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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅰ 目覚めるリヴァイバー
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第13話 臨時の措置

「――本当にごめん!!」


 それからしばらくして、リットと共に再び支部へ。

 戻ってきた俺達を待っていたのは罪悪感が周囲に漂うほど申し訳なさそうな表情をしたルークさんだった。


「いえ、そんな……ルークさんが決めたわけではないでしょうし」


 もっと上、具体的には支部の中でもかなり上の地位に就いている人物だろう。

 しかし何故こんな馬鹿な真似をしようとしたのか。言い出しっぺには一度じっくり話を聞かせてもらいたいものだ。


「結局あれは何かの試験だったという事でいいんですよね?」

「リットから聞いた? って、そういう訳じゃなさそうだね。まあでも正解。昨日の騒ぎを踏まえて対応を見てみようって話になったんだ」

「昨日の今日で」

「最低限問題がなければすぐにでも魔物の討伐に加わってほしかったんだと思うよ。ほら、最近色々と妙な事になってるから」

「昨日のゴブリンなんてその筆頭になりますね、言われてみれば」


 まだ原因は突き止められていない。同じような事態を想定するのは当然の事だ。

 その際に俺が戦ったとして、毎回同じような警告を出すのは手間だろう。

 だからと言っていつまでも討伐禁止の状態を続けさせるわけにはいかない。そんなところか。


「まあね。でも、定期試験を待たずに昇格させるって言ったくらいだからかなり深刻に捉えているんだと思う」

「……苦情が来たりしないんですか、それ? 主に俺に」

「前例がないわけでもないんだよ。今回みたいに別の条件を付けて昇格させる事って。特に君の場合、二人って事を差し引いてもしっかり納品してくれていたから」


 それにしてもだ。

 アイシャ曰く『かなりの量』だそうだがもう少し様子を見てもいいだろうに。

 何より。


「近くの町に増援は頼めないんですか? ほんの数人増やしてもその場しのぎにしかならないような……」

「今やってるところだよ。近い内に討伐隊として集められると思う」

「なら、俺もそこに組み込まれるわけですか」

「それはないかな。討伐隊が集まるまでの間の戦力確保と――いや、憶測で語るのは止めておくよ」


 まだ何か?

