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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XI 異つの刃が揃う時
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第427話 逃げた先に

 戻ろうとするそれらの様子は、送り出した時とあまりに違っていた。


 そもそも数が足りていない。

 何故か二体も戻ってきていない。


 増えることはあっても、減ることなどまずあり得ない。


 しかし何度確かめようと、二体足りない。

 不慮の事故で置き去りにされたことも疑ったが、それもない。


 そもそもこちらに戻ろうとする気配が二つ足りていないのだ。


【――…………】


 代わりに一つ、大きな存在感。


 明らかに異質で、強大なモノ。

 混ざりに混ざり、それが本来どのような存在であったか特定することさえ困難になっていた。


 ソレが二体を消し去ったことは疑いようがなかった。


 単体でそれを成すなど、本来あり得ない。

 理屈の上では可能だが、現実的な策ではない。


 何かしらの機器に頼ってしかるべき。

 そういった代物が乏しいことも事前に確認を済ませていた。


 にもかかわらず、二体が消えた。

 近づく大きなソレ以外に何もない状況で。


 身一つで成し遂げたとしか、考えられなかった。


【――――】


 逃げるように戻るモノへと、問いかける。


 より具体的に。より限定的に。

 不要な情報は全て削ぎ落とさせる。


 膨大に蓄積された内のひとかけら。

 必要としているのはそれだけだった。


 詳細な交戦記録。


 形状や全長、攻撃手段その他。

 標的となるソレに関する情報を一つ残らず提供させる。


【…………?】


 しかしその全てを受け取っても、疑問が解消させることはなかった。


 求めていた情報は概ね入手することができた。

 把握すべきことは、把握したと言っていい。


 問題は、それに対する回答。


 ソレに対して取るべき策がない。

 有用な対抗手段が導き出せない。


 ソレの戦い方はあまりに強引だった。


 力任せ以外の何物でもない戦い方。

 何より、そんなものを現実にできてしまう力こそが問題だった。


【…………】


 単純な戦力の増強では、到底足りない。


 無数の戦闘を経なければ届かない。

 蓄積の差が余りに大きかった。


 その差を覆すための時間はない。

 ソレそのものを利用し蓄積させようにも、既にソレは対処法を会得している。


 時間・質・量――どのように掛け合わせても、超えようがなかった。


 その上で選ばざるを得なかった。


【…………!】


 時間を確保するには、それ以外、他に手が残されていなかったのだ。






(よくもまあ、こんな遠くまで……)


 感心すべきか、呆れるべきか。


 町の光はとっくに見えなくなっていた。

 追いかけている内に、萎むように消えた。


 門を照らす小さな明かりとはいえ、貴重な道しるべ。


 引き返すべき道さえ見失いそうになる。


(……さすがにそろそろけりをつけてしまわないと、後が危険か……)


 ぼうっと浮かび上がっては闇に飲まれ、消えていく。

 昼間の姿からは想像もつかない、陰鬱な印象の緑が消えていく。


 暗さが一層不気味さを引き立てていた。


「怖いとまでは言っていない。……いつも以上に警戒しておく必要はあるが」


 至極真っ当な感想を捻じ曲げた剣には、一言。


 過度に恐れるべきではない。


 逃げる標的がよく目立つようになったのだから、むしろ感謝したいくらい。


 しかしどうやら、選り好みの激しい剣にとってはそうでもないらしい。

 町から離れるほどに騒々しさを増していく。


「……場の雰囲気が苦手なら素直にそう言えばいい。明かりくらいは用意してやる」


 実際、あまりいいものとは言えない。


 今夜初めて外に出たというわけでもないが、それはそれ。

 まさか苦手とは思いもしなかったが。


(暗い時間に外へ出たことだってあっただろうに……)


 何かを感じた、ということだろう。


 似たような予感は俺にもあった。

 間違っても深夜の散歩を楽しめる空気ではない。


(……少し急ぐか)


 幸い、居所ははっきりしている。


 普段は淡く見える光も、今この場では唯一の光源。

 見つけてくれと言っているようなものだった。


 魔力を辿らずとも、見失うリスクは皆無に等しい。

 追いかけやすいどころの話ではない。


「っ……。どうしてこう、お前は変なところで警戒心が……」


 剣に身体を後ろへ引っ張られさえしなければ。


 慎重に追いかけていては駄目。

 ならばと急いでみたら、それも駄目。


 ……一体どうしろと。


「いい加減に落ち着け。この程度の暗さならすぐに慣れる」


 俺個人としては、今更な話。


 時間がたてば自然と慣れる。

 暗さは勿論、薄気味悪い空気にも。


 もし間に合わなかったとしても、さすがにあれを放っておくことはできない。


 今この手にある二体分の結晶もいつ姿を取り戻すかわからない。


(……場合によっては三匹か)


 叩きつけてしまったせいか、うち一つに目に見えるほどの亀裂がある。


 何かの拍子で割れようものなら、増える。

 能力はそのままに、もう一体増える。


 真面目な話、その他の可能性も考慮するのであれば猶更油を売っている場合ではない。


「とにかく、今に始まったことでもないだろう。そんなに自信がないのか」


 ヒトガタの能力からしてこいつの出る幕はないだろうが、置いて行くわけにもいかなかった。


 煽るような言葉もそのため。

 当然、反応も予測済み。


「違うというなら、もっと堂々としていればいい。いざという時に腑抜けたままでは俺も困る」


 抗議の訴えが頭の中によく響く。


 こめかみを抑えたくなるくらいには。


「文句なら片づけた後にいくらでも聞く。……来るぞ、すぐに――」


 ――言いきったその瞬間、尖ったナニカが、闇から伸びた。


「っ……!」


 心臓の位置を狙った、的確な一突き。


 槍か、はたまた矢か。


 小刻みに後退しても、この目で見るには遅かった。


 鋭く研ぎ澄まされたそれは、その時にはもう引っ込んでいた。


(いや……!)


 しかし程なく、突き止めた。


 左右それぞれの耳に響く、風を切る音。


 それに聞きなれていく内に、理解した。


「……よりにもよって、足癖の悪さを真似たか」


 繰り出されたそれは、ヒトガタの脚部だった。


 蹴りを放ったその瞬間、槍のように姿を変えていた。


(こいつ、固有の……? まさか、何かを吸い上げようとは――)


「っ」


 考えが纏まろうかという時になって、鼻の先を刃が抜けた。


「……さすがにないか。それは」


 回し蹴りに際して今度は剣のように姿を変えた脚部。


 それが虚空を切り裂いた。


「どうして今更引き返してきたのかと思えば……」


 斬撃も、刺突も、目で追えないほどではない。


 が、決して温いというわけでもない。


 巻き添えを受けたのは、生い茂った樹木。


 腕が通るほどの穴が開き、真新し断面が次々と顔を覗かせる。


(一時的な変身……。一応、能力も上がっている、が――)


 このままではリリの探し物が――と、焦りそうになった自分の身体を引き留める。


「一体だけ……?」


 どれだけ周囲に意識を向けても、いる筈のヒトガタの姿が見当たらなかったからだ。


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