第202話 ひとつに合わせて
「浮かせるって、この岩を? いやいやアイシャちゃん、さすがにそれは無茶苦茶……あの下に落としたら万一って事もあるし」
「ううん、落とさない。本当は、このままでも使えたらよかったんだけど……」
そんなことしたらぶつかっちゃうかもしれないもん。
キリハなら、その前になんとかしてくれるかもしれないけど……そんなの駄目。
まだどこかに掴まってるかもしれないのに。岩が落ちてきたりしたら、きっとキリハでも危ない。
「浮いた状態で一番強い魔法をぶつけて、あの岩を壊すの。……欠片もほとんど残らないくらい、粉々になるまで」
だからちゃんと、壊さないと。
「……これはまた斜め上を往くアイデアが出てきちゃったなぁ……」
当たった時に痛くないくらいの大きさにしないきゃ。
どのくらい小さくしたらいいのか分からないけど、とにかくそのくらい。
「壊せるならその方がいいじゃないですか。邪魔ですし」
「壊せねーから言ってるですよ。キリハみてーな魔法が用意できりゃ別でしょーけど。そこまで言うならユッカも手伝ったらどーですか」
本当は、キリハみたいに消せたらよかったんだけど……キリハみたいな魔法、私には使えないし……
前に使ってた……えっと、《解砲魔光》?
あのくらい強い魔法だったらきっと。……ちょ、ちょっと強すぎ?
でもキリハも、強いと思うくらいがちょうどいいって言ってたし……その方がいい、よね?
頑張ってもさすがにあんな威力には――どうやって覚えたんだろう、キリハ……
「わたし、自分にかける魔法しか使えないんですけど?」
「少しくらい覚えとけってんですよ。なんのためにあいつの特訓受けてるですか。この中じゃ風の魔法に一番慣れてるのに」
「分かりましたよ次までに覚えておきますよ! とにかく今は周りを警戒してますよ!」
皆にちょっとだけ浮かせてもらわないと、この場所から普通に撃ったらきっと崖に落ちちゃう。
もうちょっと遠くまで押せたら……でもそうすると、今度はすぐに下にいっちゃうし……
皆で力を合わせてもちょっと思い、よね?
「ほんとは、前にキリハが作ってくれたわっかもあった方がいいの。でも、あのとききりだったから……」
「それができるならこんなことで悩んだりしないって話だよね。……待って? 輪っか? そんな話したっけ?」
「あ、あれ? 言ってなかった? キリハの魔力がたくさん込めてあって……木の枝を組み合わせたみたいな感じなんだけど……」
あれからキリハは一回も作ってない。
ちょっとの衝撃で簡単に封印が解けちゃうから、って。時間が経つとどんどん魔力が減っていっちゃうから、って。
普段は使わないって言ってたから、他の魔法と違って完成してないのかも。
「はい無理ー。再現性ゼロだよそれ。私達の魔力でなんとかできないやつだよね、明らかに」
「つ、作るつもりだったんだ……?」
あれって作れるのかな、そんな風に。
キリハも結局作り方は教えてくれなかったけど、やっぱり危ないものだったんじゃ……?
あの時の魔法、本当に私の魔法じゃないみたいだった。
今までで一番強い《水流》を撃てたと思ったのに、キリハの魔力を吸い込んだときには信じられないくらい強かったもん。
……魔法も前より上達したけど、まだあのときみたいな魔法は使えないよね。きっと。
「そのつもりだったんだよ? でもそういうことならちょっと手が届かないなーって。もうちょっと簡単なものも用意してくれたらいいのにね?」
「あ、あははは……そうかも?」
キリハのあれが簡単に……って、そんなことになったらみんなすごい魔法ばっかり使うってことだよね??
あのときの私の魔法が魔物を一気に倒せちゃったんだから――や、やっぱり駄目だよ!?
「作ったところで誰が制御するですか。そのメチャクチャな状態の魔力。暴発するだけでしょーが」
「威力の底上げができるならあった方がいいかなーって。あの岩を壊すなんてちょっとやそっとの魔法じゃできないし」
あ、覚えてたんだ……
「あ、ううん。そっちは大丈夫。……キリハからは『できるだけ使わない方がいい』って、言われてるけど……」
教えてくれたときもびっくりしてたみたいだったから、言われたときはやっぱりって思った。
でも、どうしてびっくりしてたんだろう。本当はあんなに強い魔法が使えるように方法じゃない、とか?
