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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅰ 目覚めるリヴァイバー
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第16話 魔物の召喚

(見落とした? いや――)


 切り裂き、思考を巡らせる。その瞬間にもまた一匹。

 次は見逃すまいとより広範囲を、より注意深く探っていたにもかかわらず目の前に現れるまで察知できなかった。


「――《魔撃》!」


 おかげでそのからくりもすぐに分かった。

 穴に隠れていたわけでも、まして姿を消す何かを持っていたわけでもない。


(……この程度の仕掛けにすぐ気付けなかったとは)


 飛ばされてきたのだ。地面の下に隠されていた巨大な機構によって。

 割れた地面から姿を現した巨大な魔法陣。記された未知の言語がひときわ強い光を放つとゴブリンが現れる。


(転送装置か、それとも生成装置か……)


 両断したゴブリンの魔結晶を拾い上げ、再び見下ろす。

 より厄介なのは後者の方。しかし問題はそこではない。


 通常、こういった代物は何かを魔力源としてその効力を発揮する。その役割を担っているものが分からない。

 まさか定期的に直接供給しているなんて事はないだろう。これだけの規模の物となればかなりの頻度で様子を見に来てやる必要がある。


(とりあえず今の内に壊してしまって、っと)


 不気味な紫色の正円の中心に《魔力剣》を突き立て一気に魔力を流し込む。

 許容量は最初の時点である程度予想がついていた。それを大幅に上回る量を流し込み、一気に回路を焼き切る。


 魔法陣の崩壊と同時に溢れた魔力はそのまま割れた地面の修復に使い、多少叩いて整えてやる。

 ひとまずこれで十分だろう。あとは戻って話を伝えておけばいい。


「――こっちですこっち! 魔物を倒しに行って、そのまま……!」


 どうやら、その前に向こうから話を聞きに来てくれたようだが。


「キリハー!」


 何より、アイシャも。


「大丈夫? なんか、変身する魔物がいたって言ってたけど……」

「勿論。アイシャもお疲れ。怪我はなかったか?」

「うん、平気。一人じゃなかったから」

「はいはい、そういうのは他所でやってねー」


 イースさんとライザさん。他に来てくれたのは二人だけだが、面識のある相手ばかりだった。


「うわ、こりゃまた派手にやったっスねー。どんな力加えたらこんな事になるんだか」

「そんな大袈裟な。集まっていた魔物を倒しただけですよ」

「いいっスよ。隠さなくても。修復してくれたみたいだし」

「……バレてましたか」

「色々と経験は積んでるんスよ、これでも。まあ同じことはできないけど」


 一応、目に見える綻びはないと思っていたのだが。

 時間が経てばほぼ完全に元通りになるだろう。魔方陣が設置される前の状態に。


「……なんの話ですか?」

「さ、さあ……?」


 とりあえず今は傍目から見て露骨でなければそれでいいか。下手に手を加えても仕方がない。


「ん? これって……」

「すみません。ここにあった召喚の魔法陣は独断で破壊しました」

「あ、そうじゃなくて。謝らなくていいっスよ。むしろ下手に残ってても困るんで」

「調査の都合もあるじゃないですか」

「どうせ残ってたところで、って感じになってたっスよ。というかよく分かったっスね?」

「目の前でいきなり魔物が現れたのを見ればさすがに」


 さすがに転送元までは特定できなかった。

 おそらくそれ自体は大した手掛かりにならないだろう。どうせ各地に設置されている。


「まあでもそれなら少しは状況もよくなるかもしれないっスね。魔物が増えた原因、どう考えてもこれだし」

「他の場所にも置かれていると考えると楽観はできませんね」

「もちろんそれも調べてもらうっスよ。幸い今は冒険者もそれなりにいるんで」


 だが全員を向かわせるわけにもいかない。

 そう遠くない内に討伐隊も集結するだろう。早ければ今夜にでも。

 魔物を相当しながら探すか、それとも。とりあえず俺の方で見つけられるものは潰しておこう。


「あとは犯人っスねー。転送魔法陣作れる人なんてもうほとんどいない筈ですけど」

「こんな事をするくらいですから、表の人間とも限りませんね」

「それはどうっスかね。表でいい顔してて実は……なんて事だってあるんスから」


 否定はできない。

 魔戦の、もっと言えば教団の中にもいた。

 疑い出すとキリがない。そもそも俺達と犯人に面識がある保証はどこにもない。


「ま、とりあえずこっちは片付けとくんで三人とも帰った方がいいっスよ。疲れてるでしょ?」

「ですね。すみません、あとはお願いします」

「了解っす」

「気を付けなよ」


 森の外へ向かう俺達とは真逆の方向を目指す気配が近付いていた。今回は冒険者だ。

 すれ違い際に見た限り、おかしな点もない。さすがに警戒し過ぎだろうか。


「でもよかったね。あれからなかなか会えなかったし」

「え、探してたんですか? わたしのこと」

「ああ。この前の事もあるから少し話をしておきたくて」

「……そういえばそうでしたね」


 まだ納得できないらしい。

 今の様子を見るに例の頼みはもう少し待った方が良さそうだ。向こうもすぐにストラを発つつもりはないのだろう。


「ついでにもう一つ、これを」


 特に、資金が枯渇している今は。

 もので釣ろうというつもりはない。そうみられても仕方がないという自覚はあるが。


