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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第208話 幻惑の森

 まさか、あんなことを言うなんて思わなかった、です。


「楕円形、赤色、手のひらに乗るくらいの……それから、白い粒。ああ、やっぱりこれか」


 確かに、いつもちょっと危ない方法も使ったりする、ですけど、

 一人でやるつもりのときばっかり、でした。


 今は無理しない方がいい、って。

 マユ達が怪我をしたらもとも子もない、って。


 いつもなら、皆さんを、[ラジア・ノスト]が着くのを待ってたはず、です。


 マユを一人にしようとしない、ですし、サーシャさんの方が詳しいって言ってた、ですから。


「舌で舐めて――痺れる感覚もないから……よく見つけられたな、こんなもの……」


 食料を探すため、だったら、すぐに戻れた、です。

 荷物だって、持ち運ばなくてもよかった、です。


「当時からほぼそのまま、か……時渡りに遭ったわけでもないだろうに」


 あの話が本当なら、普段でも探しに行こうとしたかもしれない、ですけど、

 いつものキリハさん、だったら、二人で行こうなんて言わなかった、です。 


「これならおそらく水場もそのまま……最早この一帯が生きた化石だな……」


 崖沿いに進めないなら、別の道を探してたと思う、です。

 今なんて、特に『問題が山積み』ですから。


「ひとまず食料はなんとかなりそうだ。せめて何か味を変えられそうなものでもあれば――……マユ?」

「平気、です。今は食べ物があるだけでもありがたい、ですから」

「……だな。戻ったらお腹一杯になるまで食べよう、好きなものを」


 あの本に書いてあることは読めない、ですけど、もうちょっと警戒してそうな気がする、です。

 他は普段とそんなに変わってない、のに。……いきなり舐めたら危ない、ですよ?


「それで、マユは何を? ……もしや背中のこれか」

「変って思ってたのに作った、ですか?」

「変だなんて俺は微塵も……いやまあ、それはいいか」


 びっくり、でした。いきなりあんなものを作り出した、ですから。

 でも、ちょっといい感じに収まってる、です。


 木の枝を組み合わせて、縛って、まるでかごみたい、でした。

 中身が丸見え、ですけど。雨が降ったらずぶ濡れ、です。


「手頃な大きさの枝がいくつもあったから、思わず。ついでに先人のご利益を受けられそうな気がして」

「もうちょっと分かりやすくまとめてください、です」

「偉人の真似をしてみた。以上」


 そんなこと、しなくても。

 魔法の効果が薄い、のに、大丈夫、ですか? こんなこと、しちゃって。


「じゃあ、さっき土で看板を作ったのも看板も、故郷で?」

「それは無関係。他に分かりやすい連絡手段を用意できなかったから仕方がない。洞窟の前は比較的靄の影響が弱かっただろう?」

「確か、防御してある、って」

「そう。……ここからは推測だが、本来この辺りは最深部に近かったんだろう。将来、誰かが訪れても取り除けないようにしてあったんだろうな。何かが」


 あの魔道具は一応、侵入者の迎撃用に置いたみたい、でした。

 マユ達が倒した、あの魔物みたいなのも、全部。


 でも、もうひとつ目的があったらしい、です。


 あんなすごいもの、なのに、試験としても用意したそう、です。

 あんなの全然『簡単な罠』じゃない、ですけど、あれを越えられないなら、読む資格はないって思ってたみたい、でした。


 キリハさん、は『崖から落ちてあの場所に辿り着いたにしても、靄の中を抜けたにても、あの程度の罠で今更分かることなんてないだろうに……』って言ってた、ですけど。

 そんなことできる人がそんなにいない、です。


 他の罠は仕掛けてなかったみたい、でした。

 本にそう書いてあったって、キリハさんが不思議そうに言ってた、ですから。


「あそこ、崖から落ちてすぐ、ですよ?」

「だが、上から見た時と比べて明らかに靄が濃い。かといって上に強引に突破しようとすれば……マユも見た通りだ」

「一瞬で、粉々に」


 どこかで風が弱くなると思ってた、です。

 あれだけは、本を書いた人も関係なかった、なんて。一番、やってそうだった、のに。


「例の蜜が実在していればの話だが、あんなものが有名にならなかったのも頷ける。誰も奥に辿り着けなかったならそもそも噂になりようがない」


 確かにそうかもしれない、です。

 あの崖を落ちただけでほぼ助かりそうにない、ですから。ちょっと強い冒険者でも関係ない、です。


「……本当にある、ですか? そんなもの……」


 キリハさんのことは疑いたくない、ですけど、いくらなんでも怪し過ぎる、です。

 協会だって、ちょっとずつ調査は進めてる筈、なのに。


「あの果物が今ここにある以上、情報源としての信頼度は十分だ。……万一の保険として、この御伽噺に賭けてみる価値はある」


 一体、本を書いた人はどうやって見つけた、ですか?






「……おかしい」


 ここ、さっきも来なかった? なんか見覚えあるんだけど。この木。

 その前にも通ったわよね、ここ。


「姉様もそう思われますか? やはり以前の報告にありませんでしたよね? こんな現象」

「なかった。絶対に。過去の記録でも見た覚えがない」


 どうなってるのよ。この場所。

 風がひどくて空から近付けなくなって、今はもう歩くしかないんだけど?


 さっきからずっと、ずっと同じ場所ばっかり。

 最初は順調だったのに。半日くらい。その後いきなり進めなくなるなんて。


 止まったら駄目、なんて聞いてないわよ!?


「あのーすみません。素人同然の私が言っていいことじゃないんですけど、これもしかしなくても迷――」

「違います! ええ、違いますとも。決して道を間違えてなどいません。進んでいる筈の方向に進めないんです」


 ……なんて?


「(どーいうことですか。説明しろですよ、ユッカ)」

「(わたしに聞かないでださいよっ! イルエが聞けばいいじゃないですか!)」

「(聞けって先に言ったのはユッカだからユッカが聞けです)」


 サーシャさん達、ここのこと知ってたのよね?

 知ってたなら先に教えてくれた筈よね?


「ここから先のどこかで、特定の地点に戻される。さっきから同じ道を通っている理由はそれ」


 ……戻される? そんなことある?


「いやいやそんな、オカルトじゃないんですから……ねぇ?」

「……さすがに、オレも分からない。幻影の、魔法か……?」


 そんなことされたらあたしだってすぐに分かるわよ。

 ナターシャさんなんてその力を跳ね返せるんじゃないの?


「ありえませんね。姉様がその程度のものに惑わされるとでも?」

「ですよね。そう言うと思ってました。でもさすがにおかしくないですか? もうさっきからこの場所だけ五回くらい通ってますよ?」

「道中、何度も“否定シセタス”を使っています。何度もかけ直されたら私が気付きますよ。さすがに」


 ……なんか、前にもなかった?こんなこと。

 向かって言っても同じ場所に戻される、って。……すっごく覚えがあるんだけど。


「球体の上を歩いているところを想像してみれば分かりやすいですね。真っ直ぐ進んでいても、いずれ同じ場所に戻るでしょう?」


 しかもほとんど前も見えないし。

 なんなのよこれ。霧? 上から見た時はここまで酷くなかったじゃないの!


「私達が置かれている状況はそれに近いものなんですよ。……切り離されてますね。おそらく」

「だったら、先の地面がもっと見えにくいんじゃ……」

「それに近い状態にあると言うだけで、この場所が実際に球形になっているわけではないんです。……原因を特定しないことには、どうにもなりませんね」


 キリハもマユも、今もどこかで困ってるのに……!

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