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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅰ 目覚めるリヴァイバー
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第20話 語られる真実

「おい待て。待てって。いきなり何言い出してんだよキリハ。お前だって見てたろ。こいつがいきなり飛ばされるところ」

「ああ確かに見た。あそこにいたライザさんの顔をした誰かが転移で飛ばされるところは」

「だろ? わざわざ『誰か』とか言わなくてもそこにいるじゃねぇか」

「いや違う。そこにいるライザはこの部屋にいた。俺達が五人の見舞いに行った時点で」

「……どういうこった」


 あの魔法が発動していなければそれを確かめるつもりだった。

 妙な妨害の力はそのため。一瞬だけ浮かんだ馬鹿な可能性がそのまま真実だったわけだ。


「大体、制服は? 見ろよあいつの制服。お前に斬られた痕なんてどこにもない」

「斬られた制服を転送させてしまえばいい。道具を回収されてもいいように制服そのものに手を加えてあったんじゃないか?」


 起動条件はおそらく自身に変装させた人物に対して一定以上の干渉が行われそうになった時。または例の制服を奪われそうになった時。

 どちらかを満たした瞬間同時に起動するように仕掛けておけばいい。実際、この男はそうした。

 同時に変装を解き、あたかも自分が突如飛ばされたかのように振舞った。


「能力の応用で魔物を呼び出し、討伐隊が出払ったタイミングで仕掛けた。それもお前の仕業だろう? ライザ」


 俺が奪い去った刺繍の部分には術式がなかったのか、捕まるまでに大急ぎで掛け直したか。

 逆に衣服に掛けただけはおそらく人体を転送できない。道具を奪った以上、すぐ逃げられる可能性は低い。


「……あーあ、残念。バレちゃってたんスね」


 ライザは弁明や誤魔化しをすることなく、深いため息をついた。


「お前……!」

「改めましてどーも。こうして話すのは久し振りっスね、センパイ?」

「……さっきの話が本当ならお前を後輩なんて呼べねぇよ」

「いいじゃないっスか。オレとアンタの仲でしょー?」

「もう黙れ。さすがにキレるぞ」

「こりゃ失敬」


 些細な動作も見逃せない。

 わざと《土偶》を出鱈目に絡み付かせて動きを封じたが、何の安心材料にもならなかった。


「なんスか、これ? 動けないんで外してもらえません?」

「自由にさせると思うか? 今のお前を。それにこの程度、お前がしたことに比べたら軽いくらいだろう」

「ま、そりゃそうですね。まさかこんな馬鹿みたいに固いモン作るとは思いませんでしたけど」


 言葉の割には余裕が見える。

 ブラフか、それとも。


 何か目的があるのではと思わずにはいられなかった。

 或いはそう思わせること自体が目的。考え出すとキリがない。

 魔道具以外の転移手段を持っていないのならそれでいい。逃げ出す前に完全に動きを抑えておく必要がある事に変わりはない。


「ガルムさん、今の内に拘束具を」

「あー、いいんスか? 折角こんなにいるのに数減らしたりして」

「ついさっき一対一の状況で逃げたのはお前だろう?」

「……わざわざ言うんスか、それ? 全員の前で」


 見覚えのない右手首のリングが魔法封じの効果を持つことは分かっている。それを外せないように手枷をはめているのも。

 しかしそれでも足りるかどうか。保険は必要だろう。


「待って? じゃあさっきあの部屋にいたのは? どう見てもライザさんだったよ……?」

「そりゃそうっスよ。何せ――」

「対象の外見を変化させる魔法を使ったから。違うか?」


 先日の魔物や俺と要領は同じ。

 より巧妙に隠されたのがこの男の魔法。もっと言えば、ユッカに見てもらったのは『仮装』に近い。


「なーんで先に言っちゃうかなぁ……ほんと、昨日の魔法陣といいよくそんなすぐに分かるっスね?」

「その手の魔法には見覚えがある。すぐに解かれないようわざわざあんな回りくどい手段を取ったんだろう?」

「誰っスか人のネタ先に使ったの。勘弁してくれませんかね」

「心配するな。お前が絶対に知る事のない相手だ」


 そしてこの男よりはるかに邪悪で、残忍な存在。

 悲しみを撒き、憎しみを生み出す諸悪の根源。


「とにもかくにもオレにとって一番の想定外はアンタっスよ。わざわざ弄って魔物の能力も底上げしてたのに毎朝全滅させるとか勘弁してくれませんかね」


 知らずの内に細めた目。狭まった視界の中心でなおもそいつは喋り続けている。

 協力者の可能性も考えた。が、あまりに動きがなさ過ぎる。


「ほんとはあの警備隊の中に紛れ込むつもりだったんスよ? なのにアンタに見つかるわ黙らせようとしたらこっちがやられるわでもう散々」


 身勝手極まりない言い分。既にこの場にいる誰もが真摯に聞こうという意思を失っていた。俺含め最初から聞く気のなかった者も含めて。


「ほんと、計算外なことだらけっスよ。わざわざ取り寄せた《蝕む熱銀イニュダーマ》もあんな簡単に壊してくれちゃって。何枚用意したと思ってんスか? あと一〇日はもつ筈だったってのに」

