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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
II 歩み出すリヴァイバー
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第25話 漏らした一言

(あんなに聞かなくてもいいじゃないですか……)


 ストラを発った夜。

 就寝前、食事の際のやり取りをユッカは思い返していた。


(アイシャもお節介なんですから……いいじゃないですか別に。会わなくたって)


 双方納得できる落としどころを見つけずに飛び出したという自覚は、ユッカにもあった。

 それどころか反対されたのを押し切ったようなもの。

 故郷に戻れば両親以上に幼馴染の少女から文句を言われると誰よりも理解していた。


(強くならなきゃいけないんですよ……わたしは……)


 それまでは帰らないつもりでいた。

 道標はない。試しに何度か他の冒険者と組んでもそれは変わらなかった。

 それどころか、変異種と遭遇したことで改めて実力の差を思い知らされた。

 今の自分が倒せる筈もない。どれだけ悔しくともそれは否定しようのない事実だったのだ。


(……やっと、見つかるかもしれないのに)


 だからこそ、驚かされた。

 変異種を複数体相手どりながら勝利を収めた少年の話を聞かされて。

 名前も分からない冒険者。

 探し回った末にようやく見つけたその人は、一度話を聞いた少年だった。


 最初は疑った。

 変身能力を見抜いていたとはいえ、圧倒的な力と呼べるほどのものとは思えなかったのだ。

 むしろ変わり者という印象の方が強かった。

 少なくともあの時点でユッカとキリハに関わりはない。

 そんな相手に討伐報酬を平然と。


(余裕だったにしても普通言いませんよね、あんなこと……)


 その信じがたい魔力に気付いたのはその日、別れる寸前。

 翌日の出来事によって期待は確信に変わった。


(キリハさんの話がもうちょっと参考になれば……)


 彼自身は言われる度に否定していたが、ユッカはユッカでキリハの言い分に納得していなかった。

 最終的に危険度の測定は不可能と判断された魔物の討伐。魔法強化の機構。

 上級の冒険者でさえ手に余るような事件。その話を聞かされても未だに底が見えないまま。


「――……これも違う。ただ縮小するだけでは何の意味も……やはり炎弾操作からもう一度――」


 そんなキリハが神妙な面持ちで魔力を集めては霧散させていた。

 ひっそりと。誰にも気付かれる事のないように。

 ユッカが興味を抱くのも当然だった。


 周囲への警戒が疎かになると考えたわけではない。

 ただ、意外だった。


(……今度はなにしてるんですか。あの人)


 独り言の内容を聞き取る事はできなかった。

 手元もよく見えない。だが呟きをもらす前、一瞬だけ彼女の目に短い刃のようなものが映った。


「まず一つ……ち、この程度の事でここまで魔力を持って行かれるのか」


 続けて炎弾。一見すると何の変哲もないもの。

 使っているところはユッカも見ていた。だからこそ何故あそこまでの表情を浮かべたのか分からなかったのだ。


「――ところでどうした? さっきから俺の方を見たりして。眠れないのか、ユッカ」

「……いつから気付いてたんですか」

「ほぼ最初から」


 気付かれたことへの驚きはなかった。

 この人であればその程度は造作もないだろう、と。


「で、なんなんですかそれ。炎で遊んでるようにしか見えないんですけど」

「そんなところだ。生成した炎弾を維持して思い通りに操る魔法と言えば伝わるだろう」

「普通に撃った方がいいですよね? 操作に使う魔力でもっと威力を上げるとか。いくら魔力が使い放題だからって」

「ああ、勿論。基本的にはそうだ。相手によってはそういう小回りの利く魔法が必要だったというだけで」


 そもそも発射した魔法の操作などできない。

 そう言いたい思いを抑えるべくユッカは頭の隅に追いやる。

 キリハの故郷が異常なのか、キリハを含むごく一部が異常なのか。

 根拠はない。だがそのどちらも間違いではないとユッカは考えていた。


「この前みたいに一気に倒せばいいじゃないですか」

「町の中に魔物が大勢発生したとしても?」

「はい?」


 例えば、こんな話がさも当然のように出てくる辺り。

 キリハはストラでの一件を指しているわけではない。それはユッカもすぐに分かった。


「言葉通りの意味だ。町のあちこちで魔物が徘徊しているにせよ、町諸共一掃するわけにはいかない」

「ないですよ。ないですってそんな状況」

「いいや、ライザと同じ手口で簡単に作り出せる。前回は運が良かっただけだ」

「簡単にって……」


 言われて、ユッカは考える。

 逆にそうでない状況とはどんなものかと。

 その答えは想像するだけでも恐ろしい光景だった。

 何より、キリハの言い方。少なくとも一度その状況を経験していなければ口にできる筈がない。


「……ほんと、どんなことでも対処できるって感じですね。町に被害出さないためだからって」

「まさか。出現を許した時点で後手に回ってしまっている。潰せば済む話じゃない」


 本当に、ただの取り締まりだったのだろうか?

 彼女に限らず、彼と接した人物が一度は抱いたであろう疑問。その感覚はユッカの中で強まる一方だった。


「……そんな大層な存在なら、俺がこの場所に来ることもなかっただろうしな」

(……え?)


