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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第30話 いざ、洞窟へ

 異形の絶叫。


 一〇年以上前に廃棄された施設。

 本来誰もいない筈の場所。

 しかしそこには忌々しい化け物がこれでもかと集結していた。


 紅い両目を光らせた黒紫の怪物。

 犬や虎、鳥に亀――動物類を模した姿。

 幾つかの生物の特徴を併せ持った魔獣。


 斬っても、潰しても、またどこからともなく湧いて出る。

 炎に閉ざして、氷で塞いで、囮を置いてもすぐ後続が現れる。


 包囲される前に蹴散らし、ひたすら奥を目指す。

 飛び越え、穴を開け、その度にまた異形に囲まれる。


 何匹倒したかも分からない。

 数えようと思ってもその瞬間に牙を剥いて襲い掛かってくる。


 駆けつけてくれた親友も顔に疲労の色を浮かべていた。

 突入してから一時間半。その半分以上を戦闘に費やしている。

 魔力の回復がなければ撤退せざるを得なかっただろう。身体の負荷など気にしてはいられない。


 本当は、こんな事のために来たわけではなかった。

 あいつの不調を治す手掛かりがここにある。そう聞かされた。

 時間の余裕なんて分からない。一瞬でも早く。そう思ってもまた邪魔が入る。


 ただただ、邪魔でしかなかった。






「ここ、だよね……?」

「他にそれっぽい場所なんてないしそうなんでしょ。まさかこんなに遠かったなんてね」

「リィルだけ休めばいいじゃないですか。まだこんな時間なんですから」

「誰も行かないなんて言ってないでしょ。まさかこのまま行く気?」


 話を聞いた三日後。

 とうとう見つけた洞窟の入り口は思った以上にこぢんまりとしたものだった。


 奥はそれなりに深い。複数の分岐があるのならもっと時間もかかるだろう。

 リィルの言う通り少し休憩をはさんだ方がいい。

 何せ森の中を抜けて来たばかりだ。魔物がいないからといって疲れないわけがない。


「中は真っ暗だし、休める場所なんてないと思った方がいいわよ。今日は軽く覗くだけにした方がいいんじゃない?」

「だろうな。奥まで行く時間は多分ない」


 ユッカやリィルに相談しながら準備を整え町を出たのが昨日のこと。


 地図に従って街道を半日進み、休憩を挟んで森へ。

 木々の隙間を縫うように奥を目指し、途中の開けた地点で昨日は一泊。

 静かな夜が明けた今日。襲撃のない自然の中を進んでいった。

 程よい木漏れ日と優しく肌を撫でるような風。気分はピクニックに近かった。

 やがて現れた緩やかな傾斜を上り、この場所に辿り着いたのが数分前。


「だったらキリハさんの魔法で調べたらいいじゃないですか。ほら、あの小さな鳥みたいな」

「鳥? あんた使い魔まで呼べるの?」

「違います魔法です。枝を鳥にして、目の代わりにするんですよ」

「今はユッカに聞いてない。あとわけ分かんなくなるから止めてその説明」


 概ね間違ってはいない。

 とはいえさすがに目の代わりとまでは呼べないだろう。予め命令しておいた内容を実行するだけだ。

 ある程度なら抽象的な内容でも機能する。当然その分、見落とすリスクも大きくなってしまうのだが。


 あの魔法に関しては効率化も難しい。

 そういう魔法として作成されたものをほぼそのまま利用している。

 魔法自体への理解も一、二を争うレベルで浅いと言っていい。手探りで習得した《魔力剣》とはわけが違う。


「だから――」

「ちょっと待って、ユッカちゃん」


 案としては魅力的。

 ただしそれは、今回のような状況でなければの話だ。


「今回、そういうのは無しにしてほしいの。ちゃんと自分で見ながら一番奥に行ってみたいから」

「……はい?」

「ご、ごめんね。言うのが遅くなっちゃって。えっと、怒ってる……?」

「別にそれはいいですけど。え、本気で行ってます?」

「うん。昨日キリハと相談もしたんだけど、頼っちゃったら結局いつもと同じだと思うの。それじゃ意味がないかなって」


 念のために見張りをしていた時の話。アイシャから『あまり魔法を使わないで』と言われた。

 聞かされてすぐはもちろん驚いた。だが落ち着いて考えてみるとその理由も分からなくもない。


「む、無理に合わせてくれなくていいからね? 私のわがままだし、時間も――」

「いいですよ」

「……へ?」

「だから、そうしようって言ってるんです。いいじゃないですか。キリハさんの魔法なし。その方がしっかりとやれそうですし」


 誰もそこまでは言ってない。

 不正か抜け穴のような扱いをされるは心外だが、俺にとっても備えにはなるだろう。

 魔法を封じる何かを持ち出す相手がこちらにいない保証はない。


