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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
VI 元気いっぱい 幸せいっぱい
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第144話 三戦目

 思えばあの頃競い合っていたのも、まさに今のような、些細な理由からだった。


 決して関係が険悪だったわけではなかった。

 むしろ、真逆――俺のことを、最後まで親友と認めてくれていた。


 組み手で、魔法で、その他のスポーツで。

 とにかく思いつく限りの事で勝負をした。時には試験の成績を競いもした。


 組織の設備が整っていたおかげだろう。本当に自由にやれた。


 正直なところ、実力が完全に拮抗していたとは言えない。

 当時最強とまで謳われた師匠のトレーニングは、最終的に想像もしないような成果をもたらした。


 それでも、そいつも俺も心の底から不満を覚えたことはなかった。

 どちらが負けたとしても、それは変わらなかった。


 その時だけは戦いの醜さも、何もかもを忘れる事ができた。

 今のレイス達に負けず劣らず騒いでいた。


 そのことで、何度イリアに呆れられたか分からない。


 ヘレンの悪乗りも、あの人の慌てぶりも――今となっては、何もかもが懐かしかった。






「なるほど……宝探しか」


 あるいはオリエンテーリング。


 イリアが領域に帰って、皆の休憩も終わったと思っていたら。

 森の中にそんなものを仕掛けていたとは。


「そういうこと。森の中に柄のついた石を埋めたからたくさん集めた方の勝ち。やっぱり、分かりやいのが一番だよね」

「違いない。それにしても、いつの間にそんなものを……」

「昨日の内にちょちょいとね? 触手が暴れた範囲が限られてたおかげだよ」


 まさか深夜にやったわけじゃないだろうな。


 考えてみても他に作業できそうな時間がない。

 昨日の勝負の最中に少し席を空けていたような気はするが、それにしたって仕掛けられる数に限度がある。


 触手との戦闘の影響は微々たるもの。

 魔物が俺の魔法の巻き添えになったわけでもない。あの触手が魔物を吸収したわけでもない。


 精々、木々を押し潰された区画の見通しがよくなった程度。


「でも、苦労したんだよ? 簡単に見つからないような場所に隠さなきゃいけなかったんだから。ねぇ、イルエちゃん」

「おかげでクタクタにされたですよ……もう二度とやんねーですからね……」

「なにやってるんですか。イルエもレアムも」

「こっちが聞きてーくらいですよ……」


 珍しい。イルエがあれほどぐったりしているなんて。


 レアムが見せてくれた見本から察するに、石は精々サイブルの魔結晶程度。

 隠そうと思ってもそこまで労力を要するものではない。筈だ。


 まさか地中深くに埋めたわけでもないだろう。道具がなければ不可能だ。

 不在だった時間からしてそれはない。……むしろそのせいか。すぐに戻ろうとしたばかりに。


 同じ場所に固めてしまっては意味がない。

 魔物やほかの冒険者に回収されないようにと思えばそうなるのが自然だ。


「ちなみに、地図はリィルちゃんに頼んで作ってもらいましたー。こうすれば不正のしようがないもんね」

「そんな使い方するなんて聞いてなかったわよ!!」

「あれ? そうだっけ?」


 通りでやたら丁寧だと思った。


 つけられた印は二〇。見比べたが、違いはない。

 その全てに隠されている筈がない。二人のチームと俺がそれぞれ五個集めてしまっては勝負がつかない。


「な、なぁレアム。これってさ……」

「あ、ハンデはないよ? さすがに《小用鳥》は禁止させてもらうけど」

「それだけかよ!?」

「十分でしょーが。そもそも二対一ってこと忘れてねーですよね?」

「バランスがとれるように調整したんだから。もちろん横取りもなしだよ」

「何故俺を見ながら言った?」

「やれるとしたらキリハ君の方だし」


 ……もう少しくらい言い方があるだろうに。


 案の定レイスは唇を尖らせていた。

 そもそもそんなくだらない真似をする必要がない。仲間内での勝負であれば猶更。


