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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第27話 再会した二人

「「「…………」」」


 気まずい。


 近くに落ち着けるような場所もなく、アイシャが見つけてくれたという宿へ。

 そこにも冒険者の姿は多くなかった。一階の食堂にいるのも俺達を含めて十数人。

 おかげで人目を集め過ぎることはない。ないのだが、嫌でも目立つ。


 やや早い手続きを済ませたのが十五分前の事。

 それからずっとこんな状況が続けばトラブルが疑われるのも当然だ。


「(ど、どうしようキリハ? あの子、絶対に怒ってるよね?)」

「(ユッカに対してな。向こうがあんな事を言いたくなる気持ちも正直分かる)」

「(それは私も、ちょっとだけ……)」


 これまでの話を聞けば猶更。


 彼女――リィル曰く、ユッカは飛び出すような形で故郷を旅立ったらしい。

 連絡を待つことにした両親の元へ手紙の一つも届かないまま一〇日。

 そこでとうとう痺れを切らしたリィルが追って町を出て、今に至るのだそうだ。


「……いつまで黙ってるつもり?」

「そういうリィルだってそうだったじゃないですか」

「あたしはあんたが喋るのを待ってたんだけど」

「わたしもですよ。また長い話が始まると思って」


 何故そこで余計な一言を。

 案の定、向かいに座る少女の目つきが険しくなる。

 傍から見れば三対一。だが実際は同郷出身の二名の睨み合い。


「ま、まあまあ二人とも……」

「さっきちゃんと説明したでしょ。別にあたしだって無理やり連れて帰ろうなんて思ってないわよ。だからちょっとだけ協力してくれない?」

「なに勝手なこと言ってるんですか。……アイシャはわたしの味方ですよね? ね?」


 そんな圧をかけるような言い方をしなくても。

 俺個人としては短いメッセージを送ればいいと思う。思うのだが、それを言えば確実に状況が悪化してしまう。


「え、えっと……」

「さっきの話なら気にしなくていいですよ。たった一〇日で追いかけるリィルが変わってるだけですし」

「何よその言い方。だったらもう少し何かちゃんとしたメッセージを残しておきなさいよ」


 変わっている、だろうか?

 あくまで、あくまで俺の感覚だが、唐突に知り合いとの連絡が途絶えたら探し回る。

 一歩間違えばどんな事態になるか分からない。『あの時』も、組織との関係があったから大事に至らなかっただけだ。


「書いておいたじゃないですか。『いってきます』って」

「それだけね。本っ当に一言だけだったわよね。それ以外よそれ以外。行先も」

「決まってないのに書けませんよ。なに言ってるんですか」

「決めてから行きなさいよ!?」

「開き直るんじゃない」


 思わず声を出してしまった。

 おおよその計画も立てずに飛び出したのか。正気か。

 行った町で他の冒険者を捕まえ、近くの町まで。それを繰り返していたと……武者修行の旅にでも憧れていたのだろうか。


「な、なんですかキリハさんまで。まさかリィルの肩を持つ気ですか!?」

「それはそれ、これはこれ。まさかほとんど計画が立っていなかったとは……」

「た、立ててましたよ! 魔物を倒しながら町を回るって!」

「それを計画したとは言わない」


 行き当たりばったりと何が違うのだろう?