 思わずユッカは耳を疑った。

 夜風に紛れた、囁くような一言。

 しかし当の本人は慌てず、小さな溜め息をつく。


「あの、今なんて……」

「悪い、独り言だ。忘れてくれ。俺は続きをやっているから好きにするといい。これ以上は何も言わない」


 釈然としないものをユッカの胸に残したまま。






 あの言葉はどう考えても余計だった。

 一晩明けて、ルーラが近付いてもやはりそう思う。

 その証拠に今もユッカは考え込んでいた。何を言っても逆効果にしかならないだろう。


「……昨日、ユッカちゃんと何かあった? 私でよかったら聞くよ?」

「俺が余計な事を言ってしまったせい、だろうな。ユッカは悪くないからそこだけは分かってほしい」

「だからって、キリハが全部悪いなんてことないと思うけど……」

「だといいんだがな」


 向こうがどう思っていることやら。

 思えば昨日は声をかけてきた時点で少し態度がおかしかったような気がする。

 原因はおそらく、幼馴染の話を掘り返し過ぎた事。


 あんな事態に繋がるかどうかを考えればユッカの反応も理解できる。

 アレと同等以上に悪辣な存在に目を付けられていない限り。

 実際、まずないだろう。俺の我儘のような部分もないとは言えない。


「荷物だけ届けたら少し別行動にする? 帰りもどこかで野宿することになりそうだし」

「それならいっそ宿を借りてしまおうか。アイナさんには迷惑をかけてしまうかもしれないが……」

「それなら大丈夫だと思うよ。昨日作り置きしておくって言ってたし」

「そういうことなら」


 無理をして今日再出発するくらいなら一度落ち着けた方がいい。

 アイシャはこういう経験も初めてだと言っていた。いや、さすがに余計な心配だろうか?


 そうこうしている内にルーラの外壁が木々の隙間からその顔を覗かせる。

 ストラのものと基本的な構造に差はないだろう。実際その予想は正しかった。


 門の傍には宿が集まり、少し奥には飲食店も僅かながら存在していた。

 もう一方、トレスに繋がる門の周りもおそらく同じ筈。


 残りは民家と、農耕地。

 町を正円に見立てた時、冒険者が利用できるのはその四分の一程度。

 その内の半分以上が協会へ向かうための道。両脇を見てもあるのは住人の家のみ。

 実際には町の八分の一か、それ以下だろう。

 必要以上に出歩く理由もない。別行動で気を付けるとしたらそこか。


「――はい、確認しました。ご苦労様です」


 やはり協会にも冒険者の姿はほとんどなかった。

 時間を考えればおかしな話ではない。ストラでもそうだった。

 しかし席数や受付の数を見る限り、大きくはない。


「――これで依頼は終わりっ。じゃあ後はさっき話してた感じで……集合はあの門でいいよね?」

「わたしはいいですけど……大丈夫ですか? 確かキリハさん、よく道に迷うって」

「迷ってない。まだ迷ってはいない。集合場所はそれで」


 この世界では。辛うじて。

 そこまで引き摺っているわけではないようで大いに結構。よくまあ容赦なく言ってくれたな。


「まだって、これから迷う予定でもあるんですか……」

「さすがに大丈夫だ。横道に逸れなければ。曲がり角を間違えるわけがない」

「じゃあアイシャに言われなかったら逆の方向に行くところだったって話は?」

「……アイシャ?」

「あ、あははは……」


 目を逸らすんじゃない。

 別に俺は構わない。ああ構わないとも。放っておけばいずれ露呈していた事だろう。

 複雑な道の上、地図もない。土地勘がなければ多少迷うのも当然だ。


「ま、真っ直ぐ行けば大丈夫だから。ね? それともやっぱり、みんなで行く?」

「問題ない。なんとかする。それに少し、考えたい事が」

「……別に昨日のことなら気にしてないですよ」

「そんな、気を遣わなくても。だが……そういうことなら今日は他の考え事に時間を使わせてもらう事にする」


 さすがに丸投げするつもりはないが。

 その辺りも気付かれていただろう。あえて触れず、二人は来た道を引き返していった。


 そういうことならトレス方面の門に繋がる通りを見させてもらおう。特に必要なものはないが、何かのヒントくらいにはなる――


「……わけないか」


 民家を越えてすぐ、その考えは浅はかだったと思い知らされた。

 装備品や消耗品の店舗が置かれているのはこの辺りではないのだろう。


(しかも……)


 代わりに見つけたのは得体の知れない品々。それもストラでは裏路地ですら売られていなかったような物。

 可愛らしいデザインのアクセサリ類ならまだ分かる。

 だがそこにあるのは都合のいい言葉ばかりが書かれた売り文句。

 しかも加護だの何だのと……せめて本物を用意できないのか。

 こんなものに五桁も出すような客がいるわけ――


「ここに書いてあること、本当? 本当なのよね?」


 ……いるのか。本気か。警戒心はないのか。


 金髪を左右でまとめた少女。

 その指先は一目で詐欺と分かる商品の売り文句に向けられていた。


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