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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第42話 これから

「――で、結局なんだったんですか、あの人?」

「俺が聞きたいくらいだ」


 イリアの来訪があった夜も明け、朝。

 前日の騒動など知る由もない穏やかなトレスの支部。

 真っ先に話題に上ったのは昨日の男。

 件の少女――マユの護送のため先にストラを目指したリットを除いてあの場にいた全員が集まっているのだ。当然だろう。


「じゃあ何よ。あんた知りもしない相手に一方的に喧嘩売られたわけ?」

「それにしてはあの人の戦い方、知ってるみたいだったたけど……」

「経験値が増える程、見たことのある戦い方をする相手と戦う機会も増える。あの男関して言えばまさにそれだ」


 特にあの男の場合、かつての敵の力を模したものを使っていた。

 発言をそのまま信用するのなら、自ら新たに作り出したものということになる。

 朗報でもあり、悪報でもあった。

 教団の力そのものが残っていたわけではなく、一方でわざわざそれを作り出す馬鹿が未だにいる。

 基本的にあの連中の腰は重い。こちらで調べるしかないのだろう。

 ……問題は、その行動自体をあのろくでなしが称賛してきそうなことだが。


「……いるの? 他にあんたみたいな戦い方する人」

「買い被り過ぎだ。探せばいる。特に魔力の武器にこだわらなければ」

「一番大事なところじゃないですか」

「未変換の魔力武器が珍しいのは分かっている。極端な話、あまりに数が少ないものは除外した方がいい」


 使い捨てができて、かつ瞬時に別の形態へ移行可能。

 他にもメリットがあるのは間違いない。

 だがそれに関しては他の手段でどうにかできなくもない。

 少なくとも氷魔法で近い戦い方をした人を俺は知っている。もっともその人もそれを主軸に置くことはなかったのだが。


「まあそれはいいじゃないか。今焦って全部を知る必要もない」


 実際昨日の男も、力こそ模造品だったが戦い方はさほど似ていなかった。

 他にあの男本来の何かもある筈。正直、昨日の戦いにそういう意味での価値はないに等しい。


「…………」


 それより今は奇妙なものでも見るような目を向けている誰かさんの疑問を解決するのが先だろう。


「なぁ。えっと、キリハ……だったよな。お前どっちが素なんだ?」

「? と、言うと?」

「いやさ、昨日とか敵に向かって結構ボロクソ言ってたじゃん? なんか全然イメージ違うって言うか……」

「あれでもそう言われてしまうのか……飛んだ後の会話まで聞こえていたわけではないだろう?」

「それは、もっと厳しい言葉を投げかけたと、いうことか?」

「否定はしない。あんな相手に友好的な態度をとれるわけがない」


 俺が話を切らなければ続けていただろう。さすがにあれ以上は聞けななかった。

 我ながらよく抑えられたとつくづく思う。

 本体でないと早い段階で認識できていたからだろう。目の前の男をどうしようと意味がない、と。


「別にいーと思うですよ。あのクズヤロー、見るからに人の話聞かなそーでしたし」

「まあそれはそうですけど……キリハさんのこと言えないですよね。イルエさんの方がよっぽど口悪いですよね」

「オレもそう思う。さすがにどうにかした方が、いい」

「はー? そうでもしねーとナメられそうなひ弱どもが何言ってやがるですか。むしろ感謝してほしーくらいです」

「それで余計なケンカになったら意味ないんだよなぁ……」


 そんなことが。

 嘗められないようにという考えは分からなくもないが……

 いや、イルエさんなりに友人の事を考えた結果なのだろう。方向性はさておき。

 さすがに『ひ弱』は言い過ぎだろう。


「ま、まぁまぁ、そのくらいで……今はストラに帰らなきゃ。ね?」

「レイス達は別にストラへ向かう必要があるというわけでは……それとすまない、アイシャ。俺はあと二、三日この町に残らなきゃいけない」

「もしかして事情聴取? じゃあしばらくはこっちにいないとだね」


 一日中付き合うように言われているわけではないが、都度都度往復するのは現実的ではない。

