表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
28/691

第28話 情熱のままに

「んっ、ふ――」


 三日ぶりにストラで迎えた朝。

 遠くの自然を眺めながら円形の防壁の更に外側を走る。


 ルーラから戻る間も特に問題と呼べるような出来事はなかった。

 唯一心配だったのはあの詐欺商人の仲間。

 その日の内に伝えておいたが今のところ動きはない。仕掛けておいた罠もそのままだった。

 警戒してもし過ぎることはない。あんなやり口で表通りの建物を借りられるとは思えなかった。


 こうして走っている間も視線は感じない。

 もっとも今日に限っては一人、見知った相手が来ていたのだが。


「うわ、ほんとにこんな時間から……」

「『うわ』とはなんだ『うわ』とは。俺以外にもいるじゃないか。走り込みをしている人は」

「あんな距離を走ってるのはキリハさんだけですけどね」


 余計なお世話だ。

 他にやる事もない。多少多く走るくらいでないと体力も取り戻せない。


「まあいいですそれは。今日はお願いしたいことがあって来ただけですから」

「リィルを止めてほしいと言われても俺には無理だ。二人でしっかり相談してくれ」

「そうなんです聞いてくださいよ! 昨日の夜なんか――じゃなくて!」


 仲の良いことで。

 二人部屋に変えると言っていたから、やはり本気で嫌がっているわけではないのだろう。

 時間が経てば自然と落ち着いていくものだ。いつになるかはその人次第。


「模擬戦の相手になってくれません? あと、気になるところがあったら教えてもらいたいなー、なんて」

「そういうことなら幾らでも。時間はどうする? アイシャが魔力を落ち着けている間辺りが無難だと思うが……」

「朝で。あの人みたいになりたくないですし」

「あれは不意打ちを仕掛けた上に後の対応が悪かった結果だと何度言えば……」


 しかもわざと。

 勿論何から何までというわけではない。


 とはいえさすがにリットもあそこまで引き摺るのは想定外だったのか、俺達に気付いた上で声をかけないことも珍しくなかった。

 それこそ朝、こういう時間に会うくらい。そのときは話もする。

 関係改善はあまり考えていないことも聞いた。少なくとも当面はこの状態が続くのだろう。


「とにかく朝にしてください。アイシャにも心配されますよ?」

「……かもな。確かにそれがいい。どうせなら今から始めるか?」

「なに言ってるんですかさっきまで走ってたじゃないですか。……さっきまで……あ、やっぱり始めましょうすぐに」

「今何を考えた?」


 この程度の消耗で戦えなくなるとでも思われているのだろうか。


「なんでもないです。なんでも。まさかキリハさん仲間を疑うんですか?」

「一度声に出してそれは無理がある」

「……忘れました」


 嘘だろう。どう見ても嘘だ。

 こんな状況でなくとも目を逸らしながら言われては疑ってしまうだろう。


「まあいい。先に言い出したのは俺だ。すぐに始めよう。何、心配しなくても普段通りの力で相手になる」

「……ですよね」


 そんな複雑そうな顔をしなくてもいいじゃないか。






「再調査を?」


 支部に集まって早々呼び出されたかと思えば、そんな話が飛び出した。


 対象は当然、以前の森。具体的にはカシュルが撒かれていた地点とルークさん達が閉じ込められていた場所。

 カシュルを使った理由が分かっていない。その辺りもあるのだろう。


「そうそう。時間差のトラップが仕掛けられているかもって意見がまだどうしても強いから。実際ないとまでは言いきれない状況なんだよ。まだ」

「それで何かあった時のために俺も向かうように、と」

「ごめんよ。ルーラに行ってもらったばっかりなのに」

「いえ、そんな。昨日もしっくり休みましたから」


 帰った直後に来いと言われてもおそらく平気だった。

 昨日のことを思えば、身体が温まって丁度いいくらいだったと思う。アイシャから止められていなければ。


「そういえば向こうで詐欺を止めたんだって? 向こうの支部から連絡が来たよ。よく気付いたね?」

「手口が露骨だったんですよ。向こうが変な力を使っていたらまた違っていたかもしれません」


 たとえば、防ぎようがないほど強い力で相手の認識を弄るとか。

 半端な力では、耐性のある相手にかえって疑われることになるが。


 いずれにせよ、今回の件はどちらにも当てはまらない。


 何の力も込められていないことはすぐに分かった。

 少し調べれば分かるようなものが見逃されていた。


 あの商人が催眠系の力を使っていたわけでもない。

 本当に、今までどうやって騙していたのやら。


 難癖をつけられそうになる度に逃げていたのか?


