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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第45話 先にやること

「――迷宮ですよ迷宮!」


 早速支部へ向かった俺とアイシャを待っていたのはいつにもまして張り切った様子のユッカだった。

 隣に座るリィルの表情が朝以上に疲れているように見えたのも気のせいではないだろう。さすがに。


「ああ、俺達もその話を聞いて来たところだ。出たらしいな。どうやら」

「ちょっと止めてよ。あんたまでそんな行く気満々なわけ?」

「だ、ダメだった? さっきもみんなで行ってみたいねってキリハと話してたんだけど……」


 その『みんな』の内、四人程は相手の予定次第。

 おそらく行くとは思うが同行するか決めるのは向こうだ。俺としても無理強いをするつもりはない。

 内部の状況次第では計画自体がお流れになってしまうわけだが、そこを今考える必要はないだろう。


「そうじゃないわよ。行くのはいいの。行くのは。……ユッカが落ち着けば」

「落ち着いてますよ!」

「それはさすがに無理がある」


 どう見ても楽しみで浮かれているようにしか思えなかった。

 リィルが『このままではよくない』と思うのも分かる。

 とはいえそこまで制限する事でもないだろう。このくらいであれば。


「まあ、多少浮かれてしまうくらいは大目に見てもいいんじゃないか。現地に着く頃には落ち着くだろう、さすがに」

「だったらよかったんだけどね」


 つまりそうではないと。

 そういえばフルトから飛び出すように旅に出たんだった。

 書いた手紙は結局ちゃんと送ったそうだが、次を書くとしたらリィルに言われた時だろう。おそらく。


「まあその姿が想像できないわけではないが」

「……キリハさん? それどういう意味ですか?」

「言葉通りに決まってるじゃないの」

「ま、まぁまぁ……私もちょっと楽しみだし、ね?」


 これまでそういう機会がなかったからとアイシャは言っていた。

 発見されること自体が稀らしい。リーテンガリア内で見てもここ数年はなかったそうだ。


 ただ調査の完了していない区画というわけではない。

 突如としてその場に()()()そうだ。当然原因は解明されていない。

 超自然的現象として扱われているのも当たり前。

 労力すら顧みずに誰かが魔法を使ったわけでもない。


 今回で言えば、これまで何もなかった筈の場所に大きな穴が見つかったのだとか。

 分かっているだけでも広さはかなりのものらしく、更に下の階層へ続く道があったという話もある。


「でももう少し詳しい事が分かるまでは様子見ね。あの四人に声かけてもどうなるか分かんないし」

「キリハさんがいるからってわたしたちが怪我したら意味ないですよね。やっぱり」

「ちなみにあんた、そういう経験は?」

「ない。全く。この前の洞窟くらいだ」


 爆発物を始め多様な罠が仕掛けられた場所になら何度も赴いたが勝手も違ってくるだろう。

 少なくとも『最深部への直通路をこじ開ける』なんて荒業は絶対に使えない。


「それならあそこでもう一回練習してみる? ちょっと狭いかもしれないけど、色々確かめられそうだし」

「それなら《土偶》か《氷象》辺りでも置いてみるか。多少耐久性を持たせて洞窟内を徘徊させておけば魔物の代わりくらいにはなる」

「あ、そんなこともできるんだ……?」


 アイシャの魔法練習に飛ばしている的の応用。

 手足の動きまで細々再現しようとなると手間はかかってしまうものの、浮かせてウロウロさせるくらいなら難しい話ではない。

 ある程度は攻撃もさせた方が訓練にはなる。まあ一回目はなくてもいいだろう。


「そういう使い方じゃないですよ絶対。キリハさんが言ってる魔法」

「でしょうね。それにその方法だとあんたには動きが分かるじゃないの」

「だったら……そうだな。自動で早すぎない程度に移動させておけばいい」

「もうほんとになんでもありですね」


 また大袈裟な。

 それに気配を隠すつもりもない相手なら操作していようがいまいがすぐに分かる。

 勿論、《小用鳥》を使わなくても。


「お待たせしました、です」


 そこへユッカとリィルの朝食が運ばれる。


「あ、ありがとうございま――……えっ」


 聞き覚えのある声の主によって。


「ま、マユちゃん!? どうしてここに……?」

「しばらく戻れそうにないから、です」


 灰色のショートヘア。

 小柄な身体にはやや大きなエプロンを身に着けているのはマユだった。

 栄養状態も良くなったようで、肌の色も以前よりは健康的に見える。


「え、戻れない? でも、コロサハに行く予定だったって……それ大丈夫なの?」

「管理人と連絡が取れないらしい。ここの手伝いは本人たっての希望だと」

「そういうこと、です」


 俺達より一足先にストラへ向かった理由もそこにあった。

 位置的にはむしろトレスの方が近かったのだが、その辺りにも何かしらの事情があるのだろう。俺のような一般冒険者が知る由もない事情が。


「そんなことしなくてもコロサハに行って待てばいいじゃないですか。あそこの支部もかなり大きいですし」

「一度襲撃を受けていることを考えれば警戒するのも当然だ。その辺りも含めて色々調整している最中なんだろうな」

「キリハさんがいたら盗賊も怖くなさそうですけどね。なんなら襲ってこないんじゃないですか?」

