生源である可能性は高い。


 そこまで考えて、思いついたのがそれだった。


 術者か、魔法本体か――どちらかが、距離の概念を無視している。

 なんとも大掛かりな話だが、全くあり得ない話じゃない。


(あの辺りの床にも、仕掛けはなかった……やはり、どこかから送り込んで)


 少なくとも向こうには、奏するだけの価値があるのだろう。

 いま使われないだけでもかなりマシな方。


 一度設定した方角を変えるのは、難しいのかもしれない。

 ワームホールめいたものをホイホイ開かれても困るが。


 しかも困ったことに、いま俺達を狙っているんは黒い魔法ではなく。


「ねぇ、キリハ……っ? そういう、難しい話は、後にしない……っ?」


 アイシャの言う通り、問題は魔物の方。


 何度も振り向きながら、アイシャもその様子を伺っていた。

 一応《刈翔刃》で仕留めてはいるが、追手が完全にいなくなることはない。


 と、いうのも。


「さっきから、あんまり減ってない、ですね?」

「見てる場合じゃないよ!?」

「ちゃんと逃げてるから大丈夫、です」

「そうじゃなくて、転ぶかもしれないでしょ。もうちょっと回数を減らしなさいって話よ。あたしたちも確認するから」


 倒すたびに、どこから湧いたのかも分からない魔物達が、追跡組に加わっていた。


 おかげで終わりがまるで見えてこない。


(出現場所の調整はお手の物、か)


 何もないような場所から平然と出てくるからタチが悪い。


「――いや、それは大丈夫」

「へ?」


 昨日の夜もそうだった。

 地上の魔物よりは、あの化け物共を相手にしている気分。


(……それなのに、後ろから合流する個体ばかり――)


 あれらと違っている部分と言えば、倒した魔物は片っ端から迷宮の養分に戻ってしまうことくらい。


「《氷壁》、三層」


 だからこそ、『あえて数を残すという』選択肢が浮かび上がる。


「また、大きな氷が……」


 魔物の群れの数歩先に1枚。そこから数メートル間隔でもう2枚。


 魔物の進路を遮る壁を、作り上げた。


 ブレーキが間に合わなかった追跡者が1匹、また1匹と正面から壁にぶつかっていく。

 勿論、その程度で壊れるような脆い作りにはしていない。


「これなら、あの群れもすぐには抜けられないだろう。それに――」


 そこに在るのが壁だと気づいた魔物達は、やはり壊しにかかろうとしていた。


 勢いをつけて、自らの身体を叩きつけている。

 ……中には、仲間をハンマーの代わりにしている邪悪なやつもいたが。


 何にせよ、壁のすぐ傍に大集合してくれていた。


「《凍牙扉》」


 ――そこに集まった内の数匹を、氷の壁が食いちぎる。


 表面が牙へと姿を変え、反応の鈍い数匹を嚙み千切った。


「こうしてやれば、数も減らせる。あの群れはこれでしばらく身動きができない筈だ」


 魔物を捕食し、氷の牙は壁の中へと姿を消した。


 様子を伺っていた魔物達も、それを見て再び壁を壊しにかかり――また、食らわれる。


 反撃を避けようと思うと、どうしても勢いはそがれ、無理に突っ込めば牙の餌食。


 一枚目の壁を破るだけでも、魔物達は長い時間をかけなければならなくなった。


「あの魔法って、あんな使い方もできたんだ……?」

「絶対たくさん魔力使ってるでしょ。あれ。止めなさいってば、そういうのは」

「勿論、頃合いを見て解除はする。それに、一度仕掛けを用意してしまえば後はどうにでもなるんだ。意外と」


 もちろん、仕掛けたのは一か所だけではない。


 しかし追加で注ぎ込む魔力など微々たるもの。

 今回は壁の維持にも特に気を遣っていない。


 どうせその内、壁を越えた位置に追手を呼び出されるに決まっている。


「……そういうもの、ですか?」

「すみませんが、その質問に答えてあげることはできませんよ。マユさん。あれ程個人向けに調整をされては判断しきれないんです」


 多少乱雑だろうと、汎用性に欠けようと、今時間を稼げるのなら、それで十分だった。


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