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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第29話 特異な性質

「誠に申し訳ない。年甲斐もなく興奮してしまった」

「「「…………」」」


 いかにも態度で謝罪の言葉を告げる支部長。

 制服をしっかり着込み、洒落たネクタイをつけた姿だけを見ればさぞ立派な人だと思ったことだろう。


 あの後も血走った目で奇声としか言いようのない音を発していたのだ。今更そんな目で見ることはできない。

 取り繕おうとする姿がある意味気の毒に思えてしまう。

 頭を抱えているルークさんにこの後の事を全てお願い(まるなげ)してしまいたい。逆に支部長に帰ってもらってもいい。


 どうなっているんだこの町は。どう考えても手に負えない問題児じゃないかこの支部長。

 実力は高いのだろう。それは分かる。だからといってこの悪癖を放置していい理由にはならない。


「しかし本当に驚かされたぞキリハ君。氷や炎ではない魔力のままの武具というだけでも非常に特異なものだ。更に吸シュッ――んんッ! 吸収まで、できるとは」

「俺一人の力で作り上げたものではありませんから」


 謙遜ではなく、本当に。

 今明らかにまたスイッチが入りかけていたことには触れない。触れたくない。


「だが使い手もそう多くなかったのではないかね? そしてその中でも君は優秀な成績を収めていた筈だ」

「まさか。あの頃はもう俺以外の習得者が事実上いない状態で、優劣なんて誰も考えていませんでしたよ」

「ほう……それはまた、何とも奇妙な」

「またまた、ご冗談を」


 概要は把握しているくせに。あの魔法が抱える致命的な欠陥も。


「支部長もお気づきの通り、あの魔法はなりそこないの状態を維持しているようなもの。逆に、そうでなければ意味がないんです」

「完全に固定する唯一の特徴を潰してしまう、か」

「さすがです。その調整を行いかつ継続的に魔力を供給し、戦闘を行う……かけた労力に見合う結果が得られないんですよ。あの魔法は」

「だが君はその魔法を選んだ」

「俺の場合、魔力の消費が欠点たり得なかったので」


 加えて適正の問題もある。親友も『どうにも合わない』と言ってそれ以上この魔法を追い求めはしなかった。

 実際には発案者と俺以外の習得者もいたと聞いている。

 だがそれも全体で見ればごく僅か。結局、実戦への投入は断念したそうだ。


「さっきからなんの話してるんですかあの人達……アイシャは分かります?」

「ぜ、全然……リィルちゃんはどう?」

「知らないわよ。魔力の剣なんて見たことないし」

「キリハさんの魔法ですよ。昨日話したじゃないですか」

「直接見たって言わないでしょそれ」


 普段使っている《魔力剣》が設計者のそれと全く同一とは思えない。

 何せあの中では誰よりも詳しいであろう人物に直接そう言われたのだから。

 俺は俺の、その人はその人の。そういうものだと思っている。


「やはり魔力の……そしてその結果、多様な属性の魔法を得るに至ったのだな。理解しているかね? 複数の属性を同等以上に扱うのがいかに困難か」

「それはさすがに。古郷でもやはり特化派の方が圧倒的に多かったので」

「ならよい。君の事だ。他にも特異な魔法を持っているのだろうな」

「買い被り過ぎですよ」


 そういう意味では特化できるだけの何かがなかった、とも言える。

 強いて上げるのなら炎。全てのきっかけになった『あの日』、初めて見た魔法がそれだった。


「しかしやはりあの魔法……《魔力剣》は実に、実にいいものだ。更なる応用も可能と思うと……フフ……想像しただけで興奮を抑えられそうにない」


 ……たとえ変人でも上官。たとえ変人でも上官。たとえ変人でも上官……


 ずっと言い聞かせでもしないと色々な意味で耐えられそうにない。何故話している途中で身震いを。


 これで魔法に異様な執着を見せるだけなら他に対応のしようもあったと思う。

 あえて話に付き合うか、逆に一切関わらないか。


「調査はいいんですか支部長。折角キリハ君達に来てもらってるのに」

「もちろん分かっているよ。ただ――」

「支部長の魔法で感知できなかったのなら本当に何もないでしょうね」


 しかしこの人の場合、それだけではなかった。

 ルークさんがあんなことを言った理由も今なら分かる。

 派手に叫び回る一方で探査魔法を器用に広げていたのだ。それも簡単には悟られないよう、微弱なものを


「支部長……」

「待ちたまえルーク。確かに協会としての役目は重要だろう。だが私にとっては彼の魔法も同様に、いやそれ以上に優先せねばならんのだ」

「そこはせめて同様で抑えていただけませんか」


 とうとう声に出して言ってしまった。

 顔を合わせてからまだ一時間も経っていない。その僅かな時間でこうも印象を引っ掻き回されるとは。


 少なくとも安全のための事後調査と秤にかけていいものではない。

 それができてしまうだけの力を持っていたのは世間にとって幸運か、それとも不幸か。

 どちらも事実だろう。もっと言えば後者の比率がやや大きめ。


「何を言うか! どちらかを捨てる事などできる筈がない! もう少し自覚したまえ。その魔法がいかに、いかに珍しいかを!」

「だからって一気に済ませようとしないでください」


 格好をつけて言うような理由ではない。

 業務すら放棄するようならとっくの昔に支部長の座から引きずり降ろされていただろう。

 逆に、両立できてしまうために厄介度合いが増してしまっているとも言える。


「良いではないか。安全を確認し、かつ私は知りたかった事を知る。誰も困りはしないのだから」

「それ、キリハ君達がただ巻き込まれただけになりますよ?」

