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11 朝帰り


 地下書庫に幽閉されていた頃。

 わたしは、しあわせの定義について考えたことがあります。


 どういう状態がしあわせなのか。

 どうすればしあわせになれるのか。


 本の中では様々な人がしあわせについて自分の考えを書いていました。


 そこでわたしが学んだのはしあわせになるには、しあわせになる努力をしないといけないということです。


 物質的に恵まれていても不幸な人はたくさんいます。

 お金も、地位も、周囲の評価も、その人のことを本当の意味でしあわせにはしてくれません。


 人間というのは不幸になりやすい習性を持つ生き物です。

 気を抜いているとすぐに不安の種を探し、自分のことを不幸だと思おうとする。


 だから、しあわせになろうとする意志を持たなければいけません。


 しかし、それはそれとしてわたしはお金がほしいですし、できるなら地位も名誉もほしい。


 みんなに好かれたいですし、寝てるだけでお金がめちゃくちゃもらえるシステム作れないかな、とダメ人間な妄想をしたりします。


 何より、もふもふでいっぱいの生活を送りたい!


 煩悩塗れのわたしは、狼さんたちにもふもふさせてもらえてしあわせいっぱいでお屋敷に帰りました。


 朝の最初の光が、山向こうの空を明るく照らし始めていました。


 これが俗に言う朝帰りというやつになるのでしょうか。


 すごいです!

 わたし、不良っぽいです!


 悪い子しちゃったなぁ。

 大人な色気とか出ちゃってるかもだなぁ。


 上機嫌で隠し扉を開け、狭い通路の梯子を上ります。

 自室に戻って隠し通路を絵画で隠したところで、扉を開けたのはクラリスでした。


「アリア様……」

「ん? なんですか、クラリス?」

「なんですかじゃありません! 心配したんですよ! お庭から出ないよう言いましたよね! いったいどこに行ってたんですーっ!」


 クラリスはわたしの肩をぶんぶん揺さぶります。

 あまりの勢いに、ベッドで寝ていたねね先輩もびくっとしていました。

 でも、すぐにまたベッドの上で丸くなります。


 さすが先輩、これくらいのことでは動じません。

 大物です。


「話せば長くなるのですが、いろいろありましてですね」


 あわてて言い訳するわたしに、


「よかった……帰ってきて本当によかった」


 クラリスはぎゅっとわたしのことを抱きしめて言いました。


「今度からは、ちゃんとどこに行くか教えてくださいね」


 あたたかくてやさしい感触と体温。


 それは、わたしが知らないものでした。


 物心つく前から厳しく育てられましたし、七歳からは地下書庫。


 思えば、こんな風に誰かにぎゅっとされるなんて初めてかもしれません。


 なんだか気恥ずかしくて、でも大切に思ってくれているのが伝わってきて。


 わたしはしあわせな気持ちになりました。


 もふもふもしあわせのひとつですが、ぎゅっとされるのもしあわせのひとつなのかもしれません。


 ちょっぴり照れくさいです……でも悪くないですね。


「心配させてごめんなさい。待っててくれてありがとうございます」


 一生懸命感謝を伝えました。


 でも、どのくらい伝えられたかはわかりません。


 わたしは表情筋さんが死んでますし、感情を伝えるのはきっと苦手な方。


 何より、わたしとクラリスは違う人間だから。


 以心伝心なんて都合良くはいきません。

 下手でも不器用でもがんばって伝えないといけないのです。


「アリア様……」


 クラリスは気恥ずかしそうに頬をかいて言いました。


「そ、そこまで熱烈に大切な存在だなんて言われると照れてしまうと言いますか」


 し、しまいました!

 気持ちが入りすぎて、ちょっとやりすぎてしまったっぽいです!


「私もアリア様のこと、すごく大切な存在ですよ?」


 そうにっこり笑うクラリスに、顔が熱くなってしまうわたしでした。



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