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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第489話 対処のしようもなく

「しかし……困ったものですね。発動してから対処のしようがないとなると」


 一部始終を聞いた上でサーシャさんが問題視したのは、やはり時間を停止させるという力そのものだった。


 一番詳しいのはキリハだろうから、と皆が気を遣って空けてくれた広間で向かい合う。


 サーシャさんも最初からそのつもりのようだった。

 それ以外の話は後にしよう、と。


「そのような環境であなたが平然と動けた件については、言いたいことが多々ありますが……それはひとまず、置いておきましょう」

「どうぞ、どうぞ。是非そのまま手の届かない位置まで追いやってください」

「今のその言葉で手元に置いておく決心がつきましたよ」

「……でしょうね」


 防護のための手段があったとしても、それを常に発動させておくのは現実的ではない。

 が、使われる直前に起動させるのもまた困難を極める。


 それこそ何か特別な力を備えた代物に守られているとかでなければ、防ぎようがないだろう。


「ああ……そういえば、あなたのお仲間はできるようですね。停止した相手を、動けるようにすることも」

「そんな警戒なさらなくても」

「……警戒しなくても、ですって?」


 そう接する機会もないだろうにと思って言ったつもりだったが、何故だか、サーシャさんの表情はよろしくなかった。


 お前は何を言っているんだと、目が語っていた。

 ただ、それはどうやら、俺に対してというよりも。


「姉様から伺っている、と言えば分かりますか?」

「……あの方も思いのほかお喋りなんですね」

「話したのはあなたですよ」

「えぇ……分かっていますよ。それは勿論」


 やはり、支援者からある程度は天条桐葉おれについて聞かされているらしい。 


 対して、その人物の手元にもヘレンに関する情報は乏しい。

 以前の戦いについて知っているのならあり得ない話だが……噂のまた聞きでもしたのだろうか。


 とにかく、サーシャさんの警戒心は、ヘレンへと向けられていた。


「ですが、あの時お話したのはそんな内容だけではなかった筈です。……ナターシャさんから、聞いていませんか?」

「……もちろん、覚えていますとも」


 能力の大きさを警戒されるのはまあ、仕方がない。


 それこそ、時間停止に対しても反撃できるだけのものを持っている。

 そこへラ・フォルティグとやりあえるだけの身体能力も加わるとなれば……色々、警戒せざるを得ない部分もあるのだろう。


 そればかりは、すぐにどうにかできるものでもない。


「動き出した後のこともありますし、手当たり次第に開放にできるものじゃありませんよ。勿論、時間を停止させるなんて力もありません。俺が保証します」

「……いいんですか? そこまで言いきって」

「はい、もちろん」


 時間をかけて、納得してもらうしかないだろう。


 今、言えそうなことは他にない。


「……真面目な話、今回はまだマシな方ですよ。停止している相手には術者でさえ干渉できないんですから」

「甘く見過ぎです。その状態で危害を加える手段がないとは限りませんよ」

「その結果、動けるようになる、と」

「私なら、動けなくなるまで攻撃を加えます。……相手があなたのような厄介者であることを想定した上で」

「またそんな、失礼な……」


 それでも、厄介者とまで言われるほどのことはしていない。


 ダメージを負った状態で戦闘を継続しなければならない場面などいくらでもある。

 いま言ったシチュエーションだって、言ってしまえばそのひとつだ。


「少なくとも私が件の靄の立場であれば、あなたほど厄介な相手は他にいないと考えますが?」

「確かに、あの状況に限ればそういう風に言えないこともないかもしれませんね」

「まだ認めませんか。往生際が悪いですね」

「そこは諦めが悪いと言ってください」

「全身全霊、お断りします。それより認めなさい。あまりにしつこいと減点ですよ」

「無茶をおっしゃる」


 発言自体は、脅迫以外の何物でもない。

 認めさせたところで大したメリットがあるわけでもないだろうに。


 そうやってことあるごとに口に出すから余計に効力が薄れているというのに、サーシャさんときたら――


(……いや、減点?)


 ……どうしてまだあのルールが適用されているんだ。


「あの、ちょっと待ってください。加入はさせないということで纏まった筈では?」

「あくまで保留です。話がなくなったからと言って好き放題されては堪りませんからね」

「そういうことなら、ご安心ください。あれしきのことで態度を変えるつもりはありませんので」

「『あれしき』……?」


(……おっと)


 サーシャさんの目が今、すっと細められた。

 獲物を借る狩人のように、俺という標的に定められた。


 原因は……どう考えても、直前の発言だろう。


「今、『あれしき』と言いました? 言いましたね? あなた、そうまでして私を怒らせたいんですか?」

「いえいえいえ。別に、そういうわけでは」

「だったら先程の無礼極まりない発言について聞かせてもらいましょうか」


 圧をかける様を見て、やはり姉妹なのだと改めて感じた。


 思わずあきれ返ってしまいそうなくらいによく似ている。

 圧迫感はさすがにナターシャさんの方が上だったが、その身にまとう雰囲気が、よく似ている。


「怒らせたいわけではないというのなら、ある筈ですよね? 私を納得させられるだけの、正当な理由が」


 もっとも、それを認識したところでこの状況を打破できるわけでもないのだが。


 仮に口にしたとしても、火に油を注ぐだけ注いで終わりだろう。

 どこかへ連行されてもおかしくない。


「あれはただ、加入の話がなくなったとしても態度を変えるつもりはないというだけのことでして」


 あの時、ナターシャさんにいい加減なことを言ったというわけではない。


 多分、その辺りもまとめて疑われているんだろう。

 が、さすがにその件まで含めてはいない。そ個まで腐った覚えはない。


 ……それを言ったところで、態度で示せと返されるだけとは思うが。


「……だとしたら、言葉遣いの教育が必要という事になりますね。それも、大至急」


 こんな風に。


「一体、どういう変換をかけたらそれがあのような言葉が出てくるんんですか? 普通は出てきませんよ? ……その辺り、理解できていますか?」


 ……口は禍のなんとやら。


 特別レッスンを回避するだけでも、一苦労だった。


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