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娘をダメにするスライム  作者: 紅花翁草
34/41

フルララ、3度目の出動。

 ロチアさんのお兄さんを助ける為に、再び銀の騎士になった私はディムさんと二人でダンジョンの6層に来ています。

 ロチアさんには、「銀の騎士には私から伝えに行きますから、安心してください。」と、伝えて仕事に戻って貰い、私が屋敷を留守にしている理由にしました。


 ロチアさんからの話で、冒険者の緊急クエストは明日の朝に出発という事。

 冒険者達は形だけの討伐隊として6層へは向かうけど、崖道の修復が出来れば好しと思っている事。

 本来なら冒険者は自己責任。冒険者を救い出すような緊急クエストなんてものは無く、しかも、ダンジョン内の出来事に発令するような事はありえない事で、ギルドマスターがドラゴンの素材が欲しいだけの口実だと判っている冒険者達は反発する行動を見せたけど、その場に居た伯爵から命令されての事。

 そして、今はティアルちゃんの事が心配な状況だったので、あの後直ぐに昼食を皆で食べて、私とディムさんだけでダンジョンに来ています。


 もし、ティアルちゃんの事がなければ、リリアナちゃんとの約束に丁度良いと、皆でドラゴン狩りに来たかったと、ディムさん。

 冒険者を襲ったのは15メートル程の飛竜が2匹。

 オリファさんとフルラージュさんに1匹を任せて見たいと…二人なら倒せるだろうという話でした。


 いったい…オリファさんとフルラージュさんはどういう事になっているのでしょうか?

 


 6層へと出た私達がまず最初に確認したのは、崩れた道でした。

《これは酷いな。》

 ダンジョンの外郭になっている岩山の山道の一部が抉り取られるように崩れ落ちていました。

 丁度崖になっている場所だったので、迂回するような事も出来ません。 

「直せそうですか?」

《勿論だ。しかし、土台から作ることになるから少し時間が掛かる。》

 という事で、私は上半身のプレートとヘルムを外した状態でディムさんの作業を見学することになりました。


 私は椅子のように腰が下ろせる岩に座って、ディムさんが崖から削り取った岩をゆっくりと積み上げていくのを眺めています。

 魔術で作った岩だと、風化するように砂になるのが早い為、長期的な補修には出来ないとのこと。

 だけど自然の砂や岩などを土魔術の『ロック』で固定すると、一つの岩として永久的に存在するとのことでした。

 

《よしっ! これで馬車も安全に通る道に戻ったぞ。》

「お疲れ様です、ディムさん。」

《それにしても、フライトドラゴンが見当たらないが、どこにいるんだろうな?》

「そうですね。 これなら、ドラゴンに出会わずに冒険者さん達が避難出来そうですね。」

《元々ここを縄張りにしていたのなら、一日に一度くらいの頻度で目撃されていたはずだから、他の場所から流れてきたやつかもな。まあ、運が無かったということだろう。

 それじゃあ、野営地に行って、ロチアの兄を探すか。》

「はい。」



 銀の騎士の姿で野営地の中心に下りた私達を、遠巻きに見ている冒険者達。

 その中から、一人の男性が歩み寄ってきました。

「私は、今ここに残っている冒険者達を纏めているインドールです。私の推測が正しければ、貴方は銀の騎士と呼ばれている方ですか?」

《ああ、そうだ。ここにカテロア・イーフォンという冒険者がいると思うが、合わせてくれるか。》

「ちょっと待ってください。」

「はいっ! それ俺のことですっ!」

 ディムさんと男性との会話が聞こえていたようで、遠巻きに見ていた人達の中から手を上げてこちらに歩いてくる男性に私は視線を向けました。


 ロチアさんと同じ淡い蜜柑色の髪に、ロチアさんによく似ている顔立ち。一目見てお兄さんだと判りました。


「銀の騎士様ですよね。妹のロチアから話は伺っています。それで私にご用件とは?」

《そのロチアの事でな。孤児院の事で世話になったロチアの兄が6層から帰って来れなくなったと聞いたから、助けに来ただけだ。それで、本人が生存しているかどうかの確認をしたかっただけだ。》

