みんな癖がありすぎる件
「……陛下、宰相閣下の仰る通りですわ。もしこの婚約が実現すればお二人とも要らぬ諍いに巻き込まれるだけです。陛下はお二人を不幸にしたいのですか?」
「い、いやそういうわけでは」
「…あ、あの…」
「あ…だ、大丈夫だよ」
アリネーラ様、言ってることはまともなんだがちょっと声が固すぎです
ピリピリした空気にセレスティナ様がオロオロし始めちゃったので笑顔で手を振っておく。
多分自分の子供は平気だから大丈夫だろうという感覚なんだろうがあんたの息子は特殊だからな?!
心配しなくていいよという思いを込めてにっこり微笑むとセレスティナ様も無表情ながら雰囲気がパッと華やかになった
彼女の少し控えめな装飾のライムグリーンのドレスと相まって妖精の王女のようである
か わ い す ぎ だ ろ
「エルちゃんセレスティナちゃん、大人のお話はこの人達に任せておいてお茶にしましょう!
お庭の薔薇が見頃なのよ〜!セレスティナちゃんにも見て欲しいな!」
母上ー!!
このタイミングでそりゃあねぇよ!!
あとあんたも大人サイドだからな?!何しれっとこっちに混ざろうとしてるんですかねぇ?!?!
このタイミングでその発言は場合によっちゃ側室は第一王子を蹴落として自分の息子を王にしたいと言ってるように聞こえるっつの!!
あ〜宰相閣下のお顔が怖く……ならない?
「…かないませんねアンジェリカ妃には」
「アリネーラ様、呼び捨てでいいといつも申し上げてるのに〜」
「…考えておきます」
悪意無きは強きかな
母上は絶対「息子と可愛いセレスティナちゃんとお茶したい!」しか考えてないからなぁ
アリネーラ様も呆れながらも微笑んでるし。というかこれ俺がクソバカ王子のままだったらこんな和やかな雰囲気になってないよな?
テンプレならクソバカ王子がいきなり「父上、こんなブスが俺の婚約者なのですか?」とか言って宰相閣下が「殺すぞこのクソガキが!!」ってなるヤツだもんな…よかった転生してて
「ふむ、お茶を頂いたら帰ろう。いいねティナ?」
「ええ、それがよろしいわ」
だから!言葉が固いんだよ!もう少し柔らかく会話しろ!!
「あ、あの…私は…魅力が無いのでしょうか…」
あーもー!!アリネーラ様と宰相閣下の馬鹿!!!セレスティナ様の雰囲気が悲しげになっちゃっただろうが!!焦りすぎなんだよ!!
推測だけど、公爵家の侍女さんとかもしかしたら母君は婚約に乗り気なのかもしれない。そしていつも以上に磨き上げた彼女を誉めまくり、王子様だってメロメロになるに決まってます!!と言って送り出したんじゃないのか?
彼女にだって承認欲求や恋愛に対する人並みな憧れだってあるだろうに
宰相閣下、娘を守ることに必死になり過ぎて娘の気持ちへの配慮出来てない…
「ち、違うよ!!
セレスティナ様はとっても魅力的ですよ!俺みたいなポンコツ王子にはもったいないぐらい!!」
「ふぇ?!」
あ…驚いた表情めちゃくちゃ可愛いです!!ごちそうさまでした!!
ついでに宰相閣下にジト目を送っておく。
お前が過保護過ぎるせいで娘さん逆に傷ついちゃったじゃんという意味を込めてな!
「ぐぬぬ」
いや筋骨隆々の西洋風美丈夫がぐぬぬとか需要がマニアック過ぎですからね?
というかお花畑で何にも考えてない天然ぽよぽよ母上が結果的に気遣いができる人で、セレスティナ様を誘い出したみたいになってるのが解せぬ!
…あ、アリネーラ様も絶対同じ気持ちだよねこれ。本人的には正しいこと、この場で言うべきだったことを言っただけなのにな
とにかく、こういうところで両陛下に亀裂が入るのはまずい。ただでさえ色ボケ無能王な父上は母上に擁護バイアスかかりまくってんだから
「セレスティナ嬢、すまなかったの。息子にエスコートさせるからお茶や菓子を楽しんで欲しい」
「も、もったいなきお言葉にございます」
ちょこんと可愛らしいカーテシーに内心悶えていると、宰相閣下と目が合った。
いや、あんたがドヤ顔するなよ。いやまあ父親だから自慢したいんだろうけどさ
「エスコートさせて下さい。セレスティナ様、御手を」
「は、はい!よろしくおねがいします」
差し出した手に、真っ白の俺の手よりさらに小さい可愛らしい手がふわっと乗せられる
父上が目線で退室の挨拶はいいから行けと言うので、俺は緊張しながら彼女の速度に合わせてのんびり廊下に出た
トコトコ歩くセレスティナ様は本当に天使です