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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第36話 苛烈なキリハ

「あいつを一人で行かせた!?」


 戻ったユッカを待っていたのは仲間達の驚愕だった。


 キリハが先日訪れた洞窟に再び潜っていた頃。

 ストラ支部の仮眠室は少女達の動揺に包まれていた。


 忠告は受けていた。キリハも一度はそれを承諾した筈。

 少なくともアイシャ達の目にそれらしい素振りは一切見せなかった。

 だからこそユッカの言葉を疑わずにはいられない。キリハの姿が見当たらない今でも。


「そうするしかなかったんですよ! リィルもあの目で見られたら分かります!」

「睨まれたくらいで怖気付いてどうするのよ。止めたらよかったじゃない」

「睨まれた方がまだよかったですよ……」


 凍り切ってしまった黒い瞳を思い出し、縮む身体を何度も擦る。

 あんな姿を見たことは一度もなかった。自分を見ている筈なのに、キリハの目には映っていない。

 アイシャ達にも説明できない奇妙な感覚。演技をしているようにも思えなかった。


 ユッカにとってそれはあまりにも強烈な出来事だった。

 一晩経った後でも、きっと鮮明に思い出せる。そう思ってしまう程に。


「どういうことだよ。キリハってあいつだろ? なんか一人だけ滅茶苦茶強そうなやつ」

「……考えなしに飛び出すとは、思えない。それに大勢が相手では、勝ち目も――」

「勝てるよ」


 トーリャの言葉を遮ったのはアイシャだった。

 彼女自身、未だに状況を受け入れられたわけではない。

 だがそれだけは確信を持って応える事ができた。


「キリハなら勝って帰って来てくれる。絶対に」


 負ける筈がない。あのキリハが。

 勝敗に関しては全くと言っていいほど心配していなかったアイシャ。


(でも……)


