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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XI 異つの刃が揃う時
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第426話 どこから来たのか


「――……」


 声を出すことなく、顔を上げた。


 その目には、すでに次なる標的が映し出されていた。


 ――光が群れをなして押し寄せた時にはもう、その場所にキリハの姿はなかった。


 まるで、初めからそこには何もなかったかのように消え失せた。


【!?】


 次の瞬間、一体のヒトガタが、突如浮いた。


 何か大きな力に突き飛ばされてしまったように。

 のけぞったまま抵抗さえ許されず、飛ばされた。


「っはァ!」


 それも束の間。


 地面を打った身体は、大きくはねた。


 またしても浮かび上がったところに、更にキリハの拳が叩きつけられた。


 自らに左手で殴り飛ばしたヒトガタにすぐさま追いついたキリハによって、追撃を叩き込まれたのだ。


 それでも、キリハの攻撃は止まらない。


 拳が、足が、何度も何度も、執拗にヒトガタを襲った。


 とどめに大きく蹴り飛ばされるまで、ヒトガタの形を歪めかねない力が叩き込まれた。


「……魔力を伴わない……まして武具も何もない攻撃なら、これまでのようにはいかないだろう。お前達も」


 風の音さえない暗闇の中、キリハの声があたりに響いた。


 苛烈な攻撃とは対照的な、落ち着きのある声。

 それは冷めているとさえ言えるかもしれない。


 事実、身動きの取れなくなった人型へと近づくキリハの目は冷めきっていた。


 残されたヒトガタには目もくれない。


 まるで氷の魔法に閉じ込められてしまったように微動だにしなかった。

 行動することを放棄したそれらを脅威とみなしていなかった。


 業火に呑まれてもその炎を払いのけかねない今のキリハへ向かっていける者は、この場に一人として存在しなかった。


「お前達には聞きたいことが山のようにあるが……まあ、それはいい。答えが返ってくるとも思えない。ひとつ応えてもらえば十分だ」


 嘆息しつつも、その目は確かにヒトガタの姿を追っていた。


 睨むでもなく、淡々とした様子で見下ろしている。

 一挙手一投足、見逃すまいと。


「以前ストラに出た連中と同じタイプだということは分かっている。それよりも、お前達は一体どこから――」


 問い詰める言葉は、最後まで続かなかった。


 三方より一斉に降り注いだ光が、無理矢理に言葉を遮った。


「ち……」


 たちまち、その場が煙に覆われる。


【……?】


 ほどなくして煙が晴れたとき、そこにはまたしても何も残されていなかった。


 何かが叩きつけられたような小さな穴が散らばるばかりで、何もなかった。


「もう動けるように――……いや、時間をかけ過ぎたか……」


 その声は、ヒトガタが終結したさらに奥から森の中に響いた。


 先程と何ら変わりのない――しいて言えば、呆れが混じった声。


 負傷らしい負傷のないキリハの姿があったのは、そこだった。


 ヒトガタの手のひらから光が放たれた時にはもう、その場を離脱していたのだ。


「揃ってくれるのならそれでもいい。一体どこから来たのか、方角だけでも教えてもらおう。その腕を向けるだけでいい」


 高圧的ともいえるその態度を、桐葉は崩そうとしなかった。


 口から飛び出た言葉は一方的な命令以外の何物でもない。


「この辺りをお前たちにうろうろされるのは俺としても都合が悪い。……悪いが、排除させてもらおう」


 キリハの目は、本気だった。


 柄に手をかけ、いつでも仕掛けられる姿勢を保つ。

 その瞳にはヒトガタ達の姿がくっきりと映し出されていた。


「っ……」


 何度目かの横殴りの雨にさらされても、それは同じだった。


 飛び退いた彼の背には、白い翼。


 しかしながら、キリハは広げたそれで夜空へ羽ばたこうとはしなかった。


「確か、お前だったな」


 一体のヒトガタの懐へ飛び込むや否や、踵で夜の空へと打ち上げた。


「ッ……!」


 打ち上げられたヒトガタを、さらに押し上げるような衝撃が襲った。


 浮いた直後に膝を叩き込まれたのだ。


【――……】


 身体を“く”の字に捻じ曲げられたヒトガタの手から光が消えるまで、時間はかからなかった。

 ただ空へと向かっていくことしかできなかった。


【……!】


 仮に自らを待ち受けているのが消滅だと予感することはできたとしても、それを防ぐ術など残されていなかった。


 両腕を叩きつけられた衝撃を打ち消すことなど、できる筈がなかった。


「……これで、二体」


 を受けたヒトガタの姿は、地面になかった。


 小さな亀裂が入った魔結晶だけが、そこに残されていた。


「次――」


 桐葉がそこへ降り立ったその瞬間、残ったヒトガタは一目散に逃げだした。


 大きく飛び上がり、少しでも彼から遠ざかろうとした。


「行かせるか」


 ……ヒトガタにとって不幸だったのは、咄嗟に跳んだ方角が丁度、町がある側だったこと。


 故に一匹の凝らず蹴り返された。

 跳躍したそれらに一瞬で追いついたキリハによって、真逆へと飛ばされた。


 ヒトガタに残された選択肢は、ただひとつ。


 大地へと引き寄せられていく間に、少しでもキリハから遠ざかることだった。


 蹴り飛ばした時、キリハは翼の魔法を展開しなかった。

 強く下へ引く力をキリハは受け入れていた。


 ほどなくして、その姿は緑に覆われた。


 ヒトガタの位置からは、丁度キリハの姿が見えなくなっていた。


「それでいい」


 しかし、変わらない。


 ヒトガタが全速力で森の中を突き抜けようと、状況は何一つとして改善されない。


 どれだけ急ごうと、背後より迫る足音が消えることは決してなかった。






(さすがに少し、脅し過ぎたか……)


 ヒトガタのあの様子。おびえていると言っても過言ではなかった。


 以前ストラの近くに出た連中は、あんな風に逃げ出しただろうか。

 思わず個体差で説明をつけてしまいたい気分。


「あぁ、あぁ、分かっているとも。余計なお世話だ。いいから大人しくしておけ。お前には言われたくない」


 夜中でも力が有り余っているらしいこいつにすら言われる始末。


 ……今回ばかりはさすがに反省。


 ナターシャさんに見られなかったのがせめてもの幸運。

 あれを見たらますます疑いを深めること請け合いだ。


 ……何かしらの手段で把握していても何らおかしくはないが。あの人の場合。


(それはもうこの際、気にしないものとして……)


 それより問題は、残ったヒトガタ。


 逃げたその先に巣穴があるという保証はない。

 こればかりは俺も予測のしようがなかった。


(町の周り、ということはさすがにないと思いたい……。とはいえ、あれに巣らしい巣があるとは正直とても……)


 空間の歪みから偶然迷い込んだと言われても、納得してしまうかもしれない。


 この世界における、いわゆる魔物とは明らかに何かが違っている。


 今のところは魔結晶とされているソレが実は全くの別物だったと言われた方がまだ腑に落ちる。


(何者かが送り込んだにしては、目的らしい目的が見当たらない……。が、自然発生したにしてはあまりに妙……)


 そもそも、どうしてこの場所だったのか。


 何せあまりにタイミングがいい。

 特に何かの装置を動かしたわけでもないのに、狙いすましたように現れた。


 今回、まだ協会に目撃情報は寄せられていない。

 おそらく俺が第一発見者だろう。


(この状況と無関係を通すか、はたまた……)


 疑うなという方が、無理な話だ。


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