「いえ、後で追い回されるよりは」


 先に調査を進めていたらほぼ確実に支部長の本性をどこかで目の当たりにしただろう。

 その時俺がどういう行動に出るか。逃亡一択だ。急用を思い出したとでも言い訳して。


「さすがにそこまではせんよ。君が支部に来たら私の元へ連れて来るよう通達はしておくが」

「キリハ君が出て行ったらどうするんですか。損失は支部長が埋める事になりますよね」

「何、キリハ君とていつまでも同じ町に留まりはせんよ。去る者がいれば新たにやってくる者もいる」

「え……」


 口は災いの元。

 そんな言葉はあるが、他人が無自覚に地雷を踏み抜くのを止めるのは難しい。

 今回のような話は特に。アイシャに変な誤解をさせないでください。


「ほ、本当? そうなのキリハ?」

「一時的という意味ならおそらく。ほら、アイシャも一昨日ルーラに泊まっただろう? ああいうことはこれからもあると思う」

「あ、そっか……そうだよね。それなら私も……」


 おそらくその機会は多いだろう。どうしても難しいという場合を除けば。

 多少は遠出もしたい。だが焦るようなことでもない。今は期限もないのだから。


「とりあえず戻りましょうか、支部長。調査が済んだのならキリハ君達を拘束する理由もないですから。余計な心配をかけるだけですよ」

「ま、待ちたまえ。私はまだ彼の魔法について聞きたい事があるのだ。せめてあと一つ――」

「スケジュール、詰まってるんじゃないですか? 残った時間で一気に片付けるのはなしですよ」

「……先手を打たれてしまったか」


 支部の上司と部下。そしてそれ以外の二人の繋がり。

 具体的には分からない。根拠もルークさんの態度だけ。

 普段よりと遠慮がなかった。リットに対する程ではない。が、近い何か。


「ユッカちゃんはどうだったの? 町を出ようって思ったきっかけとか」

「きっかけっていうか……いつか出ようってずっと思ってたんですよ。その話をするたびに止められて――」

「結局、相談もせずに飛び出したのよね」

「だって絶対止めるじゃないですか!」

「あんたが無茶な計画建てるからよ!」

「はいストップ」


 続きは宿に戻ってからやってくれ。

 ユッカの計画に関してはリィルを支持したいが、ひとまず黙る。


「とにかくだいたいそんな感じでしたよ。あんまり参考になりませんねこれ」

「何よ今更。そう思ってるならちゃんと一回戻りなさいよ」

「えー……」

「そんなに嫌そうな顔しなくても……」

「いいわよ別に。いつものことだから。それより今はあんたの話」


 両親に憎しみを抱いているならいざ知らず、意地になっているようにしか見えない。

 それらしい素振りは見せていたが、やはり真意は分からないままだ。


「ユッカみたいになるから焦らない方がいいわよ? あたしたちも一回どこかで戻るつもりだし」

「ほ、ほんとに戻るの? どうしても?」

「そんな顔しないでよ。大丈夫そうならまた来るつもり。それにフルトとストラなら行き来できる距離じゃない? 遊びに来てくれたら案内くらいするわよ?」

「どこにつれていく気ですか。なにもないのに」

「あ、あるわよ! 少しくらい! あんたよくそこまで言えるわね?」

「だって……それならアーコに行きますよ、わたし」

「それはまあ……そうだけど」


 確か、アイシャの父親が働いているとか。

 話は何度か聞いたが会った事はない。そう簡単に戻れる仕事ではないのだろう。


 都市の規模はおそらくかなりのもの。それこそ余裕ができたら一度は行ってみたいものだ。


「すまないキリハ君。最後にもう一つだけ」


 この支部長もその頃には落ち着いてくれないだろうか。まあ無理だろう。

 それにしても、まだ何か?


「冒険者としての経験が欲しい。そう思った事はないかね?」

「それは勿論……ですが、何故急に?」

「迷惑を掛けてしまったお詫びのプレゼントだ。どう使うかは君が好きに決めるといい」


 プレゼント。そう言われても警戒心が先行してしまう。

 あんな姿を見せられた後だ。何か突拍子のない事を言い出してもおかしくない。さすがに、さすがにないと思いたいが。


 それに冒険者としての経験という表現も引っかかる。色々な意味で。

 一番困るのは依頼。普段であればありがたいが今は状況が状況だ。

 協会から依頼を特別に回されている、なんて話になればトラブルに発展しかねない。


「第一門から向かって右の森……その奥に小さな洞窟があるのは知っているかね?」

「いえ……アイシャは?」

「ううん、知らない。森の奥には行かないようにしてたから」


 となると、相当奥。

 おそらく日帰りできるような距離ではない。森を突き抜けるより街道から回った方が早そうだ。

 そんな場所があるなら早く教えてもらえば。結果的になかったとはいえ、ライザが利用していた可能性も十分あった。


「無理もない。洞窟はかなり離れているからな。森を抜けることも考えると……うむ、片道で二日は見ておいた方がいい」

「それは大袈裟です。でも実際、かなり遠いよ。この辺りで知ってる人はそんなに多くないと思う」


 そんな場所を二人は知っている、と。

 以前、何かの形で利用する機会があったのだろう。いや、これ以上はただの妄想か。


「おそらく魔物が出ることはないだろう。他でもない君達が倒してくれたからな。だが、その最奥部に向かうだけでも経験になるのではないかね?」

「……そんな話を、何故?」

「言っただろう。お詫びだと」


 おそらくそれだけではない。

 魅力的な話だと感じたのは事実。向かってみようという気持ちの方が強い。


 一方、直感は警鐘を鳴らしていた。万全の備えで臨むべきだと。

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