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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第491話 想像以上の好評

「ほわぁああああ~~!」


 先ほどまで眉間にしわを寄せていた人とは、思えなかった。


 食事の時間になってからというもの、ほとんどずっとサーシャさんはこの調子。

 一口食べては、その度に幸福の絶頂に達されたような笑顔を浮かべていらっしゃる。


(いいこととはいえ……さすがに、調子が狂うな。これは)


 余程お気に召されたんだろう。


 それも多分、この前ストラを訪ねた時に。

 食事をどうするかと聞かれた時に何かを耐えようと必死になっていた理由も、おそらくそれ。


 結局は、こうして自らの欲求に従われたようだが。


「どうしてこんなに美味しいのでしょう……。ご馳走になってばかりなのはよくないと姉様にも言われているのに……っ」

「腕がいいから、です。食べないともったいない、ですよ?」

「はいはい、そこまでにしときなさい。褒めたって何も出ないからね」


 言葉とは裏腹に、サーシャさんの手が止まることはほとんどなかった。


 さすがにマユの勢いには負けていたが、それはそれ。

 量だの速度だのを比較するような場所でもない。


 ……想像以上の食いつき具合に、俺自身が驚いているのは間違いないが。


「おかわりも、ですか?」

「……そのくらいなら、あるけど」


 サーシャさんへの勧誘(?)を済ませたマユはと言えば、いつも通り、自分の食欲を満たすことに全力を尽くしていた。


 俺を含めた男衆よりも、最初の量からして多かったような。

 しかし気付けば、マユの器の中身は全て空になっていた。


 リィルもまんざらではなさそうだったし、マユは満足しているし、いいことづくめ。


「(……あんた、サーシャさんが来るってわかってたの?)」


 心なしか、疑問を投げかけてきたリィルの声も弾んでいるような気がした。


 内容自体は、真面目そのもの。

 今日に限って、1人分増えてもまだ余裕があるだけの量を持ち帰ったのだから、リィルが不思議に思うのも当たり前。


 痛むともったいないから、と、普段からそこまで買い置きはしていない。

 何かの拍子に遠出をすることもあるから、猶更。


「(まさか。ヘレンじゃあるまいし。……どういうわけか、今日はあちこちでおまけをつけてもらって)」

「(今日でよかったわね、それ……)」


 ただ、今日に関しては本当に何も知らされていない。


(いつも色々と買い込んでいるからかも、な)


 一般的な家庭の消費量と比べれば、多いのは間違いない。

 子だくさんの家族もいるとは思うが……この町に限れば、そこまで多くはないだろう。


 しかも(外見だけなら)同年代の若者で構成されたグループ。

 悪い意味ではなく、記憶に残りやすいのはあるかもしれない。


 それに、多かったと言ってもいくらか翌日に回せば問題なく消費できる範囲に収まっている。

 俺の荷物を見つつ入れてくれていたであろう皆様には感謝しかない。


(……今度、何か高いものでも買いに行こうか)


 何か、大きな案件を片付けられた次の日にでも。


「……しかし、このお肉の味付け……以前のものとは少し違っているような……」


 兆しすらない将来の依頼に思いをはせていたところに、ややトーンダウンしたサーシャさんの声が聞こえてきた。


 何やら不思議そうな顔で飲み込んでいらっしゃる。


(肉、というと……)


