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娘をダメにするスライム  作者: 紅花翁草
28/41

魔王、愛情を知る。

 50メートル越えのドラゴンという、思い掛けない収獲に俺は上機嫌だった。

《リリアナ、フルララ、今日の晩御飯は蟹だ!》

「やったぁー!」

 両手を上げて喜ぶリリアナの前に、俺は今日獲ったばかりの蟹をテーブルにドン! と置いた。


 ダンジョン産の魚介類は、基本的に味に大差は無い。

 元々が美味いからな、まったく問題ない。

 だが、違いが一つだけある。

 でかいのだ!

 足はワイン瓶程の太さがあり、鋏の部分だけで鍋が一つ必要になる。


《今日は鋏のところ1本と、あとはいつものパンと蜜柑ジュースだな。》

 蟹の鋏だけを残して、パンと蜜柑と紅茶セットを取り出す。

 フルララが何も言わずに紅茶の準備を始めたので、俺は蜜柑を絞った後、炎で蟹の鋏を包み焼きする。

「いいにおいする。」

 リリアナの言葉に、俺は炎を消して大皿の上に下ろす。

 そして、重力魔術で軽く握り潰すように圧力をかけて、殻に亀裂が入ったところで止める。

《フルララ、あとの殻剥きを頼む。》

「はい。ちょっと待ってください。」

 紅茶をカップに注ぎ終えたフルララがナイフとフォークで、鋏の殻を剥がしていく。

 その間に俺は、ナトレー特製のマヨネーズソースを取り出す。


 魔術で殆どの事が出来る俺だが、取り分けたり分離させるような作業は時間が掛かってしまう。

 物体を潰す、浮かせる、移動させるという、重力魔術の本来の使い方ではないからな。


 リリアナの目の前の皿には蟹の肉が大盛に積まれていて、目を輝かせて見ているリリアナがいた。 

《盛りすぎじゃないか?》

「いやだって、リリアナちゃんの目がもっと! って訴えかけていたので…」

 フルララの言い分に、俺は笑いを堪えていた。

《確かにそうだな。リリアナ、全部食べられるか?》

「うん! たべれる!」

《そうか。では、頂こうか。》



 宣言通り、リリアナは皿一杯だった蟹を綺麗に平らげていた。

《デザートに、桃と蜜瓜をって思っていたが、食べられそうか?》

「うん! たべれるぅー!」


 今日の食欲は凄いな。

 これが成長期ってやつなのか?


《よし! これは本当に美味いやつだからな。期待して良いぞ。》

 倉庫から桃と蜜瓜を取り出し、テーブルの上に置く。

「桃と蜜瓜って初めて見ましたけど、ダンジョンにだけにある果物なのですか?」

 収穫した時はゆっくりと見ることが出来なかったフルララが、テーブルの上の果物をジックリと観察している。

《そうだな。俺が知っている限り、地上では見たことがない。》

 同じような果実は存在するが、ダンジョン産のように甘くて美味い物はなく、どちらかと言えば野菜のような物ばかりだった。


「パパ! はやくたべたい!」

《ああ、すぐ出来るからな。》

 俺は蜜瓜をエアカッターでカットして、種の部分をスプーンで掬って口に掘り込む。


 ん? 案外美味いなこれ…


「リリアナもぉー!」

《いや、捨てる時間が面倒だったから食べただけで、ここは食べないところだからな。》

 俺は種を取り終えた蜜瓜を皿に乗せて、リリアナとフルララの前に置く。

《先に食べて良いぞ。》

「はぁーい!」

 リリアナとフルララが嬉しそうに蜜瓜を食べ始めたので、俺は桃に取り掛かった。


 皮が薄いからどうやって剥くかだが…先ずは半分に切るか。

 あ! 種ごと半分になってしまったじゃないか。

 まあ、これもスプーンで掬って…ん? そうだった! 

 …仕方がない。さらに半分にしてナイフで削ぎ取るか。

 よし! あとは皮だけだが…これもナイフで削ぎ切るようにしないと…


「ディムさん…あとは私がやりましょうか?」

 リリアナとフルララが、物欲しそうに俺と桃を眺めていたのに、この時気付いた。

《ん? ああ、もう食べ終わったのか。そうだな、後は皮を剥くだけだけだから頼む。》


「これパパの!」

 皿に桃を下ろした後、リリアナがフォークに刺した蜜瓜を俺へと差し出す。

 最後の一口を残しておいてくれていたのだった。

 俺は口を開けてそれを受け入れる。

《ああ、美味いな。これは母達も喜ぶだろうな。》

「うん! バーチャもレファルママもナトレーも、いっぱいたべてもらうの!

 あっ! おねぇちゃんとおにぃちゃんも!」


 嬉しそうに桃を食べ始めたリリアナに、俺は《そうだな。》と答えた。




 夜の8時になってから6層から地上に戻った俺達は、昨日と同じく数人の冒険者に目撃されるだけで屋敷へと戻る。

 やはり夜の1層から3層には誰も居なかった事から、ダンジョンに行く時間はこれに限ると俺は決めていた。


《それじゃあ、俺とフルララはもう少しやることが残っているから、リリアナは母達と留守番していくれるか。》

 5層に戻った辺りからさっきまで寝ていたリリアナだったが、屋敷に着いたと同時に目を覚ましていた。

「うん! るすばんできる!」

 目を輝かせて返事をするリリアナ。


 普段なら起きることはなかったが、ダンジョンでの高揚がまだ残っているのだろうな。


 リビングに入ると、待ち侘びていたことが分かるフルラージュとオリファが立っていた。

「ディムさん、ドラゴンは獲れたのですか?」

《ああ、最高のが獲れたぞ。今からフルララと二人で商業ギルドへ行ってくる。》

「うんとね! おっきいの! アトラがね! かっこよかったの!」


 俺はフルラージュ達の相手をリリアナに任せることにして、フルララと寝室に向かった。

 俺はリリーアナリスタの鎧を取り出し、ドレスを脱いだフルララからドレスを受け取る。


 このドレスをリリアナが着るのは、いつになるんだろうな…

 それともう一つのドレス。それもフルララが先に着ることになるだろうが、リリアナも喜んでくれるだろう。

 

「ディムさん、準備できました。」

 ヘルムと上半身のプレート以外を装着したフルララが意気揚々とした表情で俺を見ている。

《今回は終始堂々としてくれればいいからな。》

「はい。勇者っぽくですよね。」

 俺の脳裏にリリーアナリスタが見せた記憶が蘇