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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第47話 開放初日

「すごい人……」


 集まった冒険者達を見て真っ先に抱いた感想はアイシャと同じものだった。


 念を入れて最終調整に二日。

 丁度現地に向かうと言うルークさんに半ば便乗する形で出発し、とうとうやって来たのがこの場所だ。

 できる事なら森を使った演習を一度はやっておきたかったが、他の冒険者との鉢合わせも考え断念。


「開放初日ってこんな感じなのか、すげぇな……」

「……想像以上だ」


 ちょっとしたお祭りのような盛況ぶり。

 ごった返す冒険者。切り開かれた区画の外にもまだ大勢いるのが分かる。

 話を聞きつけたらしい商人が臨時の店舗を構え、微妙に割高な品々が並んでいた。


 中心は例の穴。

 地面が不自然に盛り上がていた。

 おそらく通りやすくするためだろう。入り口へ緩やかな傾斜を作るように地面が一部削られている。その部分だけ草がほとんどなかった。


 傍には机と日よけのみの派出所が置かれ、そこには今か今かと待つ長蛇の列。

 それとは別に受付。俺達が向かっているのもそこだった。

 交代の時間なのか、隣にルークさんも来ている。


「しばらくの間はこのまま増え続けると思うよ。改めて開放の告知が出てる筈だから」


 これで?

