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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XII 引き寄せしモノ
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第481話 似ているような

(う、わぁ……)


 ……強いのは、間違いないんですよね。ヘレンって。


 次から次へと、何体も何体も。

 ずっと戦いっぱなしなのに、疲れてるようにも見えません。


(……このくらいなら、なんとかできるってことでしょうけど)


 ヘレンや、キリハさんにとっては。


 さっきから、手の動きがほとんど見えません。

 ヘレンが……短剣? を下に向けて軽く振ったときにはもう、もやっとした何かが消えてるんですから。


(これ……やることないんですけど。わたし)


 さっきから、わたしの方に向かおうとしてるもやもやはすぐにヘレンが倒してますし。


 なんですか。そこまでしなくてもいいじゃないですか。

 心配してくれるにしたって、いくら何でもやりすぎですよ。


(……こういうところは、キリハさんに似てるのかもしれませんね)


 やりますよね。キリハさんも。

 こういう風にわたしたちの方に来る魔物とか、先に倒そうとしてますよね。


 ヘレンに言ったら、全力で否定しそうですけど。


 私はそこまでじゃない、とか。

 言いそうですよね。ヘレンなら。


 それで、今度はキリハさんの昔の話を持ち出したりして。

 そうしたら、キリハさんまで違うとか言ったりして。


(どっちも似たようなものだと思いますけど……)


 ほんと、なんなんですか。あの2人。


 昔からの仲間だってことは知ってます。

 今のわたしたちより、ずっと強いってことも。


 それは間違いないです。悔しいですけど。

 今になって思えば、2人がああしたのは間違いじゃなかったんだって分かります。


 あのときはアイシャが思いついてくれたおかげで、あんなこともできましたけど……危険種との戦いでできることなんて、なかったと思いますし。


「……むぅ」


 ――でも、だからって。


「子ども扱い、しないでくださいっ!」


 わたしにもできることくらい、あるんですから。






「…………ぅわーぉ……」


 その光景を目の当たりにしたヘレンが真っ先に抱いたのは、驚きだった。


 自身の前に割り込むように、刃を振るった。

 一瞬のうちに人ごみの間を駆け抜け現れたユッカは、靄を確かに切り裂いた。


「はぁ、はぁ……っ。これで、分かりましたか……っ!?」


 少女にとって、それが簡単なことでないのは明らかだった。


 普段であればまだともかく、完全に停止した時間の中。

 押しても引いてもびくともしない人々を一瞬のうちに駆け抜けるだけでも、一苦労。


 更にあの靄を切り裂くなど――並大抵のことではない。


(まじかー……)


 普段の様子を見る限りでは厳しいと、ヘレンは考えていた。


 キリハとの朝練の様子は概ね把握している。

 先日、キリハが不在だった時には残ったメンツでどうにかこうにか続けていたことも。


 それ以外にも色々な場面のことを思い出し――その上で、相手をするのは厳しいとヘレンは判断した。


(これ、見誤っちゃったんですかねー……? いくらなんでも、予想外のパターンなんですけど)


 が、しかし、ユッカは確かにヘレンの前でそれを討ち取った。


 見間違る余地も何もない。


 自分を除けば、他に動ける人物は誰もいない。

 仮にキリハの魔法であったとすれば、当然すぐに見分けがつく。


 主の手助けの痕跡も何もない。

 他からの干渉がないことは、明らかだった。


(……どこかの誰かさんじゃ、あるまいし?)


 ――ふと、懐かしい記憶が脳裏をよぎる。


 あちらの世界での時間で数えて、10年以上前のこと。

 今とは似て非なる賑やかさに包まれていた頃の記憶が、ふと蘇る。


 ある意味で、あの頃の桐葉を見ているようだった。


 何か――分かりやすい、具体的な共通点があるとは言えない。

 ただなんとなく、そう感じたというだけのことだった。


(……あの人とダブるって、正直あんまりよくないことなんだけどなー……)


 そのことに無理矢理抵抗感を持たせようとしたのは、その後のことがあるからだった。


 飛び込んだ少女が辿ることなど、万に一つもあり得ない可能性。

 ヘレン自身もそれを理解していたからこそ、こじつけのようだと感じずにはいられなかった。


「あの、ちょっと……っ!? 聞いてますか!?」


 そんなヘレンを、ユッカはまた呼んだ。


 肩で息をして、膝に手をつき、ヘレンを見上げていた。

 まるで町中を走り回ってきたかのような、疲れ具合。


(んもー、慣れない無茶なんてしちゃってー……)


 その原因は、わざわざ考えるまでもないことだった。


 そもそも、引き離されない程度の移動を続けたことでそれなりに消耗をしている筈なのだ。

 そこへ更にあれ程の動きが加われば、こうなってしまうのも致し方のないことである。


「あー……はいはい。聞いてます。聞いてますよー? 子供扱いするな、でしたっけ? そんなことしました? 私」

「してますよっ。キリハさんもですけど!」


 何より、あれを一瞬で消滅させていた。


(私の真似しました、とかでどうにかなるようなのじゃないと思うんですけどねー……?)


 ユッカの調子は、普段とそう変わらない。

 息が上がっているのは間違いないが、それを除けば本当にいつも通りである。


(いや、でも、普通に触れはするからなー……。火事場の馬鹿力的なアレと思えば、なんとか?)


 ただ、割り込み切り裂くまでの一連の動きは、明らかに普段のユッカのそれを超えていた。


 力を隠しておけるような器用な性格でないことは、ヘレンも少なからず知っている。


 結局、紛れもなくユッカ本人の力だということを裏付ける以外の要素は何もない。


(本人に自覚がなさそうなのがまたなんとも……。困りましたねー、ほんと)


 ただ、それをそのまま伝えるようなことを、ヘレンはしなかった。


「じゃあ、先に、あの人に言った方がよくないです? 頻度も回数もあの人のが絶対アレですよ?」

「キリハさんには後で言うからいいんですっ。そもそもここにいないんですから」

「じゃあ連れてきたらOKってことに?」

「なりません!」


 このような場で口にするべきではないと、思わずにはいられなかった。


「分かってますよぅ。……まだ、たっくさんいますもんねー?」

「……ですね」


 ――代わりに、今も自分たちを取り囲もうとする靄へと、ユッカの意識を促した。


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