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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第145話 二人で食事

「あんたね……ほんとにどうしちゃったのよ。いきなりあんなこと始めるなんて」


 三戦目の勝敗が決した、その日の夜。


 荒された森もすっかり片付き、近日中には立ち入りも許可されるだろうと教えてもらった後。


 冒険者達も町へ戻り始める時間帯。

 珍しい事に、その日の夕食は外食だった。ストラにいるにもかかわらず。


 大衆向けの食堂。

 アイシャもユッカもマユもここにはいない。他の客もそう多くはなかった。


「心境の変化、とでも言えばいいのか。ここ最近は色々あったからな」

「あんたの言う最近っていつなのよ」

「あえて言うなら……バスフェー以降か?」


 より具体的な『敵』が見えるようになったのはその辺り。

 ルーラの町で好き勝手いしていた男に繋がるかもしれない手掛かりでもあった。


 そして、直接的ではない手段を用いられた。

 最終的には武力行使に至ったが。


 町そのものへの襲撃などそうそうない。

 しかし実際に、もう何度もそう言った事件は起きている。


 何より、レイス達とは別行動の最中に事件が起きる事も多かった。


 それがいつ、彼らに牙をむくか分からない。

 リィル達以上に別行動をとる可能性が高いのはレイス達。


 朝から困るくらいやる気に満ちているユッカとは別方向へのアプローチはどのみち必要になっていただろう。


「その前から色々あったでしょ。……どれもこれも最後はあんたに任せることになっちゃったけど」

「いいところどりをしていたとも言う」

「言わないわよ」

「だが、皆のおかげでより安全に解決する事ができたのは事実だ。……その分、苦労も掛けてしまったが」

「あんなの平気よ。そうじゃなきゃ冒険者なんてやれるわけないじゃない」


 ただ力で叩き潰すだけではどうにもならない問題。

 力で解決できるトラブルにおいてもそう。リィル達の存在は大きなものだった。


「それよりちゃんと答えてよ。あんたが勝負なんて持ちかけた理由。そんな参加券まで持ち出して。行けばよかったじゃない」

「断ったのを押し付けられたんだ。だったら有効活用させてもらうしかない」


 何より、背後の陰も掴めていないのにこの講演会に乗り込んでいいものか。


 協会経由、かつ様々な人々が知る有名な人物。

 町のあちこちにポスターも掲載されていたから、偽物ではない。

 そういう意味での危険はない。


 しかし、向こうの思惑通りに俺が動いたとして、それがどう影響するか分からなかった。

 俺の性格すら把握しているのなら、辞退する事すら織り込み済みかもしれないが。


 それにしても妙な話だ。

 一体どこの誰が、何のために。


 妙な呼び名が定着したとはいえこの世界での俺の存在などたかが知れているだろうに。


 しかし、そんなことを悠長に考えている暇などなかった。


「……誘おうとは思わなかったのね」


 リィルの不満そうな顔を見て、余計な思考に脳を費やせる筈がなかった。


「もらった時に言われたし、その前にも一度考えた。だが……そこまで気になるものか? この内容……実習があるとはいえ、どこかであくびしてしまいそうで」

「あんたさすがに怒られるわよ? 有名な人じゃない。その参加券が欲しいって人も大勢いるのに」

「ということは、リィルも?」


 それは悪いことをした。


 リィルが気になっていたのなら賭けの対象にするべきではなかった。間違いなく。


 問題はむしろ二枚しかないこと。

 冷静に考えてみれば、ユッカが欲しがってもおかしくない。


 しかし、『ユッカと二人だけで行くのはどうか』と言える雰囲気でもなかった。

 少なくとも、今のリィルはそうは見えない。


「べ、別にあたしは誰かを押しのけてまで聞こうとは思ってないわよ。……あんたが行くならって思っただけで」

「そう思うということは、やはり興味も少なからず……すまなかった、リィル。そういうことなら――」

「そこまでしなくていいわよ!?」


 まさか俺がそのためにやらかすとでも思ったんだろうか。

 ルールに抵触しない程度にあの手この手で勝利をもぎ取るとでも思ったんだろうか。


 よりにもよって身内の勝負で。

 手は抜かないにしても、そこまでやるつもりは微塵もない。


 勝った時にチケットを譲る予定だったところを、渡す相手を変えようと思ったくらいで。


 レイス達が興味を持ち、かつ彼らにプラスになるような物であればよかった。

 まして、講演会のチケットにこだわるつもりなど全くない。


「そ、そんなことよりあんたは? 興味ないわけじゃないんでしょ」

「ないこともないが……言ってしまえばそれだけだ。この辺りの戦い方を参考にするにしても、正直これは違うと思う」

「……そんなこと考えてたわけ?」

「勿論。向こうとこちらでは色々違う部分も多いからな」


 あの触手しかり、協会しかり、大気中の魔力しかり。


 俺の現状とも少なからず関係はあるだろう。

 環境に責任を押し付けるつもりではないが、間違いなくある。


「この先俺を狙うようなもの好きが現れるとしたら、当然そいつは俺の戦い方を研究している筈。対策できるわけがない、なんて言えるようなものでもないからな」


 それこそ参考資料は山のようにある。

 過去の出来事だろうと、まるで今目の前で起こっているかのように知る手段は山のようにある。


 どれだけ当てになるか知らないが、戦っていた相手から絞れば役に立つデータは揃うだろう。


 問題は、それを活かせるだけの技量を持つかどうかのただ一点。

 あの男程のものはそう生まれないにせよ、警戒して損はない。


「さ、頭の痛くなるような話はここまでだ。そんな話より、リィルが気になっている場所を俺は知りたい」

「…………はぁっ!?」


 丁度食事も運ばれてきた。

 わざわざ食事の時間に暗い話をする必要もない。


「な、なんでそんなこと……!」

「なんでも何も、そういう流れだっただろう? この講演会への興味はこの際いいとしてもだ。一つくらい教えてくれてもいいじゃないか」

「別にそんなのないわよ! …………ないわよ!!」

「なら何も繰り返すことはないだろうに」


 やはりあるんだろう。何か。おそらく。


 その証拠にリィルは目に見えて動揺していた。


「問い詰められると思ったから否定したのよ! そんなに気にになること!?」

「気になるに決まっているだろう」

「なんっ…………!?」


 話を聞いてもらった件もある。

 個人的なお礼をしたいというのも偽りのない本心だった。


 少しばかりリィルを慌てさせているかもしれないが、それはそれ。


「それにしても、問い詰めるなんて人聞きの悪い。海底遺跡の奥底だろうと、あの雲の上だろうと、リィルが活きたいのならどこへでも向かうつもりだったのに」

「あんたは変なところで大袈裟なのよ! あたし何もした覚えないんだけど!?」

「リィルが気付いていないだけで物凄く助かっているんだ、これでも。だが確かに今のはやり過ぎだった。忘れてくれとは言わないが…………リィル?」


 視線をそらして、まるで何かを言い出そうとするかのように。


 しかしやがて、百面相を浮かべた後にリィル自らその答えを明かしてくれた。


「べ、別にいきたい場所がないなんて言ってないでしょ。さっきから。……ほんとにどこでもいいのよね?」

「俺が移動可能な範囲であれば」


 海底も上空も、少し魔法の調整は必要になる。

 しかし決して不可能な領域ではない。


(それにしても、リィルはどこに――)


「…………あんたの故郷、とか」

「さすがに無理だ」

「先に言いなさいよ! 期待しちゃったじゃないの!?」


 ……知り合って間もない頃にも一度伝えた筈だが。

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