第100話 カバンの底から
「……ん? って――!」
アイシャ達と合流し、見つけた宿。
空き部屋の都合で全員が同じ部屋という状態でありながら皆冷静だった。
「誰っ! これ持って来たの誰よ言いなさい!」
リィルが鞄の奥底で忘れたいモノをみつけるまでは。
何故か正座のまま並ぶよう指示され、従った結果角が生えてきそうな勢いのリィルに見下ろされる。
「えっと、それってもしかしてこの前の? 貰ってたんだ?」
「だって記念にっていうから――じゃないわよ! なんでこんなもの……! ユッカあんた何のつもりよ!」
「やってませんけど!?」
「あんたずっと同じ部屋だったわよねぇ……?」
そう思うならどうして俺達まで。
確かに一部の荷物はストラ――もっと言えば、アイナさんに頼んで預かってもらっていた。
ユッカもリィルもすっかりストラが拠点になってしまっている。
そろそろ故郷へ顔を出すくらいしてもいいだろうに。
……今回の件が片付いたらそれもありか。
方角的にそのまま向かえないのが惜しいところ。
それはそうと、ユッカが本当にそんな事をするだろうか?
「キリハさん助けてください! 怖いですリィルがいつも以上に怖いんです!!」
「あんたキリハを盾にして――」
「待った。ストップ。一旦落ち着こう。昨日の夜にはなかったんだよな、その服。用心深いリィルのことだ。確かめたんだろう?」
「………………なかったわよ。絶対」
背に隠れるユッカはやはり、やましいところがあるようには見えなかった。
冗談半分に何度か『着たらいいんじゃないですか?』と言っていた気はするが、それとこれとは別問題。
まさかコスプレするためだけにこの街へ来たわけではないだろう。いくら知り合いに会う可能性が少ないからと言っても。
そしてリィルの態度。
野営地からカウバまでのどこかで突っ込まれたと考えるべきだろう。
「他の場所で入れられた、なら、今まで気付かなかったのはおかしい、です。でも――」
「誰にも荷物渡してなかったよね? じゃあどうして……」
ストラを出発してから今日まで、荷物の中身を確かめる機会は何度もあった。
だからこそますます分からない。まさかメイド服に足が生えて追いかけてきたわけではないだろう。
「そうだ、リィル。そこにあるのは本当に店主さんから貰ったものなのか? よく似た偽物という可能性は」
「ないわよ。この襟のとこ。名前あるでしょ。……あんまり覗き込まないでよ?」
「勿論」
いつの間にこんなものを。
半ば押し付けられるように店主さんから渡された衣装にそんなものはなかった。
わざわざ貰ってから自分の名前の刺繍を入れたのか。……俺も頼んでみよう。
「誰かが別の服入れてた方が怖いですよ。そのまま持っとけばいいじゃないですか。ストラに預けて行こうとするからそうなるんですよ」
ストラに。
問題はそこだ。あれだけの距離を移動した方法。
まるで瞬間移動――
(まさか……)
瞬間移動。そうだ。その手があった。
誰にでもできるものではない。ないのだが、できるやつにはできる。
「? キリハどうかした?」
「やりそうなやつに心当たりがある。……ここは一度収めてくれないか? 見つけたらその時はちゃんと伝えると約束する」
罪状プラス一。……本当に何を考えているのだろう。
少し、本当に少しだけ自信がなくなって来た。
基本的に行動には何かしらの意図があると思っていたがさすがにない。これはない。
「……ほんとなんでしょうね?」
「ああ、必ず。すまない、こんな形で迷惑を掛けてしまって」
「あんたが謝ったって仕方ないでしょ。……いいわよ。今は」
どうしてくれよう。
さすがに『久しぶりー』なんてノリでは済まされない。
絶対にこれだけでは終わらない。また何か仕掛けてくるに決まってる。
「どうせなら着ちゃいましょうよ。宿なら誰もいないですし」
「あんた話聞いてた!?」
