第一話 発火
「ああああああああああああいたいたいたいたいたいた」
脳髄が引きずり出されるような、それとも脊髄が抜かれるような痛みが全身に走る。思考は一点に、身が焦げ皮膚がただれ落ち、黄色味を帯びた体液があふれ出るのに阿鼻叫喚、意識が飛ぶ。
非常食のカップラーメンも底をつき、食欲に促されスーパーへと足を運ぼうと家から数分。都会の喧騒に身をもまれ、神経をすり減らし勢い余って退社してから、およそ一か月後であった。
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街灯の光が路傍を照らすも、都心から少し外れた街路樹であるため、それは足元を照らすに過ぎない。初夏の微風が隅の草木を揺らし、今朝の雨の跡は微塵も感じられない。
身が冷めるような夜半の公園に、一人の男が雑草の上で寝ていた。
「ん......」
男は目を覚ましたようで、体を起こそうとする。
「なんでここで寝てたんだ?ん?」
何かに気が付いたように、目を見開き体を震わせる。指先から肩へと目を這わせ、それから足先へと目を配り再三周りを確かめたうえで驚愕する。
「さっき急に燃えて死んだはず...」
着ていたパーカーは焦げ落ち、アディダスのズボンは切れ端だけがそばに落ちていて、男は裸であった。そして何より不思議なことに、爛れ落ちた皮膚は完全に再生していた。傷一つなく、その身一つをもってして、公園に一人。露出狂ままであった。
「くそっどうなってんだよ」
男の思考もリアルには追い付かなく、戸惑いを隠さずに立ち上がろうとする。草木の緑が肌をこするも、膝を立て体感に力を入れて、慎重に身を起こす。
「よし、力の入れ具合は問題ないな」
微風に焼けた体を冷まし、あたりを見回す。
「いつも通りの公園に、いつも通りの街並み。変わったことといえば、おれの体が焼けたことだけ。それもいつもより気分がいい」
長いこと家に籠っていた反動であろうか、夜風が体の芯に流れ込む。
「まさかもう燃えないよな...」
冷静になっていざ思いついたのは、そんなことであった。自己の治癒力への期待と、なによりも二度と味わいたくない業火の痛みへの恐怖。元来より泥水はすすらず、それでいて全てから逃げ続けてきた男である。全身の血流の流れを感じ、肺が押しつぶされそうになるほどの不安に駆られ、足が震えだす。
もう二度と燃えることはない。などの確証はない。むしろ、焼け落ちた皮膚が再生しているのだから、また燃えると考えるのが必然であった。
夢ならいいと思うが、事実アディダスの切れ端が落ちているのと、生涯脳裏に焼き付いて思い出すたびに過呼吸になるような痛みと鮮明な光景、これを夢とは到底思うことができなかった。
「ああああああああああああ」
気が狂いそうな恐怖に悲鳴を上げるが、頭の片隅に潜んでいた冷静の二文字がその声をとどめる。
「通報されたら大変だ」
叫びだしそうな口元を左手で覆い隠すも、全身から嫌な汗が噴き出てくる。気が狂いそうな精神の眼前に、右手が見えた。中指と親指の腹を合わせる。
(たのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたのむたむううううううう・・・・)
腹をこすり合わせ指を鳴らした。
パチンっ
「......ん?燃えない......?」
そう思った瞬間、
「アチチチチチチチチッっっっっっっっっっ」
静寂を切り裂く悲鳴が、町中に響き渡った。