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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IX 今日も今日とて
321/691

第321話 魔法禁止令-⑪

(どうしよっかなー……さすがにやり過ぎたしなー……)


 引き際完全に間違えちゃいましたね。うっかりうっかり。

 もうちょっと恥ずかしがってるくらいのところで抑えたかったんですけど。


(上手いこといかないもんだなー……。こういう苦戦、好きじゃないんですけど)


 見てる分には楽しいんですけどね。主にあの人の反応。

 あんな取り乱し方、いつ振りですかね? 愉快愉快♪


(あの子達も分かりやすいくらい反応しちゃうから、ついブレーキ踏むとこ間違えちゃうんだよなー)


 あんな調子で、よく今の今まで変なのに引っかかりませんでしたね?

 あの人の距離の詰め方とか、他にも原因在りそうですけど。


「フ――ッ! フ――ッ!!」


 それでも、あんなワンサイドゲームとは比べる余地なしですね。さすがに。


 砂袋とか毒とか色々あったみたいですけど。一応。

 ブラフでもないのにあんな露骨な構え方するとか。経験なさすぎません?


「……今更ですけど。さすがにもうちょっと、身の程とかわきまえた方がよくないです? そんなことしてたら大火傷じゃ済みませんよ?」


 さすがにドン引きですよ。最初の三下未満な台詞以上に、各々のヘタレっぷりにドン引きですよ。


 ほんのちょっと脅しただけなのに、すーぐ腰抜かしちゃうんですもん。

 わざわざ突っかかって来たんですから、もうちょっとくらい根性とか見せません? 普通。


 人けのない森の中で、わざわざ七人がかりで取り囲んで。

 そのくせ一分持たないとか、面白みに欠けるどころじゃありませんよ?


 まさか、まさか下に思われちゃってました?


 魔力だけでもあんなに差があったのに、まさか格下認定されてたなんてことはないですよね?

 数的有利ってどんな状況もひっくり返せる魔法の言葉じゃないんですけどね?


(まあ、今回はおかげで早々に飛び出して来て呉れちゃったわけですけど。……それでもなんだかなー……)


 こんなに早く動く必要なかったかもしれないですね。これ。

 誰もなにもしなくても、勝手に空中分解しちゃいそうなレベルでしたもん。


 ちょっと腕の立つ一味にちょっかいを出して、そのまま仲良くブタ箱――とか、そういうタイプでしたね。これ。


 町で噂が流れてるからどんなのかと思えば。この前の魔物の群れより統率がないとか。

 そういう方向で予想を裏切られても、なんとも思えないんですけどね?


(……でも、ほっとかないんだろうなー。あの人)


 どうせこっそり調べようとか考えてたんでしょうね。きっと。


 いつの間にかそこそこ知り合いも増えたみたいですし?

 この町、すっかりあの人のテリトリーになっちゃってますし?


 探し物を頼まれた時みたいなノリで行きそうですし。あの人。


「どうしたらいいと思います? どうしようもない困ったちゃんへの対応」

「知らんわい」


 変態コスプレ集団ならともかく、ホンモノなら早々に動きますよねー。きっと。


「よく気付いたじゃねェか。こっちは気付かれないよう完全に気配隠してたってのによォ……?」

「……んー?」


 隠してた? 気配を? 気付かれないよう完璧に?


 木の枝を何回も踏み抜いて、茂みに肩を引っかけて。

 幹に身体を隠すだけ隠して、それ以外何にもやってなかったのに?