……そんなことを言うから疑われるんだろうに。
「だってこの前、服に合いそうな髪が――」
「だ・ま・り・な・さい!! あんたいい加減にしないと炎魔法浴びせるわよ!?」
「!?」
その時、何かが崩れ去る音が聞こえたような気がした。
「お、落ち着いて! ちゃんとその時は二人にきりにするから、ね?」
「アイシャも変な気つかってるんじゃないわよ!?」
聞いていない。俺は何も聞いていない。
壁際でもまだ声が届く。
いい機会だ。ユッカの体力の目安を更新、して――……
「いつにもまして賑やか、です」
「一体どこからそんな体力が……そういうことなら、一足先に火種は退散させてもらおうか」
「マユもそのつもり、です」
また、妙な感覚が。
……どうにも、バスフェー以降こういうことが増えてしまっているような気がする。
「あ、あれ? キリハは?」
ようやく話がまとまりかけた頃。キリハの姿を見つけることができなかった。
「もう休んでる、です」
「「「!」」」
しかし、アイシャ達はこのタイミングを待っていた。
「全員集合」
キリハが休むベッドから遠ざけた円テーブルを囲む。
その上には小さな図が広がっていた。
「……どうする、ですか?」
「どうもこうもないでしょ。エルナレイさん以外場所とか何も分からないのに」
「作ってもらうだけじゃないって言ってたもんね……難しいこと頼まれたらどうしよう……」
「そのときはキリハさんに手伝ってもらうしかないですよ。作ってもらえなくなるくらいなら気付かれた方がまだいいです」
アイシャ達は知らなかった。
迷宮の剣が最近、調子がいい理由を。
キリハが受け渡された武具との向き合い方に頭を悩ませなくなった理由を。
「でもキリハに渡すんだよ? それを手伝ってもらうって……」
「キリハさんもユッカさんに聞いてたからおあいこ、です」
「ほんとにね。ちゃんと言ってくれればいいのに」
「今の誰に向かって言いました?」
リィルの顔はユッカの方を、しかし目はキリハに向けられていた。
つまるところ、二人ともに言いたかったのだ。
「でも、あの手袋には負けられない、です」
アイシャ達がいつも以上に力を入れているのには当然、理由があった。
冷たいよ風がアイシャ達に冷静さを取り戻し、その時やっと気付いたのだ。
「結局分かりました? あれ、いつからつけてるのか」
「それが全然……ごめんね。いっしょに住んでたのに」
「やっぱりレイスさんに聞いておくべきだった、です」
「あいつもやたら誤魔化そうとしてるものね」
悩む少女達。
「いやぁ、愛されてますねーあの人」
そこへ元凶たるその人物は音もなく現れた。
「だ、誰!?」
「怪しいものではないですよー。って、似たようなこと前も言いましたね。おひさでーす」
「お、おひさ……?」
「忘れちゃいました? えっと――そう、リィルちゃん。声で分かりません?」
「…………あぁっ!?」
ストラで会った占い師の事をリィルは当然よく覚えていた。
今も顔は隠したままのその人物を思わず睨みつけてしまう程に。
「あんたなんでこんなとこに!? どこから入ったのよ!」
「静かにお願いしますねー。私の存在気取られないように力遣ってるんで、ちょっと今日の防音弱めなんですよ。気付かれるとちょっと困るんですよぅ」
「じゃあもしかしてキリハが早く寝たのって……」
「あ、違います違います。シンプルに疲れが溜まっちゃってるんじゃないですか? あの人もなんだかんだ言って人の子ですからねー」
「「「……」」」
占い師を装う人物が何気なく言い放った一言に顔を見合わせるアイシャ達。
軽い調子にも聞こえる言葉に、何故か他の意味があるようにも思えたのだ。
「いやいやそんな話はどーでもいいんです! 今日はみんなに、ちょぉーっと耳寄りな情報を持って来たんですよ♪」
続く言葉はそんな雰囲気を打ち壊すように明るいものだった。