「ああ、大空特急便で」

「歩いてですよ!?」


 徒歩より速く、安全に着けると言うのに。

 予めはっきりとした方角と目印を決めておく必要こそあるが、襲撃の心配もほとんどない。


「空、ですか?」

「止めなさい。教育に悪いから止めなさい。あんた達も余計なこと言わないの」

「わたし変なこと言ってないんですけど……」


 微妙な反応を返され終わりだと思ったら。

 さすがに本気でやろうとは思わない。協会側にその気があるのならもっと早く決めていた筈だ。

 少なくとも一人、起きた状態で身を以って味わった人物がいるのだから。


「それと、昨日は助かりました、です。リィル、さん。キリハ、さん」

「……なんの話ですか?」

「やめなさいよ。なんで睨むのよ」

「別にー? なんでもありませんよーだ」


 そう言えばまだ話していなかった。

 昨日はとにかく『早く休んでしまおう』と、すぐに解散した。

 リィルが話しているかもしれないと思っていたが、そうか。まだだったか。


「大したことじゃない。買い出しの手分けをしていた時に、少し」

「一人で行かせようって発想が間違いなのよ。マユ、あんた今日も買い物でしょ? なら付き合うわよ。また」


 それはある。

 簡単な地図は渡されていたそうだが、そう上手くは行かなかったらしい。


「迷宮の準備はいい、ですか?」

「そのくらい全員でやればすぐ終わるわよ。近くまで魔物が押し寄せたー、なんて話も聞かないままだから」

「この町にいる間だけでも遠慮なく頼ってくれ。……道案内に関してはあまり役に立てないかもしれないが」

「だ、大丈夫だよ! 最近は道も覚えてきたし……ね?」


 優しさが痛い。

 気まずさを誤魔化すように意識を外へ向けると、四人分の気配。


「……もしかしなくてもオレ達が最後? なんか和気あいあいとしてるとこに入り込むのすげー気まずいんだけど」

「今更なーに言ってやがるですか。そんなこと気にするタチでもないのに」

「そこまで言うかオイ」


 朝の分はある程度回復したらしい。

 それかあの知らせを聞いて一気に吹き飛んだか。


「よく聞こえているから心配しなくていい。……レイス達も、迷宮の話を?」

「お、さすがにもう聞いてたか。じゃあ話は早いや。一緒に行こうぜ!」

「俺達も丁度その話をしていたところだ」


 本当に話が早い。こちらとしても大助かりだ。


「レアムさんの体調も気がかりだろう? レイス」

「お、おう! そうだな!?」

「声が上擦っているぞ、レイス」

「べっ……べべべ別にー? そんなことないけどなー?」


 これ以上ないくらいに分かりやすい反応だが、どうやら本人には微妙に届いていないらしい。


「ありがとう、キリハ君。助けてもらった上にいろいろ気遣ってもらって……」

「当然の事だ。それより、体調が厳しいなら……」

「本当に大丈夫。いつまでも休んでいたら鈍っちゃう」


 ……都度引き返せば問題はない、か。それに。


「そんなに焦らなくてもいいんじゃない? どうせまだ入れないんだし」

「「「……えっ」」」


 こら。

 何故か分かっていないらしいユッカ達にやはりというか、呆れの視線が集中する。

 俺もアイシャに道中聞かせてもらったばかりだが、考えてみれば納得のいくものだ。まして生まれてからこの世界に住んでおいてそれは……


「初期調査も終わってないのに入れるわけないでしょ当たり前じゃない。自分の階級忘れたの?」

「……レイスには、言った筈だが」

「だ、だったっけー? あれ、覚えてないなぁー……?」

「レイス、お前……」

「~♪」

「イルエちゃんまで……」


 口笛を吹いている辺り、イルエも聞かされてはいたのだろう。


「先発隊ならもう向かってる筈、です。確か、危険度は低い、って」

「マジ? オレら滅茶苦茶ツイてね?」

「ですです。いざとなったらウチらには秘密兵器もいるですよ。これは貰ったも同然ってヤツです」


 ……あっ。

 レイスとイルエの発言で空気が変わった。

 ユッカもリィルも気付いたようだが――


「……秘密兵器って、キリハのことじゃないよね……?」


 今更もうどうしようもなかった。


「いやっ、そんなつもりじゃ……え、キリハ、アイシャちゃん急にどうしたんだよ。なんか怖いんだけど」

「余計な事を言ったせいにしか見えない、です」

「えー……?」


 何故分からないのか。

 雰囲気が変わった後ならさすがに分かりそうなものだが……今はひとまず後回し。


「アイシャ、そのくらいで。そうならないとは言い切れない」

「……それはそうかもしれないけど……」

「それと、少し不安が。誰のこととは言わないが」

「確かに……」


 不満は原則受け付けない。先に言ったのは誰だと思っている?


「……まあ、分かったよ。キリハに負けないくらいになればいいんだよな!」

「まーだそんな出来もしないこと言ってやがるですか」

「全否定しなくてもいいだろ!? 今から全力でやればちょっとくらいはマシになるって!」

「……だったら、オレも。レイス一人には、させられない」


 そういう問題じゃない。話を変な方向に進めるんじゃない。


「準備があるでしょ準備が。朝みたいに倒れてたら逆効果よ逆効果。まさか忘れてないわよね?」


 今は先にやる事があるだろうに。

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