乙女ゲー転生的な要素が飽和状態な件
「…まったく、まいっちゃうね」
「たしか、もうお二人要注意な方が居るのですわよね?」
「そうなんだよ。さっきのはあちこちのお茶会で白眼視されてたから事前に掴んでたけど、もう2人はそこまで調査されていないようだよ」
やあ。
ティナと背筋を伸ばして座ってるエルグランドだよ。場所は大聖堂っぽい建物で、内部の作りは長椅子がダーっと並べられたキリスト教会風だな
ティナの反対側の隣は勿論護衛のソフィー、さっき合流したフランとセレナ、エセリアも一緒。
新入生代表のスピーチは兄上だから俺たちは座ってればいいってのが楽だ
…そして男友達居ねーな、俺。
学園で男友達出来るといいな!
義実家の配下の家には歳が上下に離れた令息しか居ないから、学圏で交流を深めることが出来ないのがネックだ
ティナと手をそっと繋いで、式の雰囲気を楽しんでいたら結構あっという間に終わった。
地球でもこの世界でも入学式で来賓の中年ジジイ共の挨拶に自慢がちょくちょく混ざり、中身がまるで無くてぶっちゃけ不要なのは共通らしいが、皆意識的に短くまとめていたように見えた
やはり王族や筆頭公爵家令嬢にくだらない長話をだらだら聞かせるのは憚られたのかもな
さてさて、ティナに腕を差し出してそっと組んで貰い教室に移動だ。
ソフィーは勿論だが、フラン達も基本的に常に一緒に行動することになる
「エル!セレスティナ嬢!それからソフィー、フランドール嬢、セレナ嬢、エセリア嬢も入学おめでとう」
兄上が控え室?的なところから出てきたので皆で挨拶。俺は気軽に手を上げて返事をし、ティナは未来の義兄なので親しい者にする軽めなカーテシー、フラン達は深めのカーテシー、ソフィーは騎士の礼をした。
学園の職員に先導され、緑に囲まれた石畳の道をみんなでのんびりと歩く。今更だが学園は大学が中世風の建物になって敷地が馬鹿みたいに広くなったようなイメージだな。塀に囲まれた自然豊かな広大な土地に大神殿みたいな建物とか倉庫みたいな建物とかが点在している。
さて、教室は…外見はデカくて太い円筒形の建物で…内部はすり鉢状の講堂って感じか。恐らく俺達は後ろに座るべきだな。
この国の一般的な作法から考えると身分の高い者を物理的に見下ろす位置に居るのは非常に好ましくないとされているからな。あ、当たり前だが見張りの兵士や火の見番、建物の修復をする職人さんとかは例外だぞ
「席は自由みたいだね?適当に座ろう」
「そうですわね!」
「じゃあセレスティナ嬢の反対の隣は僕でいいかい?」
「勿論ですよ兄上」
「ソフィーは此方に来てくださいませ!」
「わかりました!」
「わくわくしますわ〜!!」
「ふむ、これが学園ですか…」
「3年間、何が起きるのやらという感じですわねぇ」
入り口が左右にあるので、とりあえずすり鉢状に配置された座席の最後尾の列と一つ下の段の左端を7人で座った。一段下の列にフラン達が座り、俺達が見守れる感じになった。
馬鹿な令息から守ってください!!と婚約者達から頼まれてるからねぇ
お、担任が入ってきたようだな
「これから3年間担任となるジャンニメルク・ヴァン・バルジールだ
俺が算術や歴史など一般教養の担当だ
他の専門授業や男女で別れる授業にはその道の専属教師がつく
俺は侯爵家とは言っても三男であるが、それとは別に学園内では教師には問題行動をおこした生徒に対して学園としての処分を判断し言い渡す権限があるから覚えておけ。勿論一教師の一存で決まるわけではなく最終的には学園長の判断となるが」
教室に約60人程の令嬢・令息が集まり、入ってきた深紅の髪のイケメンが自己紹介と注意事項を言った…随分と偉そうだなオイ。まあこの程度で目クジラ立てたりしないが…これが学園か
つか、無駄に色気あるし頭悪そうだしこいつも攻略対象風味な男だなぁ。クソビッチにメロメロになって露骨に贔屓し始めるゲロ以下教師の臭いがプンプンしやがる!!
「では順番に自己紹介してくれ」
はぁ?
おいおいおい日本の高校かよ?
これには流石に疑問を浮かべた表情をしている生徒が多い。
たしかに学園は15歳から18歳まで学ぶ機関ではあるが、性質はどっちかと言えば大学に近いものなので全員がお知り合いになる必要など無いんだが…
貴族の基本ルール
『例え知っていたとしても、名乗り合っていない者同士は知らない人として振る舞う』
初日に全員で自己紹介したらこのルール崩壊するんだが?
まあ『事務的な用事がある場合或いは既に親しい間柄である場合を除き下位の者から上位の者に話しかけてはならない』は生きてるけど、学園的にはそれも良しとしないような雰囲気なんだよな…まあ過去の件があって身分制度憎しみたいな風潮がずっと続いてるんだろうな
「噂には聞いていたけど、なかなかに治外法権だねぇ…」
兄上も呆れている。
もちろん兄上は身分で人を判断するようなタイプでもなければ、このぐらいで激怒するほど狭量でもない。とはいえ昨日までは王太子に相応しい扱いを受けていたわけであって、単純に昨日までとの落差に驚いているようだ
「そんなもの必要ありませんわ!!何を考えているのですか!!」
あ…
令嬢が一人キレちゃったわ…あ〜彼女か。
「シャーロット様ならお怒りになるのもしかたないですわね」
「ああ、フォナムメイソン伯爵家のご令嬢ですものね」
エセリアの呟きにフランが同調する。セレナも頷き、ティナは心配そうにシャーロット嬢を見ている
フォナムメイソン伯爵家は優秀な家庭教師を何人も輩出しており、母上の専属侍女兼教育係兼お姉さんみたいな存在でもあるリーネさんの実家の男爵家などを配下に置く、マナー教育の名門だからな
………男爵家の娘とはいえそんな貴族のマナーのエリートであるリーネさんに淑女教育を諦められた母上って……まあいいや
「必要ないとはどういうことだ?シャーロット嬢?入学早々謹慎になりたいのか?」
「…っ!」
あ"ぁ???
ティナと兄上に視線を投げたらゴーサイン出たから立ち上がるぞ
因みに、フラン達からは猛烈な「やっちゃってくださいまし!!」オーラが立ち昇っております!
「いい加減にしろ!!今の貴様の発言は不当な脅迫だ!!撤回しろ!!!
彼女の主張になにも間違いなど無い!!
この箱庭で貴様がどれ程偉いのかは知らぬが、思い上がりも大概にしろ!!我々はお友達ごっこをするために入学したわけではない!!」
は?ダンマリかコラ
おうコラ反論してみろやこのクソガキコラワレ舐めとんのか?
「………いくら王族でも、こ、ここは学園だ!指示にはしし従ってもらうぞ!」
「…なんだそれは?
私は思い上がりも大概にしろ、と言った筈だが?
そもそも誰の許しを得てそのような尊大な口調で私と会話している?
貴様は学園の掲げる平等を拡大解釈し過ぎだ。入学にあたって規則を全て読んだが、学園の中では身分制度が一時的に無くなるなどという馬鹿げた幻想は存在しない」
ちょっと殺気当てたからってマナーモードになってんじゃねぇクソ雑魚ナメクジメンタルパワハラ教師が!
PTAが来い!
…あ。
自己紹介してもらわないといけない人が一人おったわ。面倒だな〜というか兄上お願いします!それは俺の役目じゃないし




