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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XII 引き寄せしモノ
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第483話 ひとまず、蓋をして

 次から次へと湧き出るそれらを止めるために、何か特別なことをしたかというと……正直、微妙なところ。


 とりあえず今ある出口に蓋をして、それから、詰まることのないように残りを押し返しただけ。

 向こうが違和感を覚えていたのは、俺が押し返したものが一気に流れ込んできたからに過ぎない。


 新しい出口を用意されたら今度はそれを塞ぐ必要があるし、蓋を押しのける勢いで流し込まれたら別の手を打つ必要が出てくる。


 手っ取り早く対応しようと思ったら、どうしてもこういう乱暴な手段になってしまうというだけで。

 ……いや、時間をかけてもそう変わらないか。


「それより、いいのか? お前こそ。人に無駄だのなんだのと言っていたが……無駄な力を使っているのは、むしろそちらだろう」

『必要経費だ』


 それでもさすがに、この時間停止まではどうすることもできなかった。


 屋根から屋根へと飛び移るついでに下を見ても、やはり人々は動きを止めたまま。

 町に掛けられた呪いにほころびは見当たらない。


 いくら範囲を絞っているとはいえ、大がかりな仕掛けであることに変わりはない。


(ヘレンの方で、何か見つかればいいが……)


 その内ガス欠でも起こしてくれるのではないかと期待もした。

 だがやはり、そんな希望的観測はさっさと捨てた方がよさそうだ。


『そもそも、動かれること自体が想定外だ。……しかも、2人も』

「なんだ、あの人形の件である程度予想を立てたんじゃないのか」

『……人形?』


 ――せめて何か聞き出せたらと、別の方向から攻めてみたら、思わぬ反応が返ってきた。


 ユッカがいま動けているからくりは理解しているらしい――という話は、置いておくとして。


(まさか、しらを切って……いるわけではないか)


 自らに振られた話題に、本当に心当たりが内容だった。


 俺が靄の主の様子を判断するのに使える材料は、声と雰囲気。

 ただ、今の反応は、本当に首を傾げているかのようだった。


 瞼を閉じれば、今にもその姿が浮かんで見える。


『…………??』


 徹底的に姿を隠した上で相手に誤解させられるだけの演技ができるというなら、こいつはこいつで大したものだ。

 戦闘よりその方が向いている。


(まあ、ないとは思うが)


 くだらない妄想をしている場合でもない。


 違うというならそれまで。

 命令をした何者かの存在まで考察し始めたらキリがない。


 余計な情報を与えたところで、なにひとつとしてメリットがない。


「いや、いい。心当たりがないのなら、別に――」 


『……まさか、あれを……それでわざわざ……』


 ――そう思っていたが、全くメリットがないというのは、どうやら勘違いのようだった。


「なんだ、やっぱり心当たりがあったのか」

『……それを聞いてどうする』


 心当たりなどないと言えばいいものを、遠回しに肯定してくれた。


 驚きを隠しきれていない。

 知っているかのように振舞おうとしているわけでも、なさそうだった。


 そんなことをしても意味がないことくらい、向こうも分かっているだろう。

 時間稼ぎにもならない。


「なに、ちょっとした材料に使うだけだ。お前が気に病むことじゃない」


『ならば断わる』

「馬鹿正直に答えるなんて思っていない」


 力づくで聞きだすことになるだろうと、思っていた。


 あの様子からして、全てを把握しているわけではない。

 とはいえ、あれがどういうものかくらいは知っているだろう。


 どちらが保険だったにせよ、最低限の情報は持ってるとみていい。


『……欲しているのが自分だけだと、思うなよ』


 ――狙っているものは、全く同じなのだから。


「っ……」


 構えた剣にかかる重さは、これまでの比ではなかった。


 今の今まで何発も飛ばしていた靄とは、根本的な部分からして違っている。

 受け止めて真っ先に感じたのが、それだった。


 叩きつけるように振られた時点で、形が違うことくらい分かりきっている。

 そもそも、今の攻撃は本体から完全に切り離されることなく放たれていた。


『そういうことなら、話は変わった。容赦はしない』

「ここまでしておいて、何を今更」


 跳ね返したと思えば、今度は、左側から攻めてきた。


 跳ね返したものとは、また別に。

 姿勢を崩すでもなく、そのまま。


 魔力で保護した左腕で大きく打ち返してみても、やはり耐性はそのままだった。


(尻尾、か……? 刃物にしては、どうにも鈍い……)


 腕に残る感覚も、手がかりとしてはあまり役に立ってくれそうにない。


 間違いなく、刃物で切られたような感覚ではなかった。

 しかし、鞭のような細さがあるわけでもない。


 鈍器で殴られた時とも、また違っていた。


『先程の発言は撤回する。……動ける人材だったのは好都合だった』

「妙なことを。動けない方が取りやすいだろうに」

『……そういうわけにもいかぬのだ』


 完全に切り替えたと思えば、また靄が飛ぶ。


 ただ、一発一発の手ごたえが先程よりもやや重い。

 右手からのクレームも三割増し。


(うるさい、うるさい。普段はあれだけ戦わせろと叫ぶくせにこんな時だけ逃げる気か、この野郎)


 ……もっとも、腕で対処できるならそれでどうにかしろというのが本命だったようだが。


 左手を空けておけるのならそれに越したことはない。

 翼が使えない今、蹴り飛ばして回るわけにもいかない。


(いいから我慢してくれ。……せっかく面白い話が聞けたんだ。もう少し聞き出しておきたい)


 いつまた口を滑らせてくれるかもわからないのに、こいつの苦情ばかり聞いてはいられない。


 先程の発言、動いけない相手から奪い取ることはできないと受け取っていいだろう。


 早い話、こいつらの時間停止はそこまで融通が利かないものだということ。


 知っておいて損はない。

 誰かに押し付けて難を逃れる、というわけではなく。


『あれを知っているということは、持っているのだろう。すぐさま渡せ。キサマが持っていたところで意味のないものだ』

「そんな気はしていた。……出来れば、もっと早く仕掛けてもらいたかったがな」

『何故、キサマの都合に合わせなければならない』

「それを言うなら、お前達に渡す必要もなくなるが?」


 あんな得体のしれないものを、不用意に誰かに渡せるわけがない。


『……住人の開放がかかっていてもか』

「そちらに関しては直に片付く。……まさか、何もしていないとでも思ったか」


 それは身内だろうと、他人だろうと、同じことだ。


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