「でもそれならわたしの言うことも聞いてもらいますからね。ストラに来るまであちこち行ってきましたから」

「うん、お願い。頼りにしてるね」


 それはそうだ。

 特に俺は冒険者になって日が浅い。逆にこの中でそういう経験が一番豊富なのはユッカだろう。

 力任せで解決できる話ばかりではない。


「……まあ、真に受けない方がいいこともあるけど」

「な、なんですか。まるでわたしが変なこと言うみたいに言わないでくださいよ!」

「その通りじゃないの。薬花を集める時だって器用に生えてない場所ばっかり行って……まさか忘れたなんて言わないわよね?」


 そして全く別の場所で見つかった、と。

 やはりあの方法が一番早いように思える。初心者が気軽に使える方法ではないのが難点か。


「あれはたまたまですー! そんな昔の話持ち出さなくてもいいじゃないですか!」

「じゃあ言ってあげましょうか? あんたが言う『最近』のことで」

「うっ……」


 他にも何かあるらしい。それも俺達が知らない何かが。

 ユッカがフルトを発つ前の話だろう。是非聞いてみたいところだがひとまずそれは後回し。


「それだけ元気があるなら大丈夫そうだな。下見も兼ねて軽く行ってみようか。とりあえず明かりを――」

「ちょっと待ちなさい」


 魔力を集めた右手をリィルに掴まれる。

 いきなり何を。一瞬浮かんだそんな疑問もたちまち溜めた魔力と共に霧散した。


「……すまない。いつものクセでつい」

「気を付けてよね。攻撃魔法まで使うなとは言わないから」


 馬鹿か。本当に馬鹿か俺は。

 ついさっきまで自分で考えていたというのに。鳥頭か。


「キリハさん、普通に手で魔物くらい倒せそうですけどね」

「あははは……さすがにキリハでもそれは無理だと思うよ? ね?」

「やってみないことには」

「試さなくていいから」


 サイブル辺りなら確実にやれる。

 問題は四肢を引き千切るような残虐ファイトが開幕してしまうことくらい。致命的だ。


「じゃ、今度こそ行くわよ。ユッカも早く明かり出して」

「リィルが仕切らないでくださいよっ。あ、キリハさんとアイシャはまだ残しておいてくださいね?」


 アイシャと頷き、念のためウェストポーチの中を確認しておく。

 ユッカ達のアドバイスに従って用意した《魔灯晶まとうしょう》。


 見た目は豆粒サイズの小さな結晶。

 魔力を込めて光らせるという、単純かつ分かりやすい便利な一品。

 赤や青、他にも種類はかなり豊富のようだった。


「わっ、きれい……」

「やっぱり最初見たらそうなるわよね? ほらユッカ、だから言ったでしょ?」

「またその話ですか!? ほんとさっきから……あっ。ちょっと待ってください。ね、キリハさん。キリハさんは違いますよね、ね?」

「答える前にそう思った根拠を聞かせてもらおうか」

「それは、えっと……キリハさんだから?」

「「理由になってない(じゃないの)」」


 光らせる範囲に限りはある。

 はっきり見えるのはおよそ五メートル。その先は視力次第。

 先の地点に設置するのも難しいだろう。投げても落下の衝撃で最悪壊れる。


 だが最初に少量注ぎ込むだけで暫く光り続けるそうだ。

 消耗品のため随時買い替える必要はある。嵩張らない事を考えると数個ストックしておくこともできるだろう。


「いいから奥に行くわよ。別にあんたがそんな風に考えるなんて思ってないから」

「そう言ってもらえると助かる。まあ、あの手の光を見慣れているのは間違いないが」

「ほらー」

「なんであんたが勝ち誇ってるのよ」


 見慣れているとも。

 敵味方が入り乱れている状況など珍しいものではなかった。

 そんな中で魔法が乱射されるものだからそれはもう派手な花火が出来上がる。


「あ、一応忠告。足元には気を付けなさいよね。何が落ちてるか分からにゃあっ!?」

「なにやってるんですか自分で言いながら。キリハさん、ナイスキャッチです」

「手が届くところでよかった。リィル、どこか痛むところは?」

「な、ないわよ。……ありがと」


 咄嗟に手を掴んでしまったからそこが不安だった。

 まだすぐに引き返せる距離。今回は杞憂に終わったが無理をする必要もない。


「この段差のせいかな? 近くに落ちてるものもないし……」

「ですね。にしてもなんですか今の声。ニャールーみたいな声でしたよ。ねえ?」

「……忘れなさいよ」

「えー? いいじゃないですか別に。ほらもう一回やってみてくださいよ『にゃあ』って」

「わ・す・れ・な・さ・い!!」


 確かに可愛い声だった。

 とはいえそんなことを言おうものならますますリィルの顔が赤くなってしまうだろう。


「あんたも! 分かった!?」


 その言葉には全力で頷くしかなかった。


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