 最早どれだけ集まっているのか数え切れない。

 距離的な問題で間に合わなかったグループがいるのは分かるがまだ押し寄せて来る可能性もある、と。


「マジかこの倍以上来るかもしれないのかよ。……え、ヤバくね?」

「ヤバいですよ。超やべーです。さっさと取るもの取らないと全部持ってかれるですよ」

「考え方がもうほとんど盗賊じゃないですか」

「こんなかわいい盗賊がどこにいるってんです?」


 発言からしてアウトだろうに。

 どれだけ価値のあるものが眠っているのか知らないが、イルエの目は本気だった。

 盗賊よりはむしろ墓荒らしの類のようにも思える。余計な事を言うつもりはないが。


「……口調も少し、それっぽい」

「レイスそいつ抑えとけです。とっておきで思い知らせてやるですよ」

「それオレも食らうんだけどな!?」

「じゃあキリハでいーです。ほら、早くやれですよ」

「今の話を聞いて誰がやると思う?」


 そもそも仲間を気軽に撃とうとするんじゃない。


「……随分賑やかになったね?」

「いいんじゃないですか、このくらいは。迷惑でしたら説得しますけど」

「ううん、いいよ。あまりきつく締め上げるのもよくないからね」


 賑やかすぎるのは若干あるかもしれない。

 とはいえそれも周りを見ればガハハと豪快に笑う集団があちこちにいる。

 犬耳の大男。角らしき器官を持つ大剣使い。他にも大勢。

 能力のばらつきもその分大きい。俺抜きでもこのチームが一番下というわけではなさそうだった。


 観察している間にも列は進んでいく。が、そこまで多くはない。

 既に来ていた集団はもう済ませているのだろう。

 俺達の番になる頃には隣にいたルークさんも受付の席に着いていた。


「さあ、ここにチームの名前とメンバーを書いて。皆、会員証は持ってるよね?」

「「「……チームの名前?」」」


 またか。

 確かに今回の場合は俺も知らない情報だった。

 それにしてもどういうことだレイス。初めてじゃないと言ったのは何だったんだ。


「なるほど、管理上の問題ですか」

「まあそんなところだね。特に開きたての頃はかなり大勢入り込むから」


 逆に調査後の扱いが簡単に想像できてしまう。

 向かう人が少なくなった後の方がある意味危険度も高そうなものだが……


「まだ決まってないのかい? 後ろが詰まってるからできれば早く決めてほしいんだけど……」

「すみませんタイムで」


 首を傾げられたが仕方ない。


「向こうで相談して決めてきます。一時的な物、ということでいいんですよね?」

「うん、ちゃんと手続きさえしておけばいつでも変えられるよ。そっか。皆まだ使う機会がなかったんだね」

「お恥ずかしながら今知ったくらいです」


 待たせてしまっていた御一行には謝罪の言葉を入れて列を離脱。

 特に文句を言われるでもなく、並んでいた数グループの更に後ろへ。


 入り口の列も最初はバラバラに見えたが協会の方々が割と容赦なく列に押し込んでいた。

 さすがというか、そういうことへの備えも問題ないらしい。


「……さて、どうする?」

「そんなの決まってるですよ。『イルエ調査団』以外ありえねーです。当然、リーダーも――」

「「それはない」」


 即答だった。

 あの場で言わなかったのはレイス達の反応を予想していたせいだろうか。

 論外という程ではない。気になる部分が全くないと言うと嘘になるが。


「はー? アイデアも出さずにいい度胸ですね。何が不満だってんですか」

「いや別にお前が全体のリーダーでもいいんだけどさぁ……」

「……自己顕示欲が強すぎる」


 調査団と言う部分は悪くないと思う。

 誰かの、まして提案者自身の名前を付ける必要がどこにあるのか分からないだけで。


「とりあえずその案は保留にしようぜ。他を出せばいいんだろ?」

「つまらなかったら引っ叩いてやるですよ。安心して言うといーです」

「これっぽっちも安心できねぇー……」


 ……ただ仮のチーム名を決めるだけだろうに。


「もうイルエさんの名前だけ外してそのまま調査団とかでいいじゃないですか。仮なんですし」

「ケンカ売ってやがるですかユッカ。同性だからって容赦しねーですよ?」

「止めなさいよ、こんなところで。何事かと思われるじゃない」

「ここじゃなくてもダメだと思うよ……?」

「大丈夫ですよ。当たらなければいいんですから」

「ユッカも煽るようなことは言わなくていい」


 第一そういう問題じゃない。

 先にイルエの動きを封じた方がいいような気さえしてくる。


「き、キリハはどう? 何か思いついた?」

「ああ、今それを考えて――……explore? 他はerk――いや、さすがに安直が過ぎるか……意外と出てこないものだな」


 他の言語に精通しているわけでもない。

 最低限、コミュニケーションに問題がない程度。それも英語で済ませる事がほとんどだった。

 今は誰かさんのおかげで単語こそ簡単に思い浮かぶが、皆に通じなければ意味がない。


 ケイバー、だろうか。

 スポーツ感覚で来たつもりはないが、元の意味にこだわり過ぎることでもない。

 さすがに無謀な探検者(スペランカー)になるつもりはないが。


「いいじゃねーですかそれ。いくす……イクスなんたら? 意味はさっぱりですけど強そうで」

「イクスプロアね。何かさっき小声で言ってたけど……普通に探検とか? キリハ君の故郷遠いみたいだし、そこの言葉?」

「まあそんなところだ」


 強そう、だろうか?

 いまいち分からない。『e』と『x』の並びが思わせるのか。


「じゃーイルエ調査団、行くですよー!」

「「そっちじゃない(だろ!)」」


 ……まだ諦めていなかったらしい。





「――水よ、集いて渦を成せ!」

「《火炎》」


 視線の先。徘徊していた魔物を消し飛ばす。

 合わせて六匹。アイシャの魔法も安定していた。一応朝二人で確認はしたが、次の休憩まではおそらく問題ない。

 しかしやはり《魔灯晶》の明かりだけでは少々心許ないか。二つあっても見える範囲に限りがある。


「……倒すの早くね?」

「キリハの魔法の威力は知っていたが、まさか、アイシャもだったとは……」


 当然だ。

 以前、アイシャの一番の問題はコントロールだった。逆にそれさえどうにかなれば一転して優秀な魔法使いになる。


「私なんてまだまだ全然だよ。キリハみたいにすぐ撃てるわけじゃないし」

「そんなことはない。今だって魔物に逃げる余裕を残さなかっただろう? 一応、魔力の量だけは気を付けておいてくれ」

「いやキリハもだよ。ぶっ飛んだ量の魔力持ってるのは分かるけどさ、底尽きてからじゃ遅いって」

「……お前が戦えなくなることだけは、避けたい」


 勿論分かっている。

 現状、見つけた魔物はゴブリン相当。しかし奥がどうなるか分からない。


「俺の魔力のことなら心配しなくていい。それより、リィルは? 地図の方を任せてしまったが……」

「気にし過ぎ。あたしが最初にやるって言ったんだからいいのよ。何から何までやってるわけじゃないし」

「とりあえずキリハは魔物全部ぶっ飛ばしときゃいーですよ。こっちはこっちで進めといてやるです」

「……イルエが? 冗談だろ?」

「キリハ、ついでにそこの無礼な赤い頭の魔物もサクッと仕留めとけです」

「代わりに向こうの曲がり角の魔物を片付けておく」


 人に何をさせようとしているんだ。


「……ひょっとして、やることない?」

「レアムはいいんだよ無理しなくて。な、トーリャ?」

「……オレ達がゆっくりしていい理由にはならない」

「?」


 なんの話だろうか。

 最初からレイスはレアムの隣で警戒しているものだろうと思っていた。

 レアムが特に何も言わないなら俺は別にそのままでも――


「ユッカちゃん達はいいの? 倒さなくて」


 ……これはまた。

 強要しているわけではない。嫌味でもない。

 だというのに何だろう。この妙な感覚は。


「あのくらいならまだ交代しながらでもいいんじゃないか? 折角の機会だ、魔物相手のいい練習にもなる」

「キリハはいいの? 疲れない?」

「ああ勿論。千、二千と襲って来てもまだ余裕で仕留められる」

「そんなのキリハだけだよ!?」


 分かっているとも。

 別にそんな状況を望んでいるわけでもない。

 ないからこそリィルの冷たい視線が痛かった。


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