 味に違和感を覚えた理由として、真っ先に挙げられるのは。


「あ、そっちはキリハが作ってくれたんだよ。今日はキリハが当番だったから」


 調理した人物が前回と違う、ということだろう。


 アイシャ達にとっては慣れた味。

 ただ、俺がストラを離れている間に来たというサーシャさんに食べてもらったことなどある筈もなく。


「……あなたが???」

「そんな目をするほど信じられませんか」


 余程受け入れがたい真実だったのか、サーシャさんの表情は固まっていた。


 味の好みは仕方ないとして、調理できるという事実にここまで驚かれるのはさすがに心外。

 あのくらいなら、今でもできる。昔、あれだけ教え込まれたんだから。


「それとも、お口に合いませんでしたか? そういうことなら……」

「……そんなことは一言も言っていないでしょう」


 味に関しては、特に気になることはなかったようだった。


「美味しい、ですよ。ちゃんと。お世辞などではなく。……意外な特技ですね」

「さすがに、特技と言われる程のものでは」

「お世辞ではないと言ったのが聞こえませんでしたか?」


 ……まさか、ここまで言ってもらえるとは思ってもみなかったが。


 さすがに食べられないようなものは作らない。


 ただ、面と向かって告げられるというのは、どうにも――


「っし、キリハ。そういうことならしこたま食わせてやるですよ。腹いっぱいになる頃にゃくっだらねー減点のことなんむぐぐぐぐ!!?」


 ……なんて、思っていられたのもほんの僅かな間だけだった。


「はーい、そこまで。それ以上はいい雰囲気を台無しにするからそこまでにしておこっか? 」

「いや、もう手遅れじゃね……?」

「……というか、塞ぐな。食事中に」

「いやぁ……ちょっと、イルエちゃんのお口がね?」


 レイスの言う通り、既に手遅れ。

 レアムが口を塞いでくれたところで、イルエの余計な発言はばっちりと聞こえていたわけで。


「なんか、色々と台無しなんですけど……」

はひはなにがへふはですか?」


 台無しというユッカの表現が、もっとも適切だろう。


「大したことじゃないですから、あっちは気にせず食べちゃった方がいいですよー? おかわり、もう一杯いっときません?」

「いっとく、です……っ」


 一部始終を把握していないマユが、今は羨ましい。

 こんなことなら俺も食べることだけに意識を向けておくべきだった。


「だ、そうですよー。というわけで、どうぞ?」


 ……ここまで露骨に無関心を決め込むのも、それはそれで違うだろう。


「なんでキリハさんにお皿渡してるんですか」

「それはまあ、リーダーさんの方が近いですし?」

「確かにそうだ。……これがヘレンだったら、自分で行かせるところだったんだが」


 とはいえ、残ったところで状況を解決できるわけでもなく。


「今の聞きました? 私だったら、って。ああいうの、どう思います?」

「ヘレンの自業自得ですね」

「えぇー……即答……?」

「あんなこと言うからですっ」


 アイシャは苦笑しつつ、リィルは若干呆れ気味に。


 状況をそのままにしておくつもりのようだから、俺もマユのお代わりを取りに行かせてもらうことにする。


 多めに作った分は、いつもそう。

 その日食べてもよし、翌日に回してもよし、ということで残してある。


「――残念、でしたねー? せっかくのチャンスだったのに」

「そこまで言うならせめてもう少し上手くとりつくろったらどうだ」


 ……それを取ってくるだけだから、2人も来る必要はない。


 ヘレンが来たのも、手伝いではないだろう。

 この言い草からして、それだけは絶対にない。


「無理ですよぅ。私、そこまで器用じゃないですし」

「…………あぁ……」


 ……料理に関しては、そもそも無理か。


「ちょっとちょっとー? そこ、普通はフォローするとこですよ? なーに納得したように頷いちゃってるんです?」

「やけに正確な自己分析だな、と」

「感心するならやってみたらどうです? 後々のために」


 にこやかに笑っているようで、不満が駄々洩れ。


 俺の反応なんて、いくらでも予想できただろうに。


「――まったく、困るなぁ。ようやくサーシャさんがやっっっとキリハ君への態度を軟化させたんだから、そこはもうちょっとうまくやらないと」

「聞こえていますよ!? 誰が堅物ですか!」

「自覚あるじゃねーですか」


 が、俺たちのこれは向こうに比べれば軽いもの。


 何より、今に始まったことでもない。


「少なくともあれをどうにかできる能力はないな」

「じゃあ、お得意の努力と根性の方でよろしくお願いしまーす♪」


 そう言ったのも、ささやかな仕返しのつもりだろう。


 皿を落とさない程度に背中を押したのも、きっとその一環だった。



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