「そうなんですかっ! ありがとうございます。…でも、それって私だけって話…なんてことは?」

《当然だろ。そんな事をすれば、お前は帰るとは言わないだろうし、無理やり連れ帰っても、立場が悪くなるだけだからな。

 インドールだったな、5層へと戻る崩れた道は修復してきた。今から帰還するのなら俺が見届けてやるから、今すぐ準備しろ。》


「ありがとうございます。では伝達と準備に5分程、10分以内に出発出来るように致します。」

《ああ、ここに残りたいやつは残ってもいいからな。》


 私はディムさんからの念話で、見晴らしの良い小屋の屋根に移動して、中央広場に冒険者達が集るのを眺めていました。

「ここから山頂までは1時間くらいでしたよね。」

《ああ、何事も無ければ、それくらいだろう。5層に着けば後は自力で戻れるだろうから、俺達は6層から避難するまでを見届けたら終わりだ。》

「カテロアさんもですか?」

《そうだな。あれだけを特別扱いすると、ロチアとの繋がりを疑う者が出る。今でも商業ギルド側に立っていると思われているからな。まあそれは、実際にそうなんだが。》

 私は、広場からこっちに何度も視線を送るカテロアさんと、そのパーティーメンバーだと紹介された人達からの視線を黙って受けています。

「あの人達が、孤児院の子供達を手伝ってくれた人達なんですよね。」

《全員無事で良かったな。》

「はい。」


 ドラゴンに襲われてどれだけの人達が亡くなっているかは判りませんが、それもまた運命で、私は静かに目を瞑り、祈りの言葉を心の中で唱えていました。


 全ては終わり、静かなる時へと導かれし者よ。残された思いは確かに届けましょう。

 そして願わくば、安らかに眠りて、新しい光となれますように。

 


「帰還の準備が整いました。ここに残された者、全員が帰還します。」

 広場から大きな声で叫ぶのは、隊長らしいあの男性。

《判った。では出発してくれて構わない。俺は空を警戒しながら、お前達を護衛する。》

「それでは、出発っ!」

 男性の掛け声の後、冒険者の一団が動き出し、それは100m程の列となって、山道へと続く林道へと向かった。


 野営地のある草原から、林の中、森の中と進み、岩肌だけになった山道を登り始めた冒険者達。

 道中で何度か魔獣と遭遇することはあっても人の数に恐れたのか、逃げるように離れていきました。


 空に浮かんで周囲を警戒する私とディムさんですが、正直…出番がありません。

「ドラゴン…居ませんね…」

《そうだな。…そういえば、襲われた時の状況を聞いていなかったが、確認してみるか。

 先頭にいる、あの男の所に行くぞ。》

「はい。」


 崖道を進む集団の少し前に下りた私達は、歩みを止めないように、先頭の隊長さんと並んで歩き始める。

《少し確認したい事がある。道を破壊されたとは聞かされていたが、ドラゴンがお前達を襲った理由は判っているのか?》

 一瞬、「えっ?」っと、銀の騎士が知らない事に驚いているような、そんな表情を隊長さんが見せました。

「ドラゴンが私達を襲ったのは2度。一度目は野営地で解体中の巨竜種が最初に奪われました。

 その後、全員が6層からの退去と残りの巨竜種を地上へ運搬すること決めて、ここで奪われたのが2度目です。その時に、後方に居た私達が崩れた道の為に取り残されました。

 ですので、正確には私達ではなく、巨竜種を狙っての襲撃でした。」

《なるほどな。だから今は現れないという訳か。》

「はい。飛竜は丁度、ここからあの方向から現れ、そして奪った巨竜種を持っていった方向でもあります。」


 その方向は、先日リリアナちゃんと3人でドラゴン狩りをした山脈がある方向で…


《そうか、少し見て来る。お前達全員が山頂の洞窟を抜けたら、火球を空に向けて数回打ち上げてくれ。それを合図に俺も戻るからな。護衛は6層から出るまでだから、5層からは自力で戻れよ。》

 すっと体が軽くなり、私はまた空へと浮かんで、見上げる冒険者達からの視線を無視するように視線を上げました。


「あのドラゴンが居た場所に、新しく住み着いたってことですか?」

 外郭の岩肌に沿って飛行する私は、ドラゴンの棲み家だったあの場所を思い出していました。

《いや、あの50mのドラゴンさえ縄張りの範囲はもっと先だ。多分だが…》

 それから2分ほど飛んだ先、空中に立ち止まった私にも、その光景が見えました。

《やっぱりな。2匹のドラゴンは番だったか。》

 崖の出っ張りで寛ぐ2匹のドラゴン。大きな翼と長い尻尾がここからでも良く見えます。

「巣作りですか?」

《ああ、これからだろうけどな。多分だが、あれは俺達が倒したドラゴンの縄張りを越えて来たやつだと思う。ここは俺達が通った場所だしな。》

「…ですよね。」


 流れる空白の時間。


《これも…自然の摂理だ。 その結果がなんであれ、それは運命だということだ。もしかしたら、あの2匹のドラゴンはここに辿り着かなければ縄張り争いで命を落としていたかもしれない。そしてこれから生まれる命もあるってことだ。》