「……そんな分かりやすい嘘にだまされそうになった人もいますけどね」

「何よ。走ったあとなら勝てるかもなんて考えたくせに」

「今は関係ないからいいんですー」


 ……後ろで何をやっているんだ。

 ルークさんが気にしていなくて本当によかった。このくらいの事なら冒険者同士でよくあるのかもしれない。


「ちなみに向かうメンバーはどうなっているんですか? 協会の方が来られるのは想像がつきますけど」

「そうだね。僕も行く事になってる。それから――」

「私が同行する」


 ルークさんの声を遮って現れたのは、恰幅の良い中年の男だった。


 他の職員の制服にはない金の翼のエンブレム。

 威厳のある佇まい。

 何より、ルークさんを上回る魔力。


 間違いなく只者ではない。支部のトップか、もしかしたらそれ以上。


「支部長? 予定の時間はまだ……」

「思いのほか仕事が早く終わったのでな。私が遅れては示しがつかん」


 支部長。この人が。

 言われて妙に納得してしまった。そう思わせる貫禄があった。


「初めまして、キリハ君。君の話はルーク達から聞いているよ。先日はご苦労だった」

「ありがとうございます」


 余計な言葉は要らない。ただ深く頭を下げる。


「アイシャ君とユッカ君だったな。魔物の群れを掃討したと。支部を代表して感謝する」

「い、いえっ、私はただ、教えてもらったとおりにやっただけで……!」

「わ、わたしなんてほとんど……!」

「はは、謙遜しなくていい。協会はいつだって人手不足だからな」


 それはあるかもしれない。さすがに前回の討伐隊を町ごとに組めるようになればとまでは思わないが。


「ところでキリハ君。君は何やら変わった魔法を使うという話を聞いたのだが……本当なのかね? よければ少し――」

「支部長、時間が」

「む、そうだったな。すまない諸君。早速向かおう。必要なものはこちらで用意してある」


 魔物は出ないまま。受けるとしても採取のみ。断る理由もなかった。

 魔法練習の時間は十分確保できるだろう。

 既に支部長も準備は終わっていたらしく、そのまま門を目指す運びとなった。


「(あの、ルークさん。ちょっと)」

「(今回の調査に支部長が来た理由が気になる、ってところかな?)」

「(仰る通りです。何か特別な知識を持っておられるのは分かりますが……)」


 それにしたって他に何かあるだろう。

 支部のトップが出てきてもいいものなのか。出るにしては護衛の数が少ない。


「(大体そんな感じ。それにあの人は実力もあるから。現役の中にもなかなかいないんじゃないかな。知識と実力を両方備えている人なんて)」

「(それを言うならルークさんも。将来的には支部長にも並ぶんじゃないですか?)」

「(買い被り過ぎだよ。もう随分前に引退したしね)」


 その表情に後悔は感じられなかった。

 おそらく、活動継続の選択肢が潰されたわけではない。復帰してもいいところまで行ける筈。

 その理由を追求するつもりはない。ただ、それだけの力を持っているという事実を忘れるわけにはいかない。


 だからこそルーラでは驚かされた。てっきり支部にはそういう人物が何人かいるものだとばかり思っていたのだ。

 町の規模の問題か、風習か……どちらにせよ今の状況があの町にとって最善なのだろう。


「ルークとばかり話さずにこちらへ来たまえ。君の魔法について少し話をしようではないか」


 余計な思考が巡り始めた頃、支部長に手招きされた。

 それが何をもたらすのかも知らず、そちらに向かう。


「魔法と言うと……《魔力剣》等でしょうか?」

「そう。それだ。自在に形を変え、時に炎や水を纏うと聞いたが本当かね?」


 随分目の良い野次馬がいたらしい。

 あの状況でそんなものを悠長に見ていられるとは。

 特に変形。こちらでは数え切れる程しか使っていない。


 それにしても気のせいだろうか。支部長の鼻息が荒い。

 まるで興奮する獣。およそ支部の長に向けるものではないが、そうとしか言えなかった。


「槍や斧であればある程度は。炎と言うと……《薙炎》のような?」

「成程、《薙炎》。……やはり炎の魔法か。しかし解けばたちまち刃に戻る……興味深い。他にはないかね。何か」

「ほ、他ですか? ご存知のこと以外となると……魔法の一部を分解して吸収するくらい――」

「ほう! その話を是非詳しく。無論報酬は渡す。好きな額を言いたまえ」

「そういう話ではなかったと思うのですが」


 何故こんなことに。

 躊躇いがない。なさ過ぎる。自身の知的探求心のためとはいえそこまでやるか。

 目が本気だった。以前の報酬と同額を提示しても即答しそうなくらいには。


「些末な問題だよ。それより君の魔法だ。分解して強度を増すものなのかね? 属性の付与も君の手で行える筈」

「いえそういう目的ではなく――」

「確か吸収すると言ったな。まさか君の体内にではないだろう? 維持コストのためと考えても非効率……それとも何か私も知らない理論が組み込まれているのかね!?」


 話を聞いてもらえませんか。

 正直もう耳を手で覆ってしまいたい。それとも支部長の口を塞ぐか。

 さっきまで三人で仲良く談笑していたアイシャ達も支部長の勢いにすっかり呑まれていた。


「キリハ君それ以上は――」

「続けたまえ」


 ルークさんの制止もお構いなし。それどころか鼻の先まで顔を近づけてくる。


「しかし、今ルークさんが……」

「続けたまえ。さあ、さあ!」


 そこでようやく理解した。

 何故俺が調査に呼ばれたのか。何故支部長が直接向かうことになったのか。

 何より、支部長の人となりを。


 最初の説明も実際嘘ではないと思う。あくまで表向きの、公的な理由として。

 だが俺である必要はない。他にも適任はいた筈だ。


 そこでもう一つ、俺に会うという支部長の個人な動機が浮上する。

 そう。支部長はただ俺から話を聞くためにこの状況を作り上げたのだ。


「説明が難しいのであれば実演を――そうだ、実演だ! 私へ向けても構わん! むしろ私に撃て! 君の魔法をこの身体で感じたいのだ!!」


 その身に宿す、変態的にも思える程に並外れた情熱のままに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >もっと言えば、防ぎ切れレベルの何かを。  防ぎ切れレベル?
2023/03/17 17:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