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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XI 異つの刃が揃う時
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第438話 雨の中で

 あまりに似ていると、そう言われた。


 空の様子が、町の雰囲気が。


 言葉では言い表せない何かが、否応なしに当時を思い出させるのだと――そう言われた。


 きっと、忠告以上の意味を持ってはいなかっただろう。

 あの怪物が復活するなどとは思っていなかった筈。


 実際、そこまでの事態に発展することはないだろう。


 あっていいものかという、個人的な感覚があるのは否定しない。

 だが、どう考えてもあり得ない。


 いくら出どころの分からないモノとはいえ、そのようなことは。


「……そんなことまでできたのか」


 ――ただ。


「それ以上、町には近付かないでもらおうか。その姿には嫌な思い出のある人が大勢いる」


 それと同じように得体の知れないナニカは……町のすぐ近くにいた。






(偶然、では……ないんだろうな。どうせ)


 その姿を目の当たりにして、キリハは密かに舌打ちした。


 淡く光を放つ身体。

 しかしそのシルエットは、およそヒトのそれではない。


 右へ、左へと揺れながら、ソレは四本の足で前へと進む。


 聞こえる筈のない唸り声が、キリハには聞こえた気がした。


 ゆらりゆらりと進むソレから、餓えたけだものにも似た何かを感じた。


「行くなと言っている」


 ――その進路を、キリハは土の壁で遮った。


 魔力から新たに作り出すのではなく、周りにある大量の土を利用して進路を閉ざした。


 そうして自らが作り出した土の壁から顔を覗かせ、キリハは怪物を見降ろした。


「どういうカラクリがあるのか知らないが、その姿……昔この地域に出たという怪物のものだろう。そんなものに化けて、何をするつもりだ」


 四つの足の怪物を、睨みつけた。


 そう。今のキリハの目の前にいるそれは、確かに四足歩行をしていた。


 キリハも件の怪物を直接見たことがあるわけではない。


 しかし、四つ足のそれと相対した時、彼は確信した。

 目の前にいるそれがかつて恐怖に陥れた怪物なのだと。


(……リリより先に見つけられただけ、よかったと思うしかないか)


 複雑な感情をならし、自らを納得させた。


 合流はできていないが、怪物の姿をリリが見ることもない。

 捜索は《小用鳥》に続けさせるほかなかった。


 もし妙なものを見つけたらすぐ知らせるよう言いつけ、町の内部も外も捜索を続けさせた。

 リリと怪物が鉢合わせることのないように。


「一体、誰がお前をそうさせた? この前、無理矢理に融合させた誰かか?」


 そうして自ら時間を作り出し、キリハは再び、怪物を睨んだ。


 ヒトガタと戦いを繰り広げた場所へと戻ったのは、再び現れる可能性を懸念していたからだった。


 実際、キリハの予感は正しかった。

 全く同じ姿ではないものの、光を放つそれを再び見つけた。


「まさか、肝試しのつもりでもないだろう。……何を考えている?」


 見つけてしまったからこそ、キリハの表情は険しいままだった。


(ストラの時とは、状況が違うとはいえ……これだけの拡張性が残されているという時点で、大問題……)


 結晶は一つ残らず回収していた。

 その上で今日、ヒトガタと戦った地点へと赴き――結果、見つけた。


 しかも、よりにもよって、この町で恐れられている姿に近い個体を。


(悪趣味なやつ……)


 そのことを思えば、悪態をついてしまうのも仕方のないことだった。


(……やはり、リリとこいつが接触する可能性を残すわけには……)


 何よりキリハには、もう一つ懸念があった。


「とりあえず、そいつのもとに案内を――」


 そこまで言いかけ、すぐさま飛び退いた。


 彼が降り立った数歩手前に、何かが落ちる。


「ち……ッ」


 直後、壁が音を立てて崩れ去る。


 真ん中に穴を開けられた壁が崩壊するまで、一瞬だった。

 更には、目の前の落ち葉が形を失った。


(毒――いや、溶解液か……)


 その正体は、すぐに分かった。


 同時にキリハは、目の前のソレが他の力を持っていることを悟った。


「阻め」


 それを理解した上で、今度は土の壁で取り囲んだ。


 飛び越えられる高さではない。

 すり抜けられるような隙間も、キリハは残そうとしなかった。


 四つ足のソレに壊させるために、その状況を作り上げた。


 再び溶解液を吐かせるために。


「《旋風》」


 放たれたそれを、光を纏った化け物に返すために。


 四つ足を閉じ込めた籠の中に、風を吹かせた。

 押し返せると踏んだ上でそうした。


「《針氷》」


 しかし、キリハはその場に留まろうとしなかった。


 小刻みに後退しつつ、氷の棘をあちこちに置く。

 見え透いた罠を置きながら、後ろに下がる。


(――っ、やはり……!)


 怪物が飛び出すまで、そう時間はかからなかった。


 自らが吐いた溶解液を直に浴びた筈のソレに、響いた様子はまるでない。


「落とせ」


 ――その時、空から大量の礫が降り注ぐ。


 地面の土を固めて作られた、弾丸の雨。


 キリハの手で上空に待機させられていたそれらが、いま一斉に降り注がれた。


 ちりばめられた氷の棘達を避けるよう、降り注いだ。


【!?】


 ――全く同じ道筋をたどっていた四つ足のソレが、逃れることはできなかった。


 弾丸が淡い光を貫き、次から次へと地面に突き刺さる。 

 次から次へと突き刺さる。


 そこに一切の容赦はなく、当然、途切れることもない。


「――……」


 他でもないキリハが、自分自身にそれを許さない。


 雨に打たれる四つ足の姿を視界に収めながら、次の弾丸を込めていく。


(……悪いな。こんな、時間のかかる方法しか取れなくて)


 弾丸一つ一つに魔力は込められていなかった。


 弾丸に魔力が働きかけたタイミングは大きく限定される。

 持ち上げられていた間と――放たれるその瞬間だけ。


 ほんの少し後押しをしただけだった。


【~~ッ!?】


 その後押しが、四つ足の怪物の自由を完全に封じた。


 その身を震わせようと、雨を振り払うことはできなかった。

 いかなる抵抗も、土の雨には意味をなさなかった。


 それでも土の雨が止むことは、やはりない。


(……あくまでも、やるつもりか)


 やがて、体中の穴は四つ足から抵抗する力さえも奪っていった。


 振り払おうとするそぶりさえ見せない。


「……眠れ、もう。これ以上は続けても無駄だ」


 四つ足の姿が解けるように消えたのは、それから間もなくのこと。


 残されたのは、小さな凹だけ。


 降り注いだ弾丸も、その多くが砕けて見分けがつかなくなっていた。


「……後は――」


 それでも、気を抜くことはできなかった。


 冷たい涙は、今も止んでいなかったのだ。


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