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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XI 異つの刃が揃う時
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第404話 気になった案件だけを

「……もしそれで本当に和解できたなら、なおさらこんな依頼は受けない方がよかったんじゃない?」


 やはりそうなるだろう、としか思えなかった。


 今の話を聞けばそうなるのも当たり前。

 どうしてこんな遠くを一人でうろうろしているのかと言いたくなる気持ちも正直、ちょっと分かる。


 少なくとも俺が逆の立場ならそうしていた。

 相手のところへ連れ戻すまではしないにしても。


「もちろん、それは思いましたよ。依頼主の方の名前に心当たりもありませんでしたし」

「……それなのに来たのね。わざわざこんなところまで」

「お断りするのもどうかと思いまして」


 皆の同意が得られないようであれば、さすがに俺も諦めただろう。


 不審であるのは間違いない。

 安全第一を大前提にした上で、行ってみてはどうかと言ってくれたリィルも――実際、疑っていた。


 俺の名前を知っているのはまあいい。

 無駄に大層な肩書を付けてくれやがった誰かがいるようだから、そこから知ってもおかしくはない。


 以前の関係者、かつ今の俺を知っているような人物という線も、やはり厳しい。


 この前までは最有力候補だったヘレンは、今もストラで待ってくれていることだろう。

 エルナレイさんならこんな形で手紙を寄越す筈がない。


 だからこそ、どうしても引っかかった。


「俺だけにしか解決できないとまでは思いませんが……俺を呼ぶと決めるに至った理由は、きっとあるでしょうから」


 それがたとえば――予算の不足から来るものだったとしても、今回は受けてみよう。


 つい、そんな風に思ってしまった。

 あまりの不自然さに、そう思わされてしまったのだから仕方がない。


 予算云々の話を聞いたナターシャさんから呆れられても、それはそれ。


「立派な考えね。私にはとても真似できそうにないわ」

「このくらいの立場だからできる事だと思いますよ。俺も」


 本人の意思はさておき、立場に伴うしがらみというものはあるだろう。


 多少の権限があったところで、その権限そのものに余計なものが絡みつく。

 程度の違いはあれど、少なからず。


 全てを問答無用でねじ伏せるなど、それこそ不可能。

 もし仮に押し通したとして――結局、後でとんでもないツケを払わされることになるだろう。


 必要のない手間をかける羽目になった、ため息の出るような記憶に割り込んできたのは――ナターシャさんの、小さな溜め息だった。


「……私達の提案も、そのくらい前向きに検討してくれたらよかったんだけど」

「またまた、そんな。足を引っ張るだけですよ」

「面白くもない冗談ね」


 ……どこかでその話になるかもしれないとは、思っていた。


 浮かれ気分の抜けきらない思い上がりであればよかったが、そうもいかない。

 少なくとも向こうの目は本気だった。


 何が天下の[ラジア・ノスト]のトップにそこまでさせるのか――その理由は、以前として分からない。


「それに、自分が気になった依頼だけを……なんて勝手な真似、立場があればできませんから。俺も」

「一気に俗っぽくなったわね」

「当然ですよ。さっきのは盾前みたいなものですから」


 全くの嘘というわけではない。


 今回の依頼を受けた理由もそう。

 個人的な興味があるのも間違いないが、それとは別の部分で引っかかってしまったのも本当。


 一字一句、まるでお手本のように丁寧に書かれた手紙の筆跡に心当たりはない。


 使われている言語は、リーテンガリアで広く話されているもの。

 単語と単語を組み合わせた暗号が仕込んであるわけでもない。


 誰が、なんのために――そんな疑問も、確かにあった。


「それにしても……まだ諦めておられなかったんですか? てっきり、そちらでもとっくに廃案になったものだとばかり……」

「あんな戦いをしておいて?」


 なんのためにという点に関しては、ナターシャさんにも聞きたかったが。


 困ったことに、とてもそんなことを聞ける雰囲気ではない。

 左右に異なる光を宿した瞳が、射貫くように俺を見ている。


「噂なんてすぐに広まる。……あんな大きな事件なら、間違いなく」

「こんな田舎者に関心を持って――まして、何度も勧誘師に来てくださる親切な方がそう大勢いるとは思えませんけどね」


 実際、あれからそういう話は一つも来ていなかった。


 協会が上手い具合に丸めてくれたのもあるだろう。

 実際問題、先日の一件を聞いて飛びつく輩が全くいないとは言わない。


「前にもお伝えしたじゃありませんか。あの状態はそう長く維持できるものでもないんです。勿論、そのままにしておくつもりはありませんけど」

「自分で答えを言ってどうするの?」

「逆です。分かっているからですよ」


 僅かなひと時しか使えなかったものを、時間を重ねて――という経験が、ないわけではない。


 当然、そのための努力は必要になる。

 しかし問題はそこではない。


「どの程度のものかは分かりませんが……期待して、後でがっかりするのも嫌でしょう?」


 どういう目的にせよ、期待が大きければその落差が失望を大きくしてしまう。


 関係のないことと言えばそれまでだが、さすがに悪い。

 見ず知らずの他人ならいざ知らず、この人が相手なら。


「…………そうやって、いつまでも誤魔化すつもり?」


 ――俺の態度に、痺れを切らせてしまうとしても。


「これ以上続けるつもりなら、魔道具で測るわよ。あなたの魔力」

「魔力と強さが直結するわけでもないでしょうに」

「目安の一つになればそれでいいの」

「それを盾前にある程度はごり推せる、と」


 そんなものは今さら図るまでもないだろう。

 ナターシャさんがその程度のことを存知ないとは思わない。


 俺に対する脅しとしても、効力がないということも。


「……どういう自己評価をしてるのか知らないけど、今の幹部は誰もあなたの加入に反対してない。そのくらいの評価はされてる」


 とはいえ、俺も薄々感じていた。


「……皆さんご存知なんですね。あの一件」

「私が話さなくても知っていたわ。一人残らず」


 ナターシャさんの方がすぐには折れてくれないということも。


「そちらの言い分も、理解はできましたが……俺としては、答えを変えるつもりはありません」


 どれだけはっきり答えようと、変わらないだろう。


 根本的な問題が解決しない限り、ずっと。


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