「はい? ……はい!!?」

「そんなに驚かなくてもいいだろう」


 大袈裟な。手を滑らせるような事がなくて何よりだ。


「いやこれさっきの魔物の魔結晶ですよね!? こんなもの渡してなんのつもりですか!?」

「共同討伐扱いにしておけば報酬が受け取れる。この前の嘘も含めて余計な時間を使わせてしまったお詫びにさせてくれないか」

「いやいやいや! もらえないですってこんなもの! さっきだってあなた一人で倒してたじゃないですか!」

「生活資金にも困っているんだろう?」

「うっ……」


 正直このままではいつ空腹で倒れるか分からない。その前に寝床がなくなってしまう。

 説明は俺が行くとして、多少の融通は利く筈だ。

 あくまで俺は泊まらせてもらっている身。現金の他に俺が自由に動かせるものはこれくらいしかない。


「え、何? どういうこと?」

「毎朝走り込みついでに魔物を倒した話はしただろう? そのせいでここのところ宿代と食費だけで赤字だったらしい。だからせめて、当面の生活の足しにしてもらおうと思って」

「かなり倒してたもんね……それなら私も賛成。受け取って、ユッカちゃん」


 共同討伐であれば報酬の分配は冒険者側に一任される。

 最悪一リート――この国における通貨の最小単位――だけでも貰っておけばどうにかなるだろう。


「でもでも! それとこれとは別っていうか、あなたになんの得があるんですか? ……はっ、まさかこれで逆に言うことを聞かせようとかそういう――!」

「失礼にも程がある」

「キリハはそんなことしないよ? いつも家のことだってやってくれるし、何かあったらすぐになんとかしようとしてくれるんだから」

「そんなの――はい? あの、今なんて?」


 ちょっと待った。

 もしかしなくてもよくない流れでは?

 止めなければ。そう思っても話はどんどん進んでいく。


「? いつもうちに泊まるときは色々してくれるって話だよ?」

「いつも。……具体的にはどのくらい?」

「だからいつもだってば。ね?」

「あ、ああ。本当にいつも助かってる」

「ふふ、どういたしまして」


 もう無理だ。なるようになれ。

 どうしてアイシャは何の躊躇いもなく言えるのだろう。

 価値観の差。それもあるだろう。だがユッカの反応を見るに、俺だけがおかしいというわけではない。その筈だ。


「どういうことですか何考えてるんですか意味わかんないんですけど!? 泊まります? 普通、そんな毎日泊まったりします!?」

「いや、これには色々と事情が――」

「なんですか結婚を前提にお付き合いでもしてるんですか!」

「発想が飛躍し過ぎだ」

「そ、そうだよ。それに結婚なんてまだ……」


 とりあえず話を聞いてくれ。

 あとアイシャ。そういう思わせぶりな態度は止めてもらえないか。事態がややこしくなる。


「住む場所も何もなかったから条件付きで居候させてもらっているんだ。食費だけでもと思っても未だに受け取ってもらえない」

「もう、気にしすぎだよ。いつも言ってるのに」

「それでもだ。この歳になってそんな生活なんてできるわけがない」


 金の出所が疑われているわけでもない。やはりここは多少強引にでも渡させてもらおうか。

 自己満足と言われたらそれまで。だが、このままにはしておけない。


「とにかくそういうわけだからやましい事は何もない。……本当だとも。疑いたくなる気持ちは分からないでもないが」

「別にまだ何も言ってないですけど」

「そんな目を向けられたら弁明したくもなる」


 所謂ジト目。こちらの言い分を全くと言っていいほど信じていない。


「本当に変なことなんてされてないし、してないよ? 普通に一緒に生活してるだけだもん」

「それが普通じゃないって言ってるんですよ!?」


 いやまあ、分かる。分からなくもない。今の俺達の話を聞いてすぐに受け入れられたら逆におかしい。


「……まあ、二人そろってそこまで言うってことは何もないんでしょうけど……この魔結晶、いいんですか? ほんとにもらいますよ?」

「是非ともそうしてくれ。まだ頼みも決まってないんだろう?」

「あ、そっちも聞いてもらえるんですか。じゃあ先に一つだけ使っちゃいますね」


 いつの間に?

 特に内容が決められるような事はなかった筈だが。


「一つ? あ、もしかしてもう一回増やすとか?」

「言いませんよ!?」

「一度即答しておいて何を……」

「あ、あの時はあの時ですから! それにキリハさん断りましたよね!?」


 まあ実際、この期に及んで『もう一回増やしてほしい』とは言わないだろう。それならあの時もう少し食い下がっていた筈だ。

 それにしても心外だ。まさかその魔結晶で帳消しにしたと思われていたとは。こちらから渡しておいてそんな事をするわけがないだろう。


「な、なんかごめんね?」

「いいですよ別に……言ったのはほんとのことですから……」

「言ったんだ……? えっと、それで、キリハに頼みたいことって?」

「キリハさんに、というかアイシャにも関係あると思うんですけど――」


 アイシャにも。

 そこで一度ユッカは息を落ち着ける。そして。


「しばらく、いっしょに活動してほしいんです。特にキリハさんには色々聞きたいことがありますから」


 俺の方から頼もうと思っていた話を持ち出した。

 まさか向こうから言ってもらえるとは。様子見までする必要はなかったらしい。


「ど、どうですか? 悪くない話かなって思ってるんですけど……」


 当然、俺達の答えは決まっていた。


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