「そうですよね。運命は平等ですからね。 ってことは、あの2匹は倒さないってことですよね?」

《ああ、俺達が倒す理由が無いからな。という事で、帰るか。丁度火球が打ち上がったようだしな。》

「はいっ。これでロチアさんの心配事がなくなりましたね。」

 踵を返し、2匹のドラゴンに背を向けた私は胸の痞えが少し取れて、一瞬だけ笑みを浮かべました。

「次はティアルちゃんですね。」

《ああ、レファルラ頼みなところもあるが、大丈夫だろう。》




 5層の洞窟を抜けた先で、冒険者達の一団を見つけた私達は声を掛けることもなく、急いで地上へと戻りました。


 クラリムのダンジョンは街の西門からの街道沿いの近くにあるので、街道から見える位置にあります。なので、夕刻のこの時間に外に出ると、街道を走る馬車などが見えますが…

「なんか…多くないですか?」

《そうだな…クラリムへと向かう馬車ばかりが、すごい列になっているな。》

 守衛さんが挨拶程度の検問を行う為、馬車の速度が遅くなる門を先頭に、20台程の馬車の列が出来ていました。


《まあ、俺達は森の中で着替えて、塀を飛び越えて帰るから問題ない。》

「そうですね。それじゃ急ぎましょう。」

 私は、身体強化された体を走らせて森の中へと入り、以前と同じ場所で足を止めました。

 ここは、以前ログハウスを出す為にディムさんが木を抜いて広場にした場所。

 今回もログハウスで汗を流して着替えます。


「はぁあ~んぅ~! いきかえるぅ~。」

 温かいお湯が入った浴槽に体を沈めた私は全身を伸ばし、そして脱力と共に声を上げていました。

《ご苦労だったな。あれなら俺達が出向かなくても、なんとかなっていたかもしれないが、新たなドラゴンが現れる可能性もあるから、良かったと思うぞ。》

 私と一緒に湯船に浸かっているディムさん。

「はい。ロチアさんの心労も早く解消されましたし、同じように、残されていた冒険者の家族の人達も。」

《そうだな。簡易的な橋を掛ける事も難しい崩れ方をしていたから、救助されるのは数日後になっていただろうな。》


 私はロチアさんの言葉を思い出しました。

「こんな個人的な事を頼むのは間違いだと思っています。危険を承知で冒険者をしている兄だということも理解しています。それでも…助かる可能性を知っている私を、私は抑える事が出来ませんでした。」

  

 私も同じ立場なら、同じ事をしていたでしょう…


「ディムさん。私からもありがとう、と言わせてください。」

《ん?》

「ロチアさんの願いを叶えてくれて、ありがとうごさいました。」

《ああ、俺が拒否する理由が何一つ無いからな。当然だ。》

「はい。」

 私は目の前に浮かんでいる小さいディムさんが、誰よりも温かい大きな心を持つ、それはまさに、小さく輝く太陽のような存在に見えました。




 塀をディムさんの浮遊で越えて屋敷に戻ると、リビングに居るのはリリアナちゃんとルヴィア様だけでした。

《他の者は屋敷に居ないようだが、母よ、3人はどこへ行ったんだ?》

「レファルラさんが来て、連れて行きましたよ。伯爵をこの街の管理者から外す為の証言者として、と言ってね。」

《そうか。予定通り、という感じか。》

 ルヴィア様と会話しながら、ディムさんはポヨン♪ ポヨン♪ 跳ねて、リリアナちゃんの腕の中へと入りました。

「パパおかえりぃ~。フルララもおかえりぃ~。」

 リビングに入って直ぐに、リリアナちゃんが手を広げて待っていたのです。

《ただいま、リリアナ。》「リリアナちゃん、ただいま。」


「れふぁるママがね、あとはまかせてね。っていってた。」

《ああ、判った。のんびりと待たせて貰う。》

 それは始めからから判っていたような、そんな声で答えるディムさん。

「ディムさん、さっきの予定通りって?」

《なに、昨晩の襲撃者をレテイアに行かせたのは話しただろ、伯爵は白を切っていたが、色々とやらかしている証拠が揃っているからな。公爵が追求すれば言い逃れは出来ないだろう。

