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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅰ 目覚めるリヴァイバー
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第17話 森の中に行ったきり

「ぉはよぅござぃまぁす……ふぁ……」


 そして翌朝。

 唯一決めておいた集合場所にユッカがやって来たのは、採取だけでもと考えた町の冒険者がある程度出払った後の事だった。


「ユッカちゃん寝不足? 大丈夫?」

「ごめんなさ……ゆっくりできると思ったらつい、気が抜けちゃって……んんっ……大丈夫です、なんとか目も覚めました」


 心置きなく休めたのならそれは何より。

 魔物の大量発生が落ち着くまでの間に個人でできそうな事はほとんどない。アイシャとも相談したが、結局いい案は見つからなかった。

 今朝は索敵に一匹も引っかからなかったが、この状況がいつどう変化するかは分からない。


「それで結局どうします? 相変わらず採取くらいしかできそうにないですよ」

「い、イヤだった? 採取にしようってさっきキリハと話してたんだけど……」

「えっ。キリハさんも?」

「何故そこで俺を名指しする?」


 今の発言の真意を是非とも聞かせてもらえないだろうか。

 本当に人の事を何だと思っているんだ、ユッカは。


「だってこつこつ採取してるイメージないじゃないですか、キリハさんって」

「自分の認識をさも公然の事実のように扱うんじゃない」

「あ、あははは……普通に採取もやってるよ? ちょっと量が多かったりするけど」

「ほらやっぱり」

「全然やっぱりじゃない。量が多いだけだ」


 何故そこで勝ち誇れるのか。

 まあ遠慮されるよりはいい。少し遠慮がなさ過ぎるような気がしなくもないが。

 とりあえず今日の方針は決まった。もう少し落ち着いてから出発といきたいところだが、先に用件を片付けてからか。


「楽しそうに喋ってるとこ悪いけどちょっと邪魔するぜ、キリハ」

「……何の用?」

「睨まないでくれよ何もしないから。マジで」


 早い。反応が早い。

 呼ばれたはずの俺より早い。

 そんなアイシャの反応にユッカも目に見えて困惑していた。


「それよりキリハ。ルークのヤツ見なかったか? あとライザも。朝から探してんだけど全然見つからなくてさ」

「ライザさんとは昨日森で会ったきりだが……何かあったのか?」

「討伐隊の出発式に顔出さなかったんだよ。夜明け前でもあの二人なら一番最初に来てそうだってのに」


 そんな馬鹿な。

 一番最初かはともかく、確かに無断で欠席するとまでは思えない。

 あの後は結局俺達も戻って休んでいたから確かな事は分からない。それでも滅多にない事が起こっているのは確かだった。

 姿が見えないからてっきり休みだとばかり思っていたのに。


「っつーか森? なんであんなトコに」

「なんで、ってそれは――」


 昨日の件を知らない?