「その間にルークさんの外見を使って好き放題やるつもりだった、と」

「正解。ま、全部台無しになったんスけどね。誰かさんのせいで」


 知った事か。

 犯人の計画を破綻させるつもりでいたのだから俺には何の不都合もない。


「にしてもどこでバレたんスかね。割と上手く立ち回ってたつもりだったのに」

「きっかけくらいお前も分かっている筈だ」

「……やっぱ、あの香りっスか」


 最初は意味が分からなかった。

 品薄の筈のカシュルの香りがはっきりと。あの時点ではそこ止まりだ。


「正直、別の誰かが用意した可能性も考えた。あの中に閉じ込められた人達の魔力が判別できなくなったと聞いた時だ。なりすましを疑ったのは」

「じゃあ何です? オレ、自分の仕掛けでわざわざアンタに犯人だって知らせたんスか?」

「有体に言えばそうなる」

「アンタとんだ博打野郎っスね」

「その言葉はお前にも刺さるだろうに」


 ルークさんが犯人にしてはあまりに露骨過ぎた。

 一人だけ行方不明。襲撃者が落とした協会関係の品々。

 では逆に、罪を被せやすいのは誰か。

 そこまで考えはした。結局あの転移を見るまで確信には至らなかったのだが。


「……ところで、考えなかったんスか? 飛ばせるなら逆に引き寄せることも出来るって、さ!!」


 突如ライザの手に妙な機械が現れたのは、ガルムさんが戻ってきたまさにその瞬間。


「ぁうっ!?」

「うおっ……!? クソ、何だよ今度は……!」


 追って、俺とライザ以外の全員が次々倒れた。

 身体から何かを抜かれたような感覚。僅かながら覚えがある。決していい物ではない。


「ハハハっ! どうっスか魔力を吸われた心地は。虚脱感あるって聞いたけどここまでなんて驚きっスよ。まあでもこんな経験、なかなかできない――」

「《斬水ざんすい》」


 真正面から振るった水の刃。しかし後ろを向いたライザが地面から引き剥がした《土偶》を盾に防ぐ。


「ちぇっ、やっぱアンタにゃこれじゃ足りないっスか。いいっスよ。こっちもそのつもりだったんで――!」


 超至近距離。突き出された短杖の先端が胸当てを掠める。

 先程のように広範囲を対象とするのではなく、一点を。


「……随分とふざけた真似をしてくれるじゃないか」


 だがその狙いは俺ではなく、更に後ろ。

 魔力を吸われ、力が抜けたアイシャ達。


「受け止めるんスか。バカっすね。さっき外でやったみたいに普通に避けりゃいいのに」

「アイシャ達を狙っているのに避けると思うか? 俺がそうすると分かって仕掛けておきながらよく言う」

「ええまあ思ってましたよ。魔力吸い切ったのにわざわざ自分から盾になってくれるって」

「白々しい。どうせ魔力がなければ生命力を奪うようになっているんだろう、そのガラクタ」


 本当に、どこの世界でも。

 今目の前に存在していること自体が忌々しい。跡形もなく消してやりたくなる程に。


「ほんとやりづらいっスね。アンタ今度はどこで見たんスか」

「答えてやる義理はない」

「あとガラクタ呼び止めてもらっていーっスか。これ貴重な古代の遺産っスよ?」

「ガラクタはガラクタだ。元の製作者の意図はどうであれ、こんな使い方をされている限り」


 あんなものにどれだけの利用方法があるのかは分からないが。

 あえて挙げるのであれば暴徒鎮圧。だが今まさに鎮圧される側であろう人物が使っている。


「まあでも、今回ばっかりはアンタの判断ミスっスよ!」


 そこで魔力の吸収は止まらなかった。

 勢いは既に《魔力剣》の維持コストの数十倍。

 こんなものをアイシャ達に。だが苛立ちに任せて迂闊な行動を起こせば向こうの思う壺だ。


「……大した勢いだな」

「分かったところでもう遅いっス。魔力が多いからって油断し過ぎじゃないっスか? このまま干からびるまで吸い尽くしてあげますよ!」


 干からびるまで。ハッ。()()()()()

 舐められたものだ。相手の魔力量の変化を正確に感知する技能はないのか。


「減らない……? ったく、化け物魔力も大概にしてくれませんかね。そろそろ疲れて膝をつきたくなる頃じゃないっスか? そこの子みたいに」

「ほざけ」

っ!?」


 あの杖なら斬っても問題はない。

 手枷までは破壊しないよう、慎重に。

 迂闊な追撃はしない。他に何を持ち出すかも分からなかった。


「判断ミスはお前の方だったな。あの程度で吸い切れるとでも思ったのか」

「まだ動けるとかふざけてんスかアンタ。うわ痛ー……腕斬られたかと思った」

「まさか。誰がそんなこと」


 何が変わるわけでもない。

 しかしまだ気付いていないのだろうか。いい加減に諦めてもらいたい。


「ついでにお前の勘違いを訂正しておこうか。お前が吸収したのは俺の魔力の一%にも届いていない」

「……さすがに冗談キツいっスよ」

「冗談なものか。加えて俺の魔力は即座に、無制限に回復する。どうあがいてもお前が俺の魔力を枯渇させることはできない」


 正確にはやや異なる。だがそれを今この場でこの男に向かって行ってやる必要はない。


「…………はっ、ははっ、ハハハ……! そうっスか。そういうことっスか!」

「な、何、急に……」

「あーワケ分かんね。こんなのに正面から挑んでもそりゃ意味ないに決まってるっスよ」

「まだ何かあるとでも?」


 そうは言うが早い段階で『正面きっての勝負』などしていなかった。個人で別の基準を持っているのなら知らない。


「またまた正解っスよ。あれはあくまで吸い取るための部品。残念でしたね? メインは貯蔵庫。もう森に飛ばしたんで壊したくても壊せないっスね」

「……貯蔵庫を?」

「もう遅いっスよ。あれだけあればかなりのヤツが生まれるんじゃないっスかね?」


 そんなライザの言葉を証明するように雄叫びが響いた。

 協会を揺さぶり、町を怯えさせる程の雄叫びが。


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