 ティアルに係わらなければ、冒険者ギルドの私物化と、この街を独裁的な扱いにしていたくらいで収まったものを…愚かな行為で自身の首を絞めたということだな。》


 確かに…ティアルさんを奪う為に下した命令は残忍でした。

 それを実行した兵士の自白だけでは、兵士の虚言だということも考えられますが、祭りでの一連の横暴行為や、守衛さん達を巻き込んだ事で、信憑性が高くなります。


「お父様が直接来ているということになりますよね?」

《ああ、聞いていた通り、領主としての行動を見せてくれた。レファルラの助言もある事だし、あとは問題ないだろう。》

「そっか…そうですよね。お父様は領主として頑張っているのでした。」

 私は、小さい頃の記憶に残っていた父の姿を思い出していた。

 それは、いつも執務室に篭っている、姿が見えない父の面影でした。


《会いに行きたいか?》

「いえ、お父様のお仕事の邪魔になるといけませんから。それに、私は親不孝者ですからね。」

 それは自分を卑下しているのでもなく、ただ、私はもう大丈夫。選んできた道に満足で今に感謝している。だから、過去の事も全部受け入れられる。

 という思いから出た言葉で、私は自然と笑みを浮かべていた。


《いやそれだと、俺も不孝になるぞ?》

「な・り・ま・せ・んっ! ディムさんには、これからいっぱい親孝行するんですからね。

 もう二度と私に悲しい思いをさせないと、誓ってくれたんですよ。

 そんなお父さんを悲しませたいなんて思いませんからねっ。」

《そうだったな。》

 私の気持ちに気付いてくれたディムさんからの、茶化していると判る言葉。

 私はそれに応えて、そして最後に、二人で笑い声を溢しました。


「リリアナもぉー! パパとずっとわらうのっ! フルララも、バーチャもスティアも、れふぁるママも、ナトレーも…お姉ちゃんとお兄ちゃんもっ! んと、アンジェとティエスも…それから…ティアルもっ! あとわぁ~」

 上を向いて考え込むリリアナちゃんに、私は幸せな気分になりました。

「みんなってことよね。」

「うん! みんなとね、ずっとわらうのっ!」

 そう言ったリリアナちゃんの満面の笑みに、私の心に暖かい気持ちが溢れてきます。


 親孝行という言葉の意味とは違うけど、そんなのはどうでも良いのです。

 大切な人達とずっと笑顔でいたい。という願いには勝てないのですから。



 リリアナちゃんと少し遅めのおやつタイムで寛いでいると、フルラージュさん達が帰宅しました。

 玄関の鍵を開けて扉を開けると、フルラージュさんに後ろから急かされるように、ティアルさんが一番に入ってきました。

「フルララさん、戻ってきてたのね。そっちはどうだったの?」

「はい。問題なく終わりました。」

「それは良かったわ。こっちも色々あったけど、全部片付いたわよ。」

 ティアルさんが遠慮がちに足を進める中、フルラージュさんと私の会話はそこで終わり、リリアナちゃん達が待つリビングへと入りました。


「ティアルおかえりぃ~!」

 リリアナちゃんの笑顔に癒されたのか、ティアルさんの顔に笑みが浮かんでします。

 それでも、一瞬の間があったのは、リリアナちゃんの頭の上にお気に入りの帽子があったからで…

「ただいま、リリアナちゃん。」

 それを深く考えることはなく、手招きするリリアナちゃんの隣に座りました。


「フルラージュさんとオリファさんは紅茶で良いですか?」

「うん。お願いするわ。」

「ティアルさんは何が良いですか?」

「えっと、私もリリアナちゃんと同じ蜜柑ジュースをお願いします。」

「はい。それじゃあ、準備してきますね。」



 飲み物を配り終えて、私もソファに座り、皆さんが一息付くのを心を抑えて静かに待ちます。

 ティアルさんの事や、伯爵の事は良い方向に決まった事はフルラージュさんとオリファさんの態度で判りましたけど、お母様の事がどうなったのか気になっていたのです。


《結果を教えてくれるか。》

 ディムさんが待ち切れなかったようです。


 紅茶を飲み終えたフルラージュさんから、私達が出掛けた後の事を順を追って話し始めました。

「14時前にレファルラさんが私達を迎えに来た事は聞いていると思うけど、私達が馬車に乗って最初に向かったのは冒険者ギルドだったわ。

 そこに伯爵が滞在しているのを知っていたみたいで、まずは、冒険者ギルドの私物化の話と、ギルドマスターの解任。そこから伯爵と貴族商会との裏契約みたいな話まで出て、領主が定めた規定を守っていなかった事も含め、冒険者ギルドは一時的な運営停止になったの。