 そんな事があるだろうか。確かに変身魔物の詳細は後日説明するよう言われていたが、最低限の情報共有はあってもおかしくない。

 しかしリットはあの魔物どころか森の件自体知っていないように見える。


「……アイシャ。昨日、ライザさんとはどこで?」

「えっと確か、衛兵所の前を通ってたから声をかけて……近くで用事があったって言ってたよ。あ、あとその時はルークさんも一緒だった」


 となればあの冒険者を呼んだのはルークさんという事になる。

 ライザさんが呼んでいたのなら別行動をとる理由がない。

 だがやはり、あの後ルークさんの姿は見ていない。帰った後も協会にあの魔力は感じなかった。


「リットが最後にルークさんと会ったのは?」

「昨日の朝。……おい、まさか」

「他に当てがない。行ってみる価値はあると思う」

「杞憂ならいいんだけどな」


 そんな事はまずないだろうと分かった上で席を立つ。

 目的地は昨日の森。幸いまだ大通りはそこまで混んでいなかった。

 歩調が速まる一方、後ろから呼び止める声が聞こえてくる。


「ど、どういうことですかっ。あとちょっと待っ、速いですって……!」

「二人は協会で待っていてくれ。何があるか分からない」

「待った。逆にもしもって事もあるだろ。ついて来てもらった方がいいんじゃねぇの」

「……あり得るな」


 少なくとも話を聞く限りルークさんは一度も外に出ていない。リットが言う可能性も十分に考えられる。

 一度止まって、再び集合。ほぼ全速力だったらしいアイシャとユッカはすっかり息が上がっていた。


「はぁ、はぁ……なんでいきなりあんな速度……」

「それで、どういうこと……? まだ、よく分かって、ないんだけど……」

「ライザさん達があの後街に帰っていなくて、ルークさんの行方が分からない。つまり何かの事件に巻き込まれたという事だ」

「で、誰がやったか分からないから町にいるのも危ないかもってワケ」


 さすがにリットは信用しても大丈夫だろう。

 それにもし、もしもだ。万一の事があったとしても対処はできる。

 気は抜けない。どこで誰が見ているかも分からない。

 二人が呼吸を整えた後も周囲への警戒心は高まる一方だった。


「にしても腹立つな。こんな日を狙うなんて」

「知らなかっただけの可能性もまだある。少なくとも出発日は公表されていなかっただろう」

「じゃあ偶然だと思うか? これ」

「いや、全く」


 狙っていなかったなどとは思っていない。そんな奇跡的な偶然の一致があるものか。

 討伐隊の出発が今朝だったという事実には驚かされたが。

 朝は知っていた時には全く見かけなかった。一体何時に出発したんだろう。


「けどそうなると容疑者が協会のヤツになっちまうんだよなぁ……あーやだやだ。同僚疑うなんて」

「……あまり考えたくないが、討伐隊に紛れて連れ出した可能性もなくはないな」

「そりゃねぇよ。あいつの魔力は幼馴染の俺が一番よく知ってる。今探せる範囲探すのが先だろ」

「同感だ」


 本人を前にしても感知できないよう何か細工を仕掛けている可能性にはリットも気付いているだろう。

 そうでなくても今あえて言う必要はない。必要なら止めるだけだ。

 捜索するのならまず、昨日魔物を仕留めたあの広場の近辺。


 しかしいざ門をくぐってみると、茂みの手前に何やら小さな人だかりができていた。

 その中には丁度見覚えのある顔もある。向こうも俺達に気付いたようで、駆け足でこちらに向かって来る。


「キリハ……! いいところに来た! ちょっとお前の力を貸してくれ!」


 ガルムさんだけではない。集まった警備隊の面々の中には見覚えのある人も少なからず混じっていた。


「一体何が? イースさんと一緒にいたライザさんを探しに行かないと……そうだ、昨日イースさんって戻ってきましたか?」

「そのイースを助けるのにお前の手も借りたいって言ってんだ。他にも何人かいるみたいだからその中にお前の探してるヤツも多分いる」

「「「……!」」」


 思わず全員で目を見合わせる。

 何人も。調査に来た二人と、遅れて来た冒険者。その中の誰かが犯人でなければほぼ間違いなく全員いるだろう。


 俺達が町に戻った後で何かが起きた。

 無駄だと分かっていても止められなかった自分に苛立ちを覚えてしまう。


「キリハ……?」

「いや、大丈夫だ。行こう。ガルムさん、案内してください」


 何より今はアイシャ達に危害が及ばないようにするのが最優先。

 ライザさん達の事を疎かにするつもりはないが、そちらにばかり気を取られて襲撃を見逃しては元も子もない。


「キリハは知ってるかもしれんがこの先だ。正直、アイシャは見ない方がいいと思うが……」

「なら俺が先に。近付いたら教えてもらえますか」


 感情を落ち着かせ、ガルムさんの後に続く。

 アイシャとユッカにはそれぞれ服の裾を掴んでもらう事にした。リットもガルムさんのすぐ後ろについてくれている。

 後ろにも警備隊についてもらい、昨日戦ったばかりの場所へ。


「……そろそろだ」

「二人とも、目を」

「う、ううん。大丈夫。キリハが一緒だから」

「わたしも平気です」

「……無理に見続ける必要はないからな」


 いざとなったら最悪、その何かだけを見えないように魔法をかければいい。

 その間にガルムさんとリットが左右に避け、とうとうそれが目の前に現れた。


「こ、これは……?」


 その先にあったのは鱗のような文様の、それでいて下手な合金よりも固そうな奇妙な物体だった。

 それを張り付けるように薄く伸びた銀色。

 触れるまでもなく、水を一瞬で蒸発させかねない熱を持っているのが分かる。


 正確には本体を支えているものと同じ、薄い皮のようなものが何重にも巻き付くことで球体のように見えるだけ。

 その隙間からイースさんの頭と誰かの手足が部分的に顔を覗かせている。

 唯一見えるイースさんの表情は苦悶そのもの。物理的な圧迫感と高熱以外にも、おそらく何かが。


「ひどい……」


 酷いなんてものじゃない。この仕打ち、悪い意味で教団にも引けを取らない。


「どうなってんだ……誰の魔力か判別つかねぇぞ、これ」

「何か不都合でもあるんだろう。それは後で調べればいい」


 一瞬浮かんだ可能性。ただの妄想であればいいが、否定できる材料は何もない。


「下がってください。近くにいると危ないん、でっ!」


 何より今は、この趣味の悪い拘束具を引き剥がすのが先だ。


「おい馬鹿! アホみたいに熱いのに何やって……!」

「この程度なら素手でも十分触れます。それに、下手に魔法を撃ったら中にいる人達が危ない」


 何も馬鹿正直に力任せの勝負を挑むわけじゃない。

 巻き付いた薄い金属の隙間に自身の魔力を潜り込ませ、閉じ込められた人達を包むように行き渡らせる。


(これで少しはダメージを軽減できる筈……だが、五人? 数え間違いではないか……)


 誰か一人、この中にいない。

 しかも内部の熱とリットが言った『魔力を紛れさせる何か』のせいか、なかなか思い通りにはいかなかった。

 内部から膨張させるのはやはり諦めた方がいい。最悪、そのせいで更にイースさん達を苦しめる事になる。


「まずは一、枚っ!」


 バキ、メキ、と危なげな音を立てて剥ぎ取った薄い金属を足元に投げ捨てる。

 念のため俺と球体のみを閉じ込めた薄い膜を張っておいて正解だった。この調子だと一枚剥がすたびに破片が飛びかねない。


「――最初の一人! ガルムさん、お願いします!」

「いつでも来い!」


 一度要領を掴めばあとはそれをひたすら繰り返すだけ。幸い、すぐに一人目の層まで辿り着いた。

 一瞬だけ膜を解き、昨日すれ違った冒険者の内の一人の身体をガルムさんに預ける。


 今ので一〇枚。ないとは思うが、修復されないよう魔力の塊をそのままストッパーとして断面に固定する。

 閉じ込められた人達の状態はまだ分からない。一刻も早く、全員を。


 残りがあと一〇〇枚だろうと、一〇〇〇枚だろうと構うものか。


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