 言われてみれば確かにそれらしい素振りは見せていた。

 頼みの権利が残っているとはいえ急いでいるならストラに留まれる筈がない。


「ほら見なさいよ。ユッカあんた、仲間にも言われてるじゃない」

「なんですか急に! キリハさんが味方になったからって!」

「ち・が・う・わ・よ! さっきちょっと助けてもらったけどそれは今関係ないでしょ!?」


 あっ……


「なんの話ですかそれ。わたし聞いてませんけど」

「だからさっき――…………なんでもない」

「さっき?」


 気付いたところで既に時遅し。

 ユッカもすっかりそちらの話を問い詰める気になっていた。


「私も気になってたの。どうしてキリハと……?」

「あ、いや、だから……」


 一度口から出た言葉を消し去る便利な力はない。記憶を直接弄る以外。

 こうなってしまったらもう誤魔化すのは絶望的。最低限話した方が色々楽だろう。


「さっき大通りで怪しげな商品を売られそうになっていたから止めさせてもらった。さっき警備隊の事情聴取が終わったばかりだったんだよ」

「怪しげな? そんなもの目立つ場所で売りませんよ普通。まさかキリハさんどこかの裏道に……」

「迷ってない。大通りを真っ直ぐ進むだけなのに道を間違えるわけがないだろう?」

「そういうこと言う人に限って迷うんですよ」


 誰がフラグ建築士だ。

 特にこの町の場合、活動圏もかなり狭まる。それこそ真っ直ぐ進めば何も問題ない。おそらく。


「で、なんでしたっけ? 怪しげな商品? そんなもの買わされそうになってたんですかリィル。あんなこと言っておいて」

「う、うるさいわね。あたしだって分かってるわよ! 明らかに怪しかったって!」


 自棄気味に叫ぶリィル。

 爆発寸前の羞恥心は本人の耳まで赤くし、さっきまでの微妙な空気感をたちまち吹き飛ばした。

 真面目な話、もっと悪質な手口に引っかかる前でよかったとも言える。これまでにも似たような経験があるのなら知らない。

 同郷の友人の動揺を見てか、ユッカも表情が緩む。

 その方向性に若干の問題があるように感じてしまったとしても。


「よかったですねーキリハさんがいて。リィルこそよくルーラまで着けましたね?」

「……あんたこそさっきからいい調子で色々言ってくれるわね……?」

「まあまあ。それよりあの話はどうする? ストラに行く理由もなくなったんじゃないか」


 多分これが彼女達なりのコミュニケーションなのだろう。

 とはいえそれで睨み合いまで戻られては堪らない。今回は丁度いい別の話題もあった。


「ん、そういえばそうね。ユッカは見つかったわけだし……ちなみにだけど、あんたはどう思ってるわけ?」

「予定通りストラまで来てもらえたら、と。ユッカと積もる話もあるだろう?」

「えぇあるわよ。たっぷりと」

「……はい?」


 やたら『たっぷり』というフレーズに力を込めたリィルの答え。

 そういうことなら話は決まりだ。予定に変更はなし。

 ユッカの反対は承知の上。口では色々言いつつも、いつも以上に口元が緩んでいた。


 あと、これはただの余計なお世話でしかないのだが……このまま別れてもまた同じような手口に引っかかりそうな気がする。

 少なくともストラの表通りであればそんな心配はない。

 裏路地をくまなく探したところで見つかるかどうか。あそこはそんな町だ。


「あの、キリハさん? さっきからなんの話ですか? まさかとは思いますけど……」

「ああ。リィルにも一度ストラに来てもらおうと思って」

「ダメですムリです止めてください!! 聞いてましたよね? さっきの話、聞いてましたよね!?」

「さっきの?」


 心当たりがあり過ぎてどの話を指しているのかさっぱり。


「分からないふりしなくていいですから! アイシャもなにか言ってください!」

「え、駄目?」

「うっ……」


 問い返すアイシャは心底不思議といった様子だった。

 話を聞いている間もそう。『折角また会えたのに』と表情が物語っていた。


「う……ぅううううう~~!」


 唸らなくてもいいだろうに。

 素直になれないというのもまあ、分かる。昔は俺もそうだった。

 だからといって何もそこまで邪険にしなくていいじゃないか。そう思わずにはいられない。

 それを直接言っても否定されるだけだろう。ひとまず黙っておく。


「じゃあ、今度こそ決まりね。しばらくよろしく。ユッカも」

「えー…………」

「そ、そんなに嫌がらなくても……」


 時間が経てばさすがに多少は改善される筈。

 ユッカもきっと、あんな態度を続けても仕方がないとどこかでは思っている。


「いいわよ気にしなくて。それよりこんな時間になったことを謝らせて。えーっと……アイシャさん?」

「あ、アイシャでいいよ? 二人もそう呼んでくれてるから。これからよろしくね、リィルちゃん!」

「……ん、こっちこそ」


 案外、ストラに行ったきりで終わりはしないかもしれない。

 根拠はない。だが席を外したアイシャの背を見ながら、ふとそんな風に思った。

 俺達の行動次第では妄想から現実に変わることもあり得る。


「ありがとう、話を受けてくれて」

「別に。あんたにお礼もしたかったし、丁度いいくらいよ」

「最近のユッカの様子も確認できる、か」

「……人の考え読まないでくれる?」


 さすがに今のは分かるだろう。他の誰でも。

 生憎そういった都合のいい魔法は持っていない。精々自白の強要程度だ。


「まあでも、正解。こんなに早く会えるとは思わなかったわ。あんたに会わなかったらどうなってたか……」

「さすがに大袈裟じゃないか、それは?」

「大袈裟にもなるわよ。偶然会った人と探してた相手が知り合いだったのよ? 普通ありえないでしょ、こんなの」


 言われてみればそれもそうか。

 ユッカがストラをすぐに去った可能性。他にも考え出すとキリがない。

 ただ、元を辿っていくとライザが引き起こした事件も少なからず影響している。それを思うと複雑なところだ。


「にしても本当に少ないのね。ユッカも合わせてたった三人じゃない。さっきはああ言ってたけど本当にこれでやっていけてる?」

「だから今のところはストラを拠点にしている。人集めは……ひとまず後回しだな」

「あたし見ながらそれ言う? ……まさかあんた、女の子にばっかり声かけてるんじゃないでしょうね?」

「それはない。断じて違う。ストラに戻れば同性の知り合いもそれなりにいる」

「……どうかしらね」


 完全に疑われていた。

 まだ三人。もっと極端な偏りも十分に起こるだろう。もう何人か増えても完全に均等な状況の方が珍しいと思う。


「いますよ協会の人が。……協会の人が」

「二回言わなくてもいいじゃないの。まさか名前覚えてないとか言わないわよね?」

「そういうわけじゃないですけど……ちょっと、アイシャが」

「あの子が? どうしたのよ」

「すぐに分かりますよ。どうせ」

「わざわざ会わせようとするんじゃない」


 誰がどういう目に遭うのか考えた上でしてもらおうか、その発言は。

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