 しかし、そんな彼女にも不安はあった。

 独断専行を協会がどう評価するか分からなかったのだ。


 キリハに厳しい処分が下るなら全力で抗議するつもりでいた。

 同時に、自分達が何かを言ったところで決定を覆せるわけではないとも感じていた。


「とりあえず秘密にしておこうよ。もしかしたらすぐに戻って来るかも――」

「無駄だよ。キリハ君の事ならもう把握してるから」


 顔を覗かせたルークの一言。それは最後の頼みの綱も否定するものだった。

 バレてしまっている。協会に。何もかもが。


「ユッカちゃんとの模擬戦を終えた後、飛行魔法でトレス方面へ移動。そうだよね?」

「ち、違うんですよ。わたしが余計なこと言っちゃって、それを聞いたキリハさんがいきなり『わかった』って言って、そのまま……」

「それを言うならあたしも関係あるわよ。責任感じてそうだったし」

「そういう問題じゃないんだけどな。僕が言いたいのは」


 誰もが分かっていた事をあえてルークは告げた。

 やはりどうしようもない。

 その事実が重くのしかかる。


 キリハ自身の意思で起こした行動だとしても、黙っていられる筈がなかった。

 すっかり沈んだ空気を破るように、リットが一言。


「でもまあ、皆が気にする事じゃないよ。支部長曰く『予想通り』らしいから」

「え……?」


 衝撃的な内容を告げた。


 反芻させ言葉の意味を咀嚼する。

 予想通り。つまりこの状況が起こると支部長は考えていたということ。


「よ、予想通り? 分かってたならなんで止めなかったんですか!?」

「本当にその気になってしまったのなら口で説得したところで聞く相手では無いよ」


 そこへ更に支部長が現れる。

 肩をすくめていたが、本気で困っているとも思えなかった。


「かといって身動きを封じれるわけでもない。その辺りは君達の方がよく知っているのではないかね?」

「……それをなんとかするのが仕事だと思うんですけど」

「む、それを言われると痛いな。ユッカ君の言う通りだ。ハハハ」

「笑い事じゃないですよ支部長。怒らせてどうするんですか」


 少女達から険しい視線を向けられようと支部長が動じることはなかった。

 ルークからの苦言もどこ吹く風で受け流す。


「それで結局、予想ってどういうことですか? できないからって黙っておくなんて……」

「明かしたくともできなかったのだよ。そういう契約だからな」

「契約……?」


 支部長ほどの相手と、誰が。

 想像すらできなかった。

 しかも相手はキリハを知っている。対象者は自然と絞られる。

 だが、全てを満たす人物にアイシャは心当たりがなかったのだ。


「その話は置いておこう。今後の対応が先だ」

「……予想したならそれもできてるんじゃないですか?」


 冷たい声色。

 支部長の態度への違和感は既に抑えきれなくなっていた。


「生憎、出来上がっていないのだよ。彼の行動次第でこちらの対応もガラリと変わってしまう」

「その事で一つ。昨日の子が目を覚ましたそうです。話は聞けるみたいなので根城も特定できるかと」

「ああ、聞いている。どうせなら君達も会ってみるかね?」

「支部長……」

「同性の方が話しやすい事もあるだろう。容態も比較的落ち着いている」


 危害を加えられることはない。

 支部長の言葉をアイシャ達は素直に受け止めることはできなかった。

 何を考えているか分からない。警戒心が高まるばかり。


(……それもこれも、私の意志によるものではないのだがね)


 そんな視線を向けられ、密かにため息を零す。

 心の奥底で、ひっそりと。






「《薙炎》」


 どこから呼び寄せたかも分からない魔物を焼く。

 薄暗い洞窟の中。弱々しい炎に照らされる根城には薄汚い格好の男達が大勢寝転がっていた。


 突入してからおよそ五分。

 案内させた男を気絶させてから繰り広げられたのは一方的な暴力だった。


 ニヤニヤ笑いながら近づいてきた軽装の男を二人蹴り飛ばし、仲間を足止めする重りになったところで《催眠香》。

 焦りながらも太った男が呼び出した魔物を仕留め続け今に至る。


(……ち、本丸は別か)


 攫われた人物の姿はどこにもなかった。

 少なくともレイスの仲間は女性だと聞いている。だが今ここにいるのは不衛生な男ばかり。


 すっかり伸びてしまった男が三〇人。

 よくもまあこれだけ揃えたものだ。口と勢いだけはいい連中を、こんなに。


「親分このガキやばいですよ! もう魔物も……」

「んなことは分かってんだよ。いいからこっち付け! 裏を取らせるな!」


 そう言って、背中を合わせて退く二人の男。

 毛むくじゃらな巨体と、小柄ながらも丸々太った男。


(……無駄なことを)


 怯えているわけではない。目にはまだ無駄な投資を滾らせている。

 逆転の一瞬を待つように。洞窟の周りにいた連中は軒並み縛り上げられていることにも気付かずに。


「そんなことはいい。それより俺の質問に答えろ」

「はぁ? 質問だ? テメェちょっと強いからって調子乗って――」

「《凍結》」


 喚きたてるチビの左足を凍りつかせる。

 二人の男の顔が青ざめたのは決して寒さによるものだけではないだろう。

 力を込めたところで壊れはしない。男が手持ちの斧で叩こうと、容易く弾く。


「もう一度言う。俺の質問に答えろ」

「……言ってみろよ」


 凄みのある睨み。

 こちらが動じないと悟ったのかすぐに目つきを和らげる。それでも悪人層であることに変わりはないが。


「別に難しい質問をするつもりはない。……攫った人達の居所をどこへ閉じ込めた?」

「はっ、知らねぇな。どこでそんな話聞いたんだ? 言いがかりも大概にしやがれよ」

「……それがお前達の答えか?」

「当たり前だろ。こっちは何も知らねぇんだ。そんな理由で乗り込んで暴れたってのかよ」

「ならそこに落ちている青い髪はなんだ」

「なっ……!? んなわけあるか! つい昨日片づけたばっかり――」

「ほう?」

「しまっ……」


 こんな簡単な手口に引っかかるとは。

 どこにも髪の毛なんて落ちていない。聞いた特徴をそのまま言っただけ。


 だがこれで確定した。

 今回の事件に、少なからずこの男達が関与している。

 この場所が本丸でなくとも構わない。


「『今度こそ答えろ。攫った人達はどこだ』」


 情報源はすぐ目の前にいるのだから。

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