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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅹ もう、抑えられないから
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第388話 "偶然の"一致

 二筋の光が暗闇を裂き――そして、弾けた。


「っ……!」


 歪みのないそれぞれの斬撃を、お互いが狂わせ合った。


(相変わらず――)


 正面衝突の衝撃に、桐葉もヘレンも、刃を大きく弾き飛ばされる。


(――痛ったいんですから……っ!)


 得物を掴む腕ごとその勢いに引っ張られそうになりながら、なおも振り向く。


「カトノっ!」「《魔斬》!」


 ――2人は、まったく同時に刃を振り切った。


(あーあーあー……、やっぱり序盤は……!)


 自らの持つ刃を振り切ったその瞬間、両者は確信する。


(このくらいに抑えてくる、か……!)


 同じく切っ先で砂を蹴り上げ放たれた刃によって打ち消される様を、両者ともに現実より一瞬早く思い浮かべた。


「ふ、二人の魔法が消えた……?」

「どういう戦い方してるのよ、あいつら二人して……」


 よく似た姿でありながら、全く異なる名を持つ二種の斬撃。

 それらは見た者に双子と誤解させかねないほど、瓜二つだった。


 ――その規模はおろか、消滅を迎えるその瞬間さえまるで合わせ鏡のようだった。


 桐葉もヘレンも、示し合わせたわけではない。

 恐ろしいほどに一致したのも全くの偶然だった。


(それでそれで、今のを見たら……)


 しかしそれが奇跡的なものではないことを、お互いが同じように理解していた。


(お前なら、きっと――)


 その先の展開を、その目で見てきたかのように熟知していた。


 距離を詰めるべく、地を蹴ったその時点で。

 相手の刃の角度さえ、寸分の狂いもなく予測していた。


「……そういう強引なとこ、相変わらずですねー? いいんですか? こんなにあっさりと読まれちゃって」

「強引なのはお互い様だろう。それに、お前の動きを読んだ上でこう振ったんだ」

「違いますよぅ。私が、そっちの動きを読んだからこうなったんですよ?」

「いいや、俺だ」

「私ですってば」


 お互いがお互いの刃を受け止め、そのまま押し込もうと力を注ぎ込んでいた。


 両者ともに、一歩も譲ろうとしない。

 二つの刃は微動だにせず、自らにかかる圧を受け止めている。


「どうして、こういう時に限ってそんなに強情なんです? いいじゃないですか。別にこのくらい譲っても」

「断固拒否する。強情なのは今に始まったことでもなんでもない」

「そこを開き直られてもなー……」


 しかしながら、ヘレンが持つそれと比べると《魔力剣》は幾分脆かった。


 最低限の強度こそ持つものの、決して壊せない代物ではない。

 その場で補修が行えるというだけで、決して頑丈ではない。


(これ以上は……いや、今まで耐えてくれただけでも十分か)


 そして桐葉は、追加で魔力を注ぎ込むようとしなかった。

 魔力を注いだところで、終わりの見えない均衡に軋むことに変わりがないことを知っていた。


「そういうヘレンこそ、『このくらい』と思っているなら譲ってくれてもいいじゃないか」

「私にとっては全っ然『このくらい』なんかじゃないんで、お断りでーす♪」

「それは残念」


 ――勢い余った刃の下を、桐葉は潜り抜けた。


 砕け散るより僅かに早く、《魔力剣》を自らの意思で手放した。


(あっ……!?)


 屈んだ桐葉のその手には、全く同じ形状の剣が握られていた。


「飛ばせ――」


 手放すと同時に新たに作り出した《魔力剣》。

 風を纏ったそれを手に、懐へ潜り込んでいた。


「《暴風》」


 ――ヘレンの右手の更に外を通り抜ける瞬間、解き放つ。


(またっ、こういう……!)


 魔力の剣を中心に起こった《暴風》は、ヘレンさえも軽々吹き飛ばした。

 その風を正面から受け止めることを、ヘレンに迫った。


(このくらいの勢いがないと、足りないだろうからな……!)


 ヘレンの目と鼻の先で起きた暴力的な風は、ヘレンを退かせるためだけのものだった。


 故に、殺傷能力は極めて低い。

 皆無と言っても過言ではない。


「《旋ぺ――


「カトノ」


 しかし、続き渦巻こうとしていた風の魔法はヘレンによって呆気なく切り裂かれる。


 暴風を受け止めた時と異なり、遠慮はなかった。

 それどころか、呆れの眼差しを桐葉へ向けていた。


「やめましょうよ。こういう遠回しなやつ。……まさかこんなのでどうにかできるなんて、そんな甘いこと思っちゃってないですよねー?」

「そういうヘレンこそ、今のタイミングでいくらでも仕掛けられただろうに」


 ヘレンにとってはまったく脅威になり得ない風の檻。

 それを今このタイミングで仕掛けようとしたことに対する不服だった。


「言うこと言っておかないと、誰かさんがまーたやらかしそうなんですもん」

「言えば素直に止まる“いい子ちゃん”だと思われているわけか。未だに」

「いいえ? これっぽっちも?」


 ――その時、不満を乗せた刃が虚空を切り裂いた。


「今さら、そんなイメチェンされても逆に困りますしぃ……」


 その一撃が夜空の向こうへ消える頃、地面には細く鋭い線が刻まれていた。


「止まるも何も、同じことさせなきゃいいってだけのことですもん。念のためにお知らせしてあげただけですよー?」

「そいつはどうも」


 肉薄したヘレンが刃を振るう度、それを桐葉が逃れる度、地面に亀裂が走る。


 魔力の剣で逸らせば、どこからか何かが落ちた音が響く。


 ヘレンの一撃を受け止めたその瞬間には、まるで異なる方角から斬撃が桐葉を襲う。


 時に重く、砕かれた《魔力剣》の破片が宙を舞う。


(確かに迅い、が……)


 魔力の剣を握るその手に、桐葉は力を込めた。


「《岩砕炮》」


 ――次の瞬間、彼の視線はたちまち炎で埋め尽くされた。


 地面を砕いた灼熱は、ヘレンが立っていたその場所を瞬く間に呑み込んだ。


「んもー、容赦なさすぎですよぅ。翼が焦げちゃったら責任モノって分かってます? 冗談と思ったら大間違いですよー?」

「掠りもしていないくせによく言う」

「涼しい顔してこっちの攻撃捌いてた人に言われてもなー……」


 既に、ヘレンの姿は大きく後ろ。

 桐葉の《暴風》に吹き飛ばされた時と全く同じ場所にいた。


 焦げは勿論、汗一つかいていない。


(そこまでじゃないなーとか、失礼なこと思っちゃってそうな顔ですねー……。しかも、自分のことは思いっきり棚に上げて)


 桐葉も同様に、先の連撃に掠ることすらなかった。

 顔色一つ変えることなく受け切った。


 魔力の剣が砕けることはあっても、その身に刃を受けることは決してなかった。


(……とはいえ、さすがに)


 しかしその事実に安堵するようなことはない。


(こんなことばっかり続けるわけないですよねー……?)


 お互い、この程度は余裕だろうと


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