 不便なものだ。あれだけ色々と発展しているのだから他に色々やりようもあっただろうに。


「待ってくださいなんでアイシャだけなんですか。わたしたちもいますよ?」

「ユッカ達の予定はこれから聞くところだ。どこかでフルトに戻る必要があるんだろう?」

「……その話ならしばらく先になったわよ」


 どことなく不満そうに。しかし正反対の感情も少なからず混じった声。


「リィルが気にし過ぎなんですよ。ちゃんと手紙だって用意したじゃないですか」

「あたしが言った後でしょ。嫌々書いてたでしょ」

「リィルが何回も書き直せって言うからです」

「あんたが数行で済ませようとしたからじゃないの!?」


 確かにそれはいただけない。

 まるでその時の会話が耳に聞こえてくるようだった。

 心配していない筈がないだろう。いっそ何か理由でもつけてフルトの方に向かおうか。


「あの、キリハさん? なんか怖いこと考えてません?」

「まさか。ただ少し、フルトの町にも興味が湧いただけだ」

「…………えっ」


 深い意味はない。あくまでもその体で振舞う。

 部外者があまりあれこれ言うものではない。リィルに言われてもあの調子なのだから。


「ふーん……本気だったのね。いいんじゃない? 少し落ち着いてから行ってみるのも」

「いやいやいや、なにもないですよ。行くだけ時間のむだですよ? やめた方がいいです。絶対やめましょう。ね?」

「そ、そこまで言わなくても……いいところいっぱいあると思うよ?」


 言い訳を並べようとしているところに聖属性を食らうと効く。どうしようもない程に効く。

 経験者が言うのだから間違いない。


「別に帰りたくないならいいわよ。それともあんた、これからずっとあいつと組み続ける気?」


 リィルは冗談半分に行ったのだろう。少なくとも俺はそのくらいの認識でいた。


「え、そのつもり何ですけど」


 しかしユッカの答えは違った。

 さも当然のように、さらりと言った。


「さすがにずっとってことはないと思いますけど……やっぱり、一番近いのはキリハさんかなって」

「『近い』? 一体何が」

「気にしない方がいいわよ。呆れるだけだから」

「そこまで言います!?」

「事実じゃないの。やめてよ、そこの二人とは仲良くやりたいのに」

「そんな変なことなんてしませんってば!」


 また始まった。

 アイシャにヘルプの視線を向けられたが、手早く解決する手段などない。


「……なんの話だろうね?」

「さすがに分からん。さっぱりだ。好きにやってもらっておけばいい」


 勝手に話を進められてはどうしようもない。

 せめてどういう物か説明してほしい。呆れない保証はない。


「今のうちに馬車の持ち主のところに行ってしまおうか。泊めている場所とか、何か聞いていないか?」

「あ、それが……さっき協会の人に訊いてみたら、もうこの町を出ちゃったんだって。ちゃんとお礼もしたかったんだけど」


 本当にただ立ち寄っただけ、と。

 やはりどうにも引っかかる。

 昨日は何も言ってこなかったが、どちらかというと……


「……何か、馬車に付いていなかったか? エンブレムとか、所属集団を示すような記号が」

「んー……見てないと思うけど……ね、ユッカちゃんリィルちゃん、なかったよね?」

「は、はい? なんの話ですか?」

「ほら、昨日のあの人。馬車に何かついてなかったっけって」

「見てないですよ。そんなところまで。リィルじゃないんですから」

「それどういう意味? ……でも、あたしもさっきから思い出せないのよね。こんな事なかったのに」


 この様子、ほぼ確定と見てよさそうだ。


「まぁいいじゃん。縁があればどこかで会えるって。ここにいる誰かの顔くらい覚えてるだろ」

「それもそうだ。……待て。お前、まさか」

「いいじゃん折角だし。オレも興味あるんだよ、あの戦い方」

「ですです。トーリャもナメられない心得とか教わった方がいーですよ」

「別に、いい」


 何かあれば今夜にでもまた出て来るだろう。おそらく。

次章の予告動画を作ってみました。

音無しではありますが、よければ更新ツイートよりご覧ください。

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