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19話 トウシの敵じゃない。


 19話 トウシの敵じゃない。


「偉そうにほざきやがって……小賢しい貴様には、死を学習する機会をプレゼントしてやる。存分に味わえ」


 そう言いながら、ロイガーは続けて拳をたたきつけようとした。

 が、


「……死は……まだはやい……」


 血を吐きながら、

 トウシは、

 ロイガーの二発目を、寸でのところで回避して、


「そっちこそ……このワシに、同じ一撃が、何度も通ると思うなよ。速度も角度も学習済み……あと、こっちもなぁ!」


 そう言いながら、トウシは、体をグルンと回転させて、



「うおっ!」



 ロイガーの足を綺麗に払う。


 無様に倒れたロイガーに、


「学習ってのは、見たままをコピーすることやない。正しく理解し、修正点を推測・予測して、その上で、広範囲に応用できるところまでたどり着いて、ようやく、学習は成立する」


 再現性と可能性。

 トウシは、未来を演算する。

 トウシの目には、はるか先が見えている。


「骨格を躍動させる流れはだいたいつかめた……あとは、人体の構造にのっとって成立させればいい……ワシが構築したAIの演算力をナメんなよぉぉ!」


 学習とは、相互性でもある。

 これまでに学んできた知が、他の学びでもいかされる。

 そうやって、積み重なっていく。

 厚みを増していく。


 ロイガーが、1の武を披露すると、

 トウシは、10強くなる。


 さらに、ロイガーが、1の武を披露すると、

 トウシは、10に10を掛けた強さを得る。


 信じられない成長速度で、

 トウシは、武の真髄を学習していく。


 1分ほどの『ぶつかり合い』を経たところで、

 トウシは、


「お前の武は、もう、全部見えた」


 ハッキリと、そう言い切った。

 ロイガーは、奥歯をかみしめて、

 怒りに震えながら、


「全部見えただと? ナメるのも、いい加減にしろ、クソガキぃ! 私が、この領域に到るまで、いったい、どれだけの時間を積んできたと――」


「お前が『どんだけの時間をかけてきたか』なんか知るわけがないし、知りたくもない。ワシが、お前に言えることは、一つだけ。お前が積んできた全部は、ワシにとって、一分で丸裸にできる程度でしかない」


 バッサリと、切り捨てるように、そう言った。


 そして、それは、大言壮語ではなかった。

 まっこうからの本音。

 嫌味でも不遜でもない。

 ただの事実を口にしただけ。


「ほなの、ロイガー。おどれは、武人としては微妙やけど、経験値としては、少しだけ有用やった」


 最後にそういうと、

 トウシは、グンと、一気に加速して、

 勢いよく回転しながら、距離をつめ、


「はい、どーんっ!」


 完璧な延髄蹴りを叩き込んだ。


 何もかもが完璧な一撃。

 その凶悪な一手を受けたロイガーは、当然、




「ぶへぁあああああっっ!!」




 白目をむいて吐血して、

 その場にバタリと倒れこんだ。

 精気を失った姿。

 確実に殺したと判断するトウシ。


(……よし、勝てる……グレート・オールド・ワンといえど、F-クリエイションを有する今のワシの敵ではない……これなら、この先、どうにかやっていけそうや……まあ、ロイガーが、最弱のGOOという可能性もないわけではないけど……)


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