やはりというか、婚約者が女神だった件
「エル様〜?朝ですよ〜!!今日は陛下との謁見がありますよぉ」
「…ん。
マリアおはよう…わざわざそういう言い方するってことは、親子じゃなくて王と家臣の話なんだよね?」
「そうですぅ!エル様はお利口さんですぅ!」
だーかーらー頭を撫でるな!!
……前世の記憶を取り戻してから1年が経ち、2人の王子は6歳になった。
聡明で優秀な第一王子、能力はそこそこだが心優しい第二王子…というのが今の王宮から市井までの主だった認識らしい
アリネーラ様付きの侍女さんが教えてくれたことだから多分実際そんな感じなんだろうな
評価が変わるのに1年しかかからなかった主な理由は俺がそもそも公の場に殆ど出ていないこと、まだ幼いため成長が喜ばれたことが大きいな
俺が熱出してから暫くはみんなで食べてた朝飯だが最近はまた別々だ。というかエルグランドの記憶でもそれが当たり前だった筈なんだよな。みんな忙しくてバラバラに動くの当たり前だからな王族は
あとから聞いたらどうもみんなで朝食をとるのは母上の我が儘だったみたいで…ホントすいません
そんなこんなで1週間ぶり?ぐらいに父である国王に会うことになる
茶髪ポニーテール元気娘なマリアが「俺を磨く部隊!」なスーザン、レイチェルを召喚し俺は朝から猛烈にドレスアップされてヘトヘトになった
スーザンとレイチェルは俺専属ではないが俺を着せ替え人形にして遊ぶために押しかけてくるかなり迷惑な侍女である。マリアの旧友だとか
3人とも二十歳らしい。婚約者はいるけど特にせっつかれてもいないのでもう少し侍女やって稼ぎたいとは本人達の談。王宮侍女なら給料もいいからねぇ
なんやかんや今の生活には感謝だ。転生者でも食事・衛生・娯楽で不満は特に出ないレベルには恵まれてるからな
スマホは無いが本読むの楽しいし
ただ、この世界の一般的な生活レベルがどのぐらいなのかは王宮に居るとわかんないんだよな
とりあえず、今は謁見の内容だなぁ。廊下を歩く俺たち。俺を先導するマリアが背筋を伸ばしてちゃんと侍女をしている…レアな光景だな
普段の5割増しでキラッキラにされた俺が作法に則って謁見の間に入ると…
美しくカールした銀髪に紫の瞳の、本当にお人形なんじゃないかってくらい可愛らしくて、完成された容姿の女の子が緊張した様子でちょこんと所在なさげにしていた
隣ではすげぇ怖い閻魔様みたいな銀髪に紫の瞳の筋骨隆々なイケメンが俺を睨み付けている…あ、宰相閣下ですよね確か
「エルグランド第二王子、只今馳せ参じました」
「よくまいった。楽にしていいぞ
一応公式な会談という体にしただけで、内内の席だからな」
「はっ」
…あ、父上がイキりモードだ。
説明しよう!イキりモードとは、普段はアリネーラ様の尻に敷かれているポンコツ国王の父上が、私が国王だアピールをして何かを推し進めるときに出てくるのである!大体ろくでもない思い付きが多く、後でアリネーラ様に叱られるぞ!
因みに、母上とアリネーラ様も部屋に居る。アリネーラ様は「あ?聞いてねぇぞこのバカ夫が…後で説教な?」という雰囲気を醸し出している。外見的には完璧な淑女の微笑みで佇んでるけど
母上はキラキラした目で全身からわくわく感を迸らせている…こっちは姿勢とか表情とかをまったく取り繕えておらず、子供のようである
「…は、初めまして。
アンタレス公爵のむすめ、セレスティナ・ヴァン・アンタレスともうします」
「………はっ?!
失礼しました!オパビニア王国第二王子、エルグランド・フォン・オパビニアです」
ちょこんと可愛いカーテシーをしたセレスティナ様に見惚れて返事が遅れてしまった
「どうかの、ノーチェス…悪い話では無いと思うのだがの」
「…ふむ。
殿下、お初にお目にかかります。私はノーチェス・ヴァン・アンタレス、この国の宰相を務めております。セレスティナの父です」
「お初にお目にかかります。第二王子、エルグランド・フォン・オパビニアです」
「ここ一週間、エルとセレスティナ嬢の婚約を打診しておったのだがノーチェスがなかなかうんと言ってくれなくてな」
「娘が嫁ぐには、王宮は醜いものがあり過ぎる…それにわざわざ天秤を水平に戻すような真似をすれば娘にも、エルグランド殿下にも様々な要らぬ災いも訪れよう
…この話は互いのためにならぬよライ」
そう言ってから、びっくりするほど優しい表情でセレスティナ様の頭を撫でる宰相閣下。もしかしなくても溺愛である
そして宰相閣下は父上に対して何にも遠慮しない物言いだ…立場は父上が上でも、精神的には宰相閣下のほうが兄貴分なんだろうな
もうこれ役満です
ヤバイです
婚約破棄クズ王子コースまっしぐらです
セレスティナ様は表情筋が固めでいらっしゃるようです。俺は雰囲気で喜怒哀楽分かるけどね!
ようするに「なんも悪くないのに誤解される系の中身も見た目も女神な悪役令嬢ロリver様」が目の前にいらっしゃいます