調節が難しすぎる件
「殿下、朝ごはんのお時間ですよぉ〜…あ、もう起きていらっしゃいますね。偉いですよぉ」
「ん…マリアおはよう」
「はぁい♪」
…いくらスペアな第二王子とはいえ、日本基準の園児みたいな扱いはどうなんだろうかと専属侍女のマリアに頭をなでなでされながらぼんやり思う。彼女は確か子爵家の次女だったと思うんだが…ま、身分気にしなくていいのは転生者としては助かる
記憶を取り戻してから一月が経った。熱を出したことをきっかけに反省した、ということにして少しずつ今の俺の性格を出している。
とりあえず身の回りの人にちゃんと感謝を言葉にして伝えることから始めている
しかし、元々俺の周りに居るのは俺が超絶クソガキでも甘やかす人達である…素直でいい子になったエルグランドがアホなレベルで溺愛されるのは必然だったのだ…
母上が膝の上から降ろしてくれなかったところにアリネーラ様が通りかかった時は終わったと思った
慌てて母親の腕を振り解き、降りてから挨拶したらアリネーラ様がびっくりしていた。その程度でびっくりされるbefore俺はどこまで馬鹿王子だったんだよって話だな…
そのあと俺の自慢をしまくる母上にアリネーラ様とお付きの侍女の皆さんがなんとも言えない表情で相槌を打っていた。俺は居た堪れなくなり、思わず隣で苦笑しながらペコペコ頭を下げてしまい、また驚かれた
はっきり言おう!!
調節がクソむずいんだよ!!!
元の設定が超絶ワガママで傲慢な悪役令嬢なら、全力でいい子になればだいたい幸せが待っているんだろうが…
俺は性格を直しつつも、あまり優秀になっちゃ駄目なのだ
第二王子が無能で馬鹿だから王太子は第一王子でほぼ確定という話が表立って口にしても問題ないぐらい確定になってるわけであって、俺が全開で今までの評価を塗り替えるようなことをすると王位継承争いが泥沼化する。
クリストファー兄上が王太子がほぼ確定というのは王妃陛下、アリネーラ様が正室なことに加え、母国がオパビニアの約二倍の規模の隣国、ノマロカリス帝国だからということもある
しかし、王宮には様々な感情が渦巻いていて、強固な一枚岩には程遠い
アリネーラ様はきちんと王妃としてこの国を想ってくださっていると思うんだが…
アリネーラ様のお輿入れはノマロカリス帝国からの提案だった。友好を結ぶということではあるが父上がポンコツで尻に敷かれている現状をノマロカリスの乗っ取りだと憤る極右思想かつ民族主義的な馬鹿も貴族には居るのだ
それに加えて、馬鹿な第二王子に国王になってもらって自分たちが甘い汁を吸おうとする私腹肥し豚もそれなりに居るっぽい
…まあそこらへんは前世の記憶戻ったから察することが出来たんであって馬鹿王子のままなら一生よく分からなかったんだろうなと思うが
とにかく「第二王子がみるみる遅れを取り戻して第一王子と肩を並べる」のは悲劇を生む可能性がブチ上がるだけで誰も得をしないんだよな
…単に俺がサラリーマンだったのに今更勉強とかだっる!というだけではないのだ
けしてそれだけではないからな?!
「エルちゃん!!今日も可愛いわねぇ〜!!」
「は、母上!恥ずかしいからやめてください!」
「ふえぇ反抗期よぉ〜!」
あと毎朝毎朝みんなで揃って食う必要あんのか?!
縦長テーブルの上座には銀髪碧眼のイケオジ…ただし中身はポンコツが座っている。国王ライオネルその人だ
隣には王妃であるアリネーラ様。黒曜石の様な美しいロングヘアーにルビーの瞳のエキゾチック美女といった感じで、赤いドレスが似合っている。けしからんワガママボディの才女で女傑。天は二物も三物も四物も与えた模様。
あ、目が合った…俺の顔が赤くなった。恥ずかしいなもう!!
上品にフォークとナイフを動かすのは美しい暗めの銀髪にルビーの瞳で、5歳男子にしてすでに色気がヤバいクリストファー第一王子。兄上と言っても三ヶ月ぐらいしか違わないけどな
俺と母上は金髪碧眼で、俺の金髪は父上の銀が混ざったのか少し母上より薄い。
まあ俺と母上も客観的に見て容姿は極上と言っても差し支えはないだろう…中身が残念だがな!
「あらエルグランド様、その様に熱い視線を向けられたら照れてしまいますわ?」
「ご、ごめんなさい。不躾でした」
「うふふ、いいのよ」
「エルちゃん?!ママは?!」
「ふぁ?!」
「…ぷっ」
アリネーラ様意外と気さく?
というか俺の顔よ!早く冷めろ!!酒飲んだみたいに真っ赤になってる気がする!!
あと母上言ってることおかしいからな?!
そしてクリストファー兄上、笑ったら年相応に無邪気で可愛いな!!
自然な笑顔の破壊力やべえ!!
たかが朝飯で情報量多すぎるわ!!!