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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅹ もう、抑えられないから
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第391話 強情

「あの栄養剤も――それ以外にも。本来なら作用している筈のタイミングは、これまでに幾つもあった」


 もしヘレンが考えている通りであれば、間違いなくそうなっていた。


 ヘレンが見た、小さな光。

 レアム達には魔力の暴走にも見えたそれが、ヘレンの浮かべた通りのものであれば。


「まーたそうやって、懐かしいこと掘り返しちゃってー。あんまりねちっこいと嫌われますよ?」

「懐かしくはないだろう。懐かしくは。そんなことで話を逸らすんじゃない」


 ようやく、そのことを話せそうな機会もできた。


 ヘレンだって覚えていないわけではないだろう。

 あの頃のことを覚えているからこそ、こうなってしまったのだろう。


「そうなっている筈の場面で、そうはならなかった。……そのことを認めても、お前に不都合なんてない筈だ」


 ヘレンが飛び出したのも、暴走を恐れたからではない。


「……まあ、さっきのこともありますもんねー」

「ああ。さっきの件はまったく別だ」


 不満そうな顔をしていても、暴走が起きたとは微塵も考えていないだろう。


「別って、なんです? 他に何かあるとは思えないんですけど。私」

「いいや、ある。大ありだ」


 その可能性を浮かべつつも、否定して。

 その上で全く別の可能性を前提に物事を進めてしまう。


「少し部屋にいる時間が増えたところで、お前への印象を悪くするわけがない。……もちろん、心配はするがな」


 俺が暴走させてしまう以外の――もう一方の可能性。


 ヘレン自身がそちら側に含まれてしまうという、ありもしない可能性。

 それをヘレンは頭の中に浮かべていた。


「どうでしょうねー。前科もあることですし? これまでの積み重ねとか言われちゃうと、さすがに私も分かりませんよ?」

「冗談。その場で言い返して終わる程度のものを引きずるわけがない」

「またまたぁ。言い返してないやつとか、あるんじゃないです? 本当は」


 きっとヘレンも、薄々は気付いているだろう。


 いくらなんでも馬鹿げた話だと。

 頭に浮かんでしまったその時に一度は押し退けた否定材料が浮かんでいるだろう。


「――確かに、ヘレンにそういうものを溜めさせてしまったのは間違いない」


 だからこそこうなった。


 いつのことがどう影響したのか――なんて、言い出せばキリがない。


 それこそ以前のこともあるだろう。

 ゆっくり話を聞いていたなんて、口が裂けても言えない。


「……そこで普通、出したりします? 私のこと」

「別に攻めているわけじゃない。自分に呆れているだけだ」


 よくもあれだけのことをやらかしたものだと、本当に飽きれる。


 大丈夫だと思っていたわけではない。

 それを承知で、あえて何もしなかったのだからなお悪い。


「それに、その理屈でいけば……俺の方が、先に愛想を尽かされていそうだがな」

「あはっ、よかったですねー? 心が広くって」

「まったくだ」


 本当に、心から。


 それに関しては、その通りだと頷くしかなかった。

 もちろん、目の前にいるヘレンも含めて。


「それより、そっちの話ですってば。ないんです? ほんとのほんとに?」

「ああ、これっぽっちも」


 閉じこもっていた件も気にはなったが、あんな風には思わない。


 空に浮かび上がった円を見て、狙いにも見当がついていた。

 そこまで分かっていればなおさら、妙なことを思う筈がない。


「さっきの光も、お前が思っているようなものじゃない。むしろ逆だ」


 あまりにタイミングが悪かった。


「……逆、ねー……」


 ただ、偶然の結果かと言われると、そうでもない。


「イリアの結界、力任せに破ろうとしたんだろう?」


 様々な要素が重なってしまった結果、そうなった。


「……それが、どうかしました? というか、どこで聞いたんです?」

「もちろん、本人から。……あれほど目に見えて疲れるような事となると、自然と限られる」

「まーた情報を全部流しちゃってー……」

「俺にも関係のあることだろう。聞かなくてどうする」

「それでも、どうしても聞かせたくないような事ならだんまりしちゃうと思いますけどねー」


 強行突破に寄る負荷と、以前からの疲労。

 他にも精神的なものがあっただろう。


 そして、そういうものに気付いた。気付いたからこそ、あの形で反応してしまった。


「つまり、あの防護陣も『聞かせられないようなもの』だったと」

「……一応、マスターの話なんですけど?」


 確かに、時には隠そうとすることもあるだろう。

 俺自身の状況を見て、今は全てを話すべきでないと判断したから。


 実際、ヘレンとのこともすぐには話さなかった。


 気に病んでいなかったわけでもないのに、すぐさま話そうとはなかった。


「というか、関係あります? あれのこと。あんまり何度も掘り返すなら、さすがにこっちも怒っちゃいますよ?」

「それは勘弁。……これでも一応、無碍にしてしまった認識くらいはある」


 口波では色々言っていても、実際にそこまで不満があるわけではないだろう。


「そんな風に思っちゃうくらいなら、止めたりせずにそっとしておけばいいのに」

「それは駄目だ」


 ……ないとは、言わないが。

 それでも、ヘレンが表にしているようなものが主ではない。


「……ほんと強情」

「だったら、そろそろ聞いてくれてもいいだろう? 肝心な部分を」


 それを見せないという意味では、強情さもいい勝負。


 さっきからどうにも話を逸らしてくる。


 かといって、今無理矢理に聞かせようとしたところでどうにもならない。

 肝心なところで耳を塞いで防音を整える姿が目に浮かぶ。


「……嫌って言ったら、どうします?」


 挙句の果てに、こんなことまで。

 らしくもないどころの話ではない。


 ――だが。


「聞く気になるまで粘るだけだ」


 だからこそ、ここから先は譲れない。


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