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4 氷の令嬢


 ハンス・キリングは用心棒として王都ではそれなりに名の知れた存在だった。

 一流ではないが、二流でもない。

 剣術大会で三回戦を突破したこともあるし、任された仕事は十全にこなすことができる。


 とはいえ、そこに一線級と言えるほどのものはない。

 もし自分が物語を描くなら、こんな男は出さないだろう。

 たとえ出しても、名前は与えられないに違いない。


 背景にいるその他大勢。

 それが自分の立ち位置だ。


 だからってそれを悲しいとも思わない。

 普通に生きて普通に死ぬ。


 酒は美味いし、賭け事は楽しい。

 他に何が必要だろう。


 必要十分な幸福な人生。


 そんな彼にとって、公爵家令嬢の警護は、時折得られる割の良い仕事のひとつだった。


 フランベール家とは何度か仕事をしたことがある。

 口が堅いハンスを現当主は気に入ってくれているらしい。


 ありがたいことだ。

 仕事をくれる金持ちは、何もしてくれない神様よりずっと価値がある。


 最初の違和感は、警護の人数が少ないことだった。

 フラマリオン峠を越えるのに戦える者が三人というのは少なすぎる。


(最悪この娘が死んでも構わないということか?)


 リスクのある仕事だ。

 しかし、受けてしまった以上ここで断るわけにもいかない。


 人数については聞かされていなかったが、相手は公爵様。

 嫌われてしまえば、王都で仕事をするのは一気に難しくなる。


(無事に終わってくれればいいが……)


 だが、ハンスの期待は裏切られた。

 馬車は盗賊の襲撃を受けた。

 一時は死を覚悟したハンスだが、公爵家に仕える騎士に救われることになった。


(こいつ、何者だ……?)


 明らかに常人の域を超えた剣裁きだった。

 王都で行われる剣術大会でも十分上位に食い込むことができるだろう。

 下手すると、優勝だってしてしまうかもしれない。


 しかし、さらに驚かされたのはそれからだ。

 負傷したハンスを治療しようと、護衛対象の公爵令嬢が草むらに分け入って野草を採り始めたのである。


 最初ハンスは目の前で起きていることが信じられなかった。

 仕立ての良いブラウスの袖をまくり、彼女は田舎娘みたいに草を摘んでいる。


 それからの少女の手際はすさまじいものだった。

 野草から薬を作るなんて、専門知識を学んだ薬師にしかできない芸当のはず。

 なのに、あり合わせの道具で少女はそれを成功させてしまったのだ。


 さらに、その効き目にハンスは驚愕する。


(嘘だろ、本当に傷が……)


 浅い傷ではあった。

 それでも、自然治癒するまで一週間はかかるだろう。

 そんな傷がものの数分で消えてしまった。


(まさか、魔法薬……!)


 間違いない。

 ここまでの即効性は魔力が込められた魔法薬でしかありえない。


 だが、それでも簡単に受け入れることはできなかった。

 即効性の高い魔法薬なんて、作れるのは王国でも極一部。

 流通量は少なく、市場では極めて高値で取引されている希少なものなのだ。


(なのに、それをあり合わせの道具で)


 ハンスは少女を見つめる。

 まるで感情が見えない、氷のような無表情。

 しかし、それがなおさら底知れない印象を強調する。


(何者なんだこの少女は……)



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