 冗談のセンス、笑えないくらいないんですけど。

 本気だったらそれはそれでこれっぽっちも笑えませんけど。


 なんです? この毛むくじゃら親父……って。


(……うっわ)


 やった。やってますよ。やっちゃってますよ。

 どこから引きずってきたんですかね? 可哀想に……


「うちの連中が世話になったろォ……? だから、ちょっとお礼してやろうと思ってなァ……」

「……へー……」


 あぁ、そうですか。そんなくだらない理由で、そういうことしちゃう系ですか。


「このチビが怪我するとこ、見たくねぇよなァ? ……ここまでいや、分かるだろ?」


 ゲっスい顔して、錆びたナイフなんて首につきつけたりして。


「どうした? さっさと捨てちまえよ。そんなもん。今がどういう状況か、分かってねェのか?」

「まっさかぁ。分かってますよぅ。さすがに単細胞な脳味噌なんかしてませんし?」

「へェ。じゃあ見せてもらおうじゃねェか。誠意ってやつをよォ……?」


 誠意。誠意ねー……。

 降伏しろだとかなんとか、どうせ馬鹿みたいな内容しか出てこないんでしょうけど。


「いいですけど、その前にぃ……ちょっとだけ、私の話も聞いてもらえます?」


 巻き込まれる側のことなんて考えられないから言えるんでしょうね。こんなこと。

 そういう概念を持ち合わせてないから分からないんだろうなー……これ。


「今さら命乞いってか。いいじゃねェか。好きにやってみろよ」

「あはっ、そんなことしませんよぅ。する必要がないんですもん」

「……ほォ?」


 してもらえると思ったんですかね。

 してもらえるだけの価値があるって、思ってたりしちゃうタイプですかね?


「……私ぃ、どうしても嫌いなものがあってぇー……」


 その人質の子を、どうやって連れて来たのか知りませんけど。


「特におたくらみたいなロクデナシとか、見てると反吐が出るんですよ」


 ――いくらなんでも、それはアウトですよね?






 ――何だ、なんだ、なんなんだ!?


 意味不明。理解不能。

 恐怖と共に押し寄せる疑問が解消されることはなく、鈍い衝撃が腕を揺さぶる。


 どこかの衛兵所から奪い取った大槌は、既に粉々。

 受け止めようと構えた時には、身体ごと気に叩きつけられていた。


(ふざけんな、ふざけんじゃねェぞ、このアマ……!)


 それもこれも、全てはオンナが持つ妙な武器のせい。


 大槌に負けず劣らずの大きさを持ちながら、木の枝のように軽々振り回せてしまう武器のせい。

 実力では負けていない。むしろ勝っている。武器が悪いから、武器が劣っているから、押されているだけ。


 そう思い込まなければ、心が折れてしまいそうだった。


 度重なる衝撃に両腕は悲鳴を上げ、今度は戦斧が砕かれる。

 それもまた、忙殺されていた衛兵所から無断で借りたものだった。


(武器、武器……! 早く、次の武器がねェと……!)


 ――子分が偶然にも見つけたオンナが持っていたのは、短いナイフだけだった。


 それを確認したのは、あっという間に捕らえられた情けない子分の面を拝んだ後。

 オンナが振り返ることなく声をかけてきた時には、まだナイフだけだった。


 顔は悪くなかった。むしろ上玉。

 噂になったことのない美人に、一度は心を躍らせた。


 防壁の外を歩くつもりとは思えない恰好。

 鎧は勿論、マントの一つも羽織っていない。防御性能など皆無。


 しかし、異様に重く、凄まじく迅い攻撃が全てを帳消しにしていた。


 人質に取った小僧はいない。

 明るくも冷徹な声でオンナが何かを言った時には、もう手元になかった。


「てめェ、どこのモンだ! ただじゃすまさねぇからなァ……!」

「あぁそうですか」

「~~ッ!」


 オンナは顔色一つ変えず冷静に、容赦なく刃を振るう。

 何を言っても、ほぼ無反応。


 ――馬鹿にしやがって。


 こんなことは許されない。

 なすすべなく一方的に叩き伏せられるなど、許されていい筈がない。


「――あッ……!?」


「そこまで。……これ以上が、本来の目的から逸脱するんじゃないのか?」


 ――最後に聞いたのは、落ち着きと焦りの混じった奇妙な男の声だった。


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