 それにしても、これだけのものをよくもまあ用意したものだ。

 機動力や腕力でゴリ推したところでどうにかなるようなものでもないだろう。


 妨害も禁じられているのだから、当然、人数が多い方が有利になる。


「そして、俺が《小用鳥》を使った時に備えて対策もしてあるわけだ。地中に埋めてやれば途端に見つけられなくなるからな」

「キリハ君、キリハ君。ちょっと確認。……見てたわけじゃないよね?」

「いいや、全く」


 最も確実かつ、簡単な方法。

 ビルと違って隙間から侵入させることも出来ない。


 あの小鳥の魔法に、掘り返された跡を正確に捕捉できるほどの認識能力などない。

 地図の印の位置に絞って調べさせたところでズレはある。それなら目で見た方が早い。


「そんなこと、キリハはしないと思うけど……」

「念のためだよ。念のため。それに毎回キリハ君の成果を割ったり引いたりしたらリィルちゃんの機嫌も悪くなりそうだし」

「ならないわよ!?」

「でもリィル、不満そうな顔してたじゃないですか。思いっきり」

「あ、あれは別にそういうのじゃないわよ!」


 俺の節穴同然の目でどこまで見つけられるか、分かったものではないが。


 まさかここまで引き摺ってしまうとは。我ながら読みが甘い。

 負けたところで何かが減るわけでもないが……個人的な感情の問題だろう。


「すまない、リィル。そこまで頭が回らなかった。だからというわけではないが……次は前もって相談してもいいか?」

「勝負しようとか言い出す前にしなさいよ。絶対に」

「勿論。分かった。了解。……そんな疑いの目を向けなくても」

「いきなりあんなこと言い出したのはあんたの方でしょ」


 それを言われてしまっては何も返せない。


 もう何度目だろうか。

 俺があんな話を持ち出すのがそこまで意外か。


 俺が平和主義者に見えたわけでもないだろうに。普段の行動を見れば猶更。

 あんな乱雑な戦い方をするわけがない。自覚はある。


「だ、そーですよ。よかったじゃねーですか。次が楽しみですね?」

「……そういうことなら、次はイルエも巻き込むか」

「自分達が強くなるって発想はねーんですか」

「そりゃそうなんだけどさ? キリハがよく言ってるじゃんか。『それはそれ、これはこれ』って。つまりそういうことだよ」

「どーいうことでしょーね」


 現状のまま無暗に人数を増やしたところで……


 エルナレイさんのような人を助っ人に呼ぶのなら話は変わる。

 羨望を集め、多忙な立場にあるあの人をこんなお遊びに巻き込めるわけがないのだが。


 カウバを発った後も既に七つの町を行き来したと聞いている。

 幸い、大事にはならなかったそうだが。


(……まあ今は、そんなことより)


 早いところ始めてしまおう。

 遅くなるわけにもいかない。


「き、気を付けてね! あと、その…………」


 そう思っていたのだが。


「? 他にも何か?」

「う、ううん! なんでもない。なんでもないの、うん」

「なんでもないなんてことはないだろう。気になることがあるなら今のうちに――」


「道に迷うなって話に決まってるでしょーが」


 いつ振りだろう。場の空気が固まったと感じたのは。


 皆の視線が向けられたのは俺。

 全くもって不可解だが、明らかに俺を見ている。


「あー……《小用鳥》使えないとそっちの心配があるんだった……大丈夫? 何か持って行く?」


 それどころかレアムに至ってはこの始末。……そういうことか。


「………………揃いも揃って俺のことをなんだと思っているんだ?」


 慣れ親しんだ町の近くの森で迷うとでも?

 いざとなれば脱出手段があることも忘れたか。


「ち、違うんだよ? この前のことだってあるし、何かあったら――」

「大丈夫だ。何も問題はない」

「…………へ?」


 ああ、そうだとも。問題など起る筈がない。


「心配しなくてもすぐに終わらせる」






 そして。


「――四対一。レイス君もトーリャ君も見事に外ればっかり引いたね?」

「くっそぉぉおおおお…………!」


 これでまたリード、か。

 一日に二度もしてやられるわけにはいかない。


「ま、まだ分からないだろ! 次だ! 次!」


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