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3 採集と調合


 わたしは、草むらに分け入って野草を摘みました。

 北部の植物だとこの手の毒に効く薬は七種類作れます。

 今あるもので作れるのはその内三種類。


 手間取っていると日が暮れてしまいます。

 その中のどれかを手早く形にしなければいけません。


「アリア様……!? 公爵家の御令嬢がそのようなことをしては」


 ハーシェルさんは慌てた声で言っていましたが、そんなこと気にするわたしではありません。


 外の世界を全力で楽しむために、手段を選んでなんていられないのです。


 ブラウスの腕をまくって、野草採集に励みます。

 おっと、ヘビさんがいますね。

 ごめんなさい、ちょっとお邪魔します。


 心の中で声をかけつつ、手際よく野草を摘んでいきます。



『群生するアストラルリーフ 質:並』



 お!

 いいですね、魔法薬の原料に使われている薬草です。


『植物博士』と『鑑定』スキルを使って、必要な材料を採集したわたしは、早速解毒剤作りに取りかかりました。


 馬車の中にあった家財道具の中からお皿とナイフ、スプーンを調達。

 摘んできた野草を細かく刻んでから、お皿の中へ。

 スプーンの腹で細かくすり潰してから、水で薄めた少量のアルコールと混ぜ合わせます。


 小さい鍋に移して、アルコールランプで加熱。

 これでも十分効果はあるのですが、少量でいいので魔力が入れられるとより効き目が強く即効性のある薬になるのですよね。


 しかし、残念ながらわたしには魔力がありません。


 クラリスやハーシェルさん、用心棒さんには魔力はあるでしょうけど、『魔法薬学』の知識がないと適切な量の魔力を込めるの難しいですし。


 小さなものでいいので魔鉱石があればいいのですが……。


 そうだ、あれを使いましょう!


 思いついたわたしは、自分の髪飾りを外して地面に置きます。

 外で変に見られないように、と用意された貴族令嬢然とした装飾品。


「少し、その剣を貸してほしいのですけど」

「剣を……? いったい何に使うのですか?」

「大丈夫です。変なことには使いませんから」


 怪訝そうなハーシェルさんから、剣を受け取ります。

 長く使っているらしく使い込まれた剣でした。


 初めて持ちました、意外と重いのですね、これ。


 わたしは両手で剣を持ち上げると、体重を込めて髪飾りに叩きつけました。


「アリア様!?」


 みなさんは驚いていましたが、わたしは初めて振った剣の感触に興奮していました。

 なかなか楽しいですね、これ!


 時間はたくさんありますし、剣を習ってみるのも良いかもしれません。


「よし、良い感じですね」


 髪飾りにあしらわれた緑色の小さな宝石は、良い感じに砕けています。

 わたしは砕いた宝石を、加熱中の薬に入れました。

 魔鉱石には美しいものも多く、宝石として使われているものも多いのです。


 あとは、宝石内の魔力が薬の中にしみ出すのを待つだけです。


 おっと、髪を留め直さないと。

 ヒビが入った髪飾りを付け直すと、ハーシェルさんはわたしに言いました。


「アリア様、そんなものをお付けになっては」

「ここまで来れば誰かに見られることもありません。わたしは別に気にならないですし」


 七年九ヶ月、地下に閉じ込められていたわたしにとって、もはや人にどう思われようとそんなことはどうでもいいのです。


 お父様に連れ戻されないよう、人目があるところでは身だしなみにも気をつけようと思っていますが、ここはもう人気の無い峠の中ですからね。


 さてさて、仕上げ仕上げ。

 布で越して、やけどしない熱さまで冷やせば完成です。



《上級解毒薬 ランク:C 状態:良》



 できました!

 やったぜ! わたし、天才!


 心の中で、ガッツポーズしてくるくる回ります。

 馬車の窓に映った現実のわたしは相変わらず、氷みたいに冷たい無表情でしたが。


 いけませんね。

 やっぱり笑顔の練習をしないと。


「少ししみますけど我慢してください」


 傷口に清潔な布を当ててから、薬を少しずつかけていきます。


 待つこと数分。

 布を取ると、傷口はほとんどふさがっていました。

 もっと魔力を込めたちゃんとしたポーションなら、傷口も消してしまえるのですけどね。


 しかし、魔力がないのですから仕方ありません。


 少し残念に思いながら、わたしは言いました。


「日が暮れる前に峠を越えられるよう、先を急ぎましょう」



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