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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VII ここにいたいと思うから
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第196話 もたらされた可能性

『そもそも、皆さんの言う秘薬の素材は年代や土地によって記述が異なっているんですよ』


 にわかには信じがたい話。

 しかしながら、サーシャさんの声はとても噓をついているように思えなかった。


『過去、何度も使用された種類の記述がある時期を境に突然見られなくなったり、ある書物にだけ、他のどこにも載せられていないものの記述があったり。逆もまた然りですね』


 大昔と現代。

 いつまでも同じ状況が保たれる方が珍しい。


 そうした進化の歴史の中で時に消え去る種が存在しているのはある意味で当然のこと。

 その中に今回、飛躍を作る上で要求される場合のある品が混じっていたというだけで。


『対象が絶滅、ないし確認されなくなったのが主な原因でしょう。新種の発見もあったのかもしれませんけど、そこまで研究が進んでいないのが実状です』


 今でも手に入れられるのかどうか。

 探し回っている人々さえ簡単にそれを知ることが出来なかったのだとしたら、相当のもの。


 逆に今もまだ秘境に隠されている可能性はあるが……この状況で探しに行くのなど現実的な策とは言えない。

 生息地の候補をリストアップするだけでもどれだけかることか。


『そんな中でも、確実に必要とされているものが現状二つ。そのうちの一つを、まさに皆さんが手に入れたわけですが……よく見つかりましたね? 山中をくまなく探してもめったに見つからないのに』

「思いが通じたんだと思いますよ。山が俺達に微笑んでくれた、なんて」

『……あなたにそれを言われると違和感が凄いですね』


 胡散臭く思えるのは仕方ないだろう。

 俺だってそんなことはこれっぽっちも考えていない。山の神? いたとしても、そんなお人好しな性格をしているわけがない。


「そんなことより、続きをお願いします。いつまでも話す事なんてできないんですから」

『大丈夫です。何の問題もありません。計算済みですから!』


 サーシャさんの声を届けるそれは、まるで古びた巻物のよう。


 二つで一つ。双方向でのやり取りを可能にするという、この世界においては危険な程革新的な代物。

 たった一度きり。しかも時間制限付き。それでもこの世界にしてみれば異常な代物。


「それで結局、代わりって……あのお婆さん達はそんなこと……」

『その方の名前は私も窺っています。勿論、周りの方も研究されていたでしょう。……ただ、今となってはほとんど手に入らないような書物も少なくないんですよ』


 しかし今、それがあるからこうしてサーシャさんから話を聞くことが出来ていた。

 手紙をやりとりする時間も短縮することができた。


 まさかアイシャがこっそり預かっていたとは知らなかったが。

 なんでもサーシャさんから『もしもの時のために秘密にしておいてほしい』と言われたのだとか。

 そういうことなら仕方がない。


『一見無関係に思える書物の余白に、おまけのように記されていることもありますからね。私達も網羅しているとは言えないんです』

「隠れ里の民話ともなれば、実際に赴いた人しか知り得ないわけですか。……そんな話を記録に残していいかはさておき」

『晩年に書かれた自伝では稀によくある話ですよ。それよりよく気付けましたね? 加点してあげます』


 ひょっとすると、既に消失した書物の中にも。

 個人的な記録の中に類似した事例も残されていたのかもしれない。著名な探検家の手記に、なんてこともあっただろう。


 写本だとしたら当然、誤植もあり得る。

 情報の信頼性も何もあったものではない。今はそんなことに文句を言いたくても言えないが。


「(……なんか今日のサーシャさん、いつもより甘くない? 今のが加点対象なら他にいくらでも加点のタイミングあったよね?)」

「(そ、そうかも……? お姉さんに会えたから、とかだったりして……)」

「(会うまでも楽しみだと思うんだけどなー……)」


 現状確実に必要とされている品がもう一つ。

 そればかりはサーシャさんの言う地点に赴いても手に入れる事は不可能。何度調べても確認できなかったと言っていた。


(最悪、それだけは直接取引するしか……場所だけでも分かっているのならまだともかく……)


 並行しての捜索はかなり難しい。どう取り繕ってもその事実を覆すことは不可能。

 情報収取を疎かにしたツケがこんなところまで。


 何かあったら力を貸すと、ルークさんもリットも言ってくれている。とはいえ、さすがにこれは……


 規模も設備も、その他の何もかもが違っていたことは分かっている。

 分かっているのだが、かつての協力者がいかに頼もしかったか改めて思い知らされる。


 当時も痛いほど分かっていたというのに。


『とにかく、それ以外は必ずしも同じものにこだわる必要はないんです。場所はアイシャから聞きましたね? 明日にでも準備を整えて向かってください。現地で合流しましょう』

「合流……サーシャさんと? しかし、それでは……」

『私の予定ならご心配なく。いくらでも調整できます。それとも、皆さんだけでそんな危険地帯に向かうつもりですか? 私の忠告、覚えていますよね?』

「そういうことなら俺が――」

『減点五』

「……問題があるなら普通にそう言ってもらえると、俺としても助かるのですが」


 いつから返事に変わったというのか。

 そして軽い。先程の気紛れのような加点は帳消しになるが、相当軽い。


『いくらなんでも過信しすぎです。危険地帯の探索の経験は? 道具はありますか? 採取には正確な手順がありますし、然るべき処置を施さなければ持ちませんよ?』

「…………」


 ぐうの音も出なかった。


 探索の経験はまだ教団の根城に見立ててやればどうにでもなるが、他がない。

 どうしようもない。この場で聞いたところで答えてもらえるとは思えない。


 確かに[ラジア・ノスト]の協力なしに突入するのは難しいと思っていたが……


「わーお、完全論破。今の聞いてた? 覚えておいた方がいいよ。今後のために」

「レアムちゃん、なにするつもり……?」

「……あの人だから、できたんだろ」


 それにしてもまさかここまで一方的に説き伏せられるとは。

 特に保存の手順ばかりは俺にもどうしようもない――


『――ぁ、姉様? ごめんなさい、うるさかったですか? お休みの邪魔になるなら――……はい?』


 ……姉様?


 サーシャさんの声が遠くて聞き取りづらい。耳を澄ましたところで聞き取ることなどできる筈がない。

 しかしサーシャさんの姉ということは、つまり、


『――聞こえる? [イクスプロア]』


 それはつまり、ナターシャ・ロクアニク・ソーアリッジがそこにいるということ。


 その場にいる理由は分かる。

 しかし、分かるのはそこまで。わざわざサーシャさんと交代する意味など、どこにもない。


『話は聞いたわ。とりあえず私も向かうから。最低限の準備だけは整えておいて。よろしく』


 そう思っていたからこそ、続けて放たれた言葉はいっそう衝撃的なものとなった。


 まして、あの[ラジア・ノスト]のリーダーが。


「「「………………えっ??」」」


 思わず耳を、己の頭を本気で疑ってしまったのも仕方のないことだろう。

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