簡単にできるならみんな使ってるはずだよね? じゃあ、やっぱり……
キリハの魔法を思い出しながら発動させたから、なのかな?
「あいつが? どういうこと? そんなこと言われたことないわよ?」
「代償系はなしだからね? 眠らせてでも止めるよ?」
「そんな必要ねーですよ。杖取り上げりゃ一発なのに。ほら、トーリャもレイスも行ってこいです」
「そこまでしなくていいよ!?」
眠らせるって!? レアムちゃんも使えるの!?
この前キリハにお願いした時はあんまりうまくいかなかったのに……
「そ、そうじゃなくて! いつもよりたくさん魔力も使わないといけないの。しかも発動までにちょっと時間がかかっちゃって。だから、魔物との戦いは……」
「まだ使わない方がいい、ってわけね。……それもだけど、あんまり無茶しないでよ? その魔法、使った後で疲れるんでしょ」
「それはその、ちょっと……じゃなくて、すごく……」
や、やっぱり気付かれちゃった?
リィルちゃん、《ブレイズキャノン》もすぐに二回目は使えないって言ってたから詳しいよね……
他にも魔法のこととか、詳しいみたいだし。
(本当は終わった後でキリハに魔力の流れも見てもらわないといけないけど……)
今はいっしょじゃないからあとでサーシャさんにお願いしてもいい、よね? 大丈夫だよね?
「ぶっ倒れたって誰かがおぶってやるですよ。……それより、できるですか? あんなデカい岩なのに」
「っ…………」
今、やらないと。
少しでも早くキリハとマユちゃんを助けるんだったら、絶対こっちの方が早いんだから。
間に合えば、次の町でサーシャさんとも合流できるんだから。……あのナターシャさんとも。
「…………できるよ」
あんな場所に、撃ったことなんてないけど。
キリハと毎日は練習しないって約束してたから、いつもの魔法みたいに慣れたわけじゃないけど。
「絶対、絶対壊すから。……だからお願い。力を貸して?」
今なら、魔物に攻撃される心配もないから。
キリハが『威力は間違いなく頭二つ以上抜けている』って言ってくれたこの魔法だって、落ち着いて使えるから。
「……仕方ねーですね」
「へ?」
「ほら、とっとと始めるですよ。何ぼーっとしてやがるですか。どいつもこいつも」
「い、イルエちゃん……?」
さっきの返事は? 何か言ってたっけ? ……き、聞き逃しちゃった!?
「なにぼーっとしてやがるですか。すぐ準備しろってんですよ。アイシャも。……ぶっ壊す役がいなきゃこっちの労力全部無駄になるじゃねーですか」
「…………うんっ!」
……キリハとの練習と、キリハの魔法。
「またまた、かっこつけちゃって。……見直したよ?」
「過小評価してるからそーなるですよ。んなことより準備したらどーですか」
「分かってる分かってる。リィルちゃんもいけそう?」
「当たり前でしょ。あたしの《ブレイズキャノン》じゃ、さすがに壊せないし」
「リィルのあれも相当強いですけどね? ……こんなに魔物にいないならやりますよ。わたしも」
どっちもしっかり、はっきり思い出しながら。
「――噴き出す雫よ、集え。輪となりて――」
周りの力も、ちょっとだけ集めて、貸してもらって。
「うわ、重っ……!? なにこれ、こんな手応え初体験だよ!?」
「いいから制御! あたしだって余裕ないんだから……!」
私の魔力も、全部使って。
「――渦へと招き、糧と為せ。青き宝珠に捧げよ――」
集めた力が、外に出ちゃわないように……でも、強く、強く……!
「こういうの、得意じゃないけど……!」
「いいから、集中しろ! 少しくらいは、支えになるだろ……!」
一つに。全部を集めて、一つに。
「――巡れ、巡れ。迅く、激しく――」
もっと強く、もっと強く!!
「いけるよ、いつでも!!」
この一回に、全部を込めて――……
「――打ち砕け、《ラシュースティ》!!」