 万一の備えではない筈。少なくともそんな信頼を寄せられるような接点は俺にない。

 その時には当然動く。そんな事にならないのであればそれに越したことはないが。


「結局、俺について探っていた内の一人はリットだったわけですか。本当なら彼だけの筈だったんでしょうけど」

「そうなんだよ。あの後で話を聞きに来た人はいないけど気を付けて。そっちもまだよく分かってないから」


 さっきの少女はそこまで警戒しなくてもいいような気がする。

 技量云々の話ではなく、悪事そのものに向いていないように見えたのだ。


 とにかく事情は把握した。魔物討伐が解禁されるのなら特に拒む理由もない。

 どの程度の規模が現れるか分からない。また一つ、鍛え直す理由が増えた。万一の時に動けないようでは意味がない。


「ところで、ずっと気になってたんだけど……」


 そこでやっと――あるいはとうとう――ルークさんの視線が向けられる。


「……どうしてこんな状況に?」

「例の試験が原因、としか」


 俺達から音も立てずにミリ単位で距離を取り続けるリットと、お構いなしに睨み続けるアイシャへと。


「いやそれがさぁ、聞いてくれよルーク。あの子さっきからずっとこんな調子で。……ぶっちゃけ割と怖い」

「そんなこと言うなよ。まあ……少し刺々しい雰囲気なのは間違いないけど」

「すみません。俺が迂闊に乗ってしまったばっかりに」

「別にキリハ君の責任ってわけじゃないよ。試験を決めたのは支部長だし」


 仮登録云々に関して支部長の一存である程度自由に決められるわけだから、それ自体は何もおかしな話ではない。

 だがその支部長もさすがにこの展開は予想していなかっただろう。


「もしまた同じことしたら……」

「さすがにない。むしろ試験だったおかげで色々活動にも幅ができたじゃないか」

「そうだけど、そうだけど! 普通に戦うとか、もうちょっとあったと思わない? あんな卑怯なやり方じゃなくても……」


 そこまで言うか。

 あのくらいならまだマシな方だろう。本当にそのつもりがあったのならそれこそこの前の誰かのように姿も隠して襲撃する筈。

 それに不意を突いた攻撃と言うならアイシャの炎弾も正直なかなか……いや、止めておこう。


「だ、そうだ。リット」

「お前どっちの味方だよ? というか普通に防がれた俺の立場は?」

「アイシャの味方に決まっているだろう?」

「まあそうなるよね」


 支部長がこの状況を狙っていたのなら呆れを通り越して感心するレベルだ。山のような苦情を送り付けてやりたくなる程に。






「アイシャったらそれでずっと怒ってたのね~」


 さすがにあの後で依頼を始めるのは厳しいという事で、公衆浴場に寄ってアイシャの家へ。


「でも駄目よ~? そんな風に魔法を使ったら。怪我をさせたかもしれないんだからね~?」

「でもあの人が――」

「それとこれとは別問題でしょう~?」

「う……」


 そうして始まったのは正論タイム。

 俺にとっても耳の痛い話だ。そういう目的のために魔法を使った経験がないわけではなかった。

 そしておそらく、状況次第では今後も。毎回相手の目的がすぐに分かる筈もない。


「キリハ君も気を付けて頂戴ね~? この子ったらキリハ君のことになると周りが見えなくなりやすいみたいだから~」

「そそそそんなことないよ!? いつの話!?」

「おかしいわね~? キリハ君が疑われた時すごい勢いで否定したって聞いた気がするけど~?」

「……すみません、本当に」


 罪悪感が。罪悪感が。

 もう少し俺が落ち着いた行動を心がければいいのだろう。さすがに今回の件を完全に防ぐのはほぼ不可能だが。

 初撃の時点でアイシャの中でアウトの判定が下っているだろうからどうしようもない。

 最初の突進の前に足を掬えばあるいは。それでも戦闘は避けられなかったと思う。


「大変なのはこれからかもしれないわね~? 昇格したって事は魔物と戦う機会も増えるもの~。アイシャは大丈夫~? キリハ君に迷惑かけちゃ駄目よ~?」

「そ、そんなことないもんっ。最近は魔法だって真っ直ぐ飛ばせるようになったんだから!」


 根本的解決に至ったとは言えない。

 あの処置を続ける事で改善は見込めるだろうが完全に解決するわけではない。

 不要とは言わない。解決策を見つけるまでの間は必須と言ってもいい。

 ただ、炎弾以外のスタイルの方がより安全に使えるという可能性が残されているのも事実だった。


「……本当に~?」

「順調ですよ。とはいえすぐに魔物の討伐に向かうつもりはありません。俺の方もまだ勝手の分からない部分が多いですから」

「それならいいのよ~」


 昨日のようなケースは勿論別だ。放置するつもりは微塵もない。

 調査は今も続いている筈。だが今のところ協会からそういう発表はされていない。

 見つかっていないのか、それとも公表できるようなものではないのか……後者だとしてもさすがに避難指示が出るだろう。


「待って。待って? なんでキリハに訊くの? 私は!?」

「こういう話ならアイシャに訊くより確実だもの~」

「ぅ、それは……」


 それはそれでどうなんだろう。別に誇張する性格でもないと思ったが。


「ほら、そろそろご飯にするわよ~。アイシャ、外でお水汲んできて~」

「いえそれなら俺が――」

「キリハ君にはこっちでやってもらいたい事があるから~」


 ……ああ、そういう事か。


「いいけどキリハに変なこと言わないでね? 今度こそ絶対だよ?」

「言わないわよ~。お母さんのこと疑ってるの~?」

「……もう色々言われたんだけど」

「じゃあ少し増えても大丈夫ね~」

「大丈夫じゃないよ!? ごめんキリハ、こっちと変わって!」

「冗談よ~。それよりちゃんとお願いね~?」

「……お母さんと話した事、あとで教えてね? 全部」


 目が本気だった。

 あれか。初めて泊めてもらった日の。

 ああ言いたくなるのも仕方がない。俺も同じ立場だったせめて余計な事は言われないようにと考えた。絶対に。

 なんて、いつまでも冗談ばかり言ってはいられない。


「まさかそこまで頭に血が上ったなんて……本当に相手の方に謝罪しに行かなくていいのかしらね~……」

「本人からお墨付きをもらってますから。協会も多少の怪我は想定の上で行ったそうです。向こうが先に仕掛けてきたのも事実ですし」


 魔法を撃った件に関しては俺も一緒に謝った。

 その時リットが少し、ほんの少し茶化したり余計な一言を付け加えた結果ああなっただけで。さすがに向こうも予想外だったらしいが。

 いつまでも引きずったりはしないようにとリットも考えて、わざとやったんだろう。他にやり方があったのではないかという話はさておき。


「でもこのままにしておくわけにもいかないでしょう~? キリハ君が一緒にいてくれるつもりでも、それが難しくなることだってある筈よ~」

「否定はできませんね……交友関係が広がれば俺一人にばかり目が向くという事もないんでしょうけど」

「それができれば苦労しないわよ~」


 家族は勿論、ガルムさんもそういう括りには入らない。

 あいつは……ああ、駄目か。わざわざ人前に出てくるわけがない。

 理想はもう少し年代の近い相手。だがそんな相手が都合よく見つかる筈も――


「……待てよ?」


 いたな。一人。

 別に無理に親しくなる必要はない。だが、会えば挨拶するくらいの関係なら。

 向こうの事情もあるから無理は言えない。そもそも名前も分からない。


「何か思いついたみたいね~?」

「少し。本当に思いついただけなのでどういう結果になるか分かりませんけど」

「それでもいいのよ~。頼んでばかりだけど、任せてもいい~?」

「勿論です」


 交換条件を持ち出すのは姑息かもしれないが、俺自身訊きたい事がある。

 次会う機会があればあの少女と少し話をしてみるのも悪くない。


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