 そこから話は、ティアルちゃんと貴族商会の会長の話になって、この屋敷を襲った事と、ティアルちゃんの父親の事に…

 そこは事前に、レファルラさんがティアルちゃんのお父さんの遺体を確認していて…

 そこまでの話の流れから当然、伯爵と貴族商会の会長を疑う声が傍聴していた冒険者から上がって、それに合わせたように昨晩襲ってきた守衛兵士達が現れて、伯爵をさらに追い込んでいたわ。

 そして、伯爵はその場で拘束。ギルドマスターも事情聴取という理由で、守衛兵舎へと連行されました。

私達も、ティアルちゃんをお父さんに合わせる為に、少しの時間、守衛兵舎に立ち寄りました。」


 ここで一呼吸の深呼吸の後、気難しい顔だったフルラージュに笑みが浮かびます。


「その後は孤児院に行って、公爵様が謝罪して、今後の経費はクラリムの冒険者ギルドから徴収した税金で補填するという約束を交わしました。

 後払い的な処置になるけど、これで孤児院の運営は大丈夫になったわ。」


「良かったですね。これで…孤児院も、冒険者ギルドも、この街も、良くなってくれるでしょう。」

 たった一日で、全てを解決したお母様…いえ、お父様に感謝です。

「それで…お母様は? あっ、それとティアルさんの今後の事は?」

 母の事よりも大事な事を忘れていた私は、恥かしさからティアルさんに頭を下げる。


「あっ…えっと…」

「私から説明するわね。」

 何かに遠慮するような仕草を見せるティアルさんに見かねて、フルラージュさんが言葉を繋げる。

「ティアルちゃんは、レテイアの魔術学園に15歳から入学することになったの。それに伴い、リテラ公爵様が後見人としてティアルちゃんの保護者に。」

「うぇ?! おっ…いえ、公爵様が? えっ? 魔術学園に?!」

「そうよ。レファルラさんがレテイアで教養を学ばせたいと思っていると、事前に公爵様に相談していて、ティアルちゃんの返事待ちだったの。

 そしたら、冒険者ギルドに教会の神官長も居てね、ティアルちゃんに、『空の魔術師』という資質があることが判ったの。」

「あっ、それで魔術学園なんですね。」

「そうよ。だから、ティアルちゃんは、祭りが終わった次の日に、公爵様とレファルラさん達と一緒にレテイアに行くことになったわ。」


 何か凄い事になってるけど…だからティアルさんの見せていた態度が、そういうことだったのね。

 それにしても、お母様がお父様に頼んだってことだろうけど…

 あのお父様が…

 いえ、それよりも、お母様はいったい今はどこに?


「それでレファルラさんは、公爵様と少し話をしてからナトレーさんと戻ってくるそうよ。そのうち戻ってくるんじゃないかしら。」


 良かった。でも…お父様と一緒に居なくていいのかな?


「そっか、じゃあ本当に、全部解決したってことですよね。」

「そうね。伯爵と冒険者ギルド関係の問題は全部解決ね。」


 ティアルさんのお父さんが亡くなった事は辛い出来事ですけど、ティアルさんには光ある明日があるんです。


「ティアルさん、不安に思う事が沢山あると思いますが、大丈夫ですからね。」

「はい。突然な事ばかりで戸惑っていますが、皆さんの好意に嬉しく思い、これから頑張っていきたいと思います。」

 少し落ち着いたのか、ティアルさんの表情が柔らかくなっていました。


 まあ、隣に座るリリアナちゃんが心配そうな顔でずっと覗き込んでいるんですから、癒されるのは当然ですよね。

 ほんと、色々あったけど、やっと日常に戻れます。


「んぅ~」 肩の荷が降りた気分で、私は座ったまま背伸びをしました。


 明日は何しようかなぁ~


 チリンチリン~♪


《レファルラとナトレーが帰ってきたぞ。》

 私は嬉しさの笑みを隠さず、そのまま席を立ちました。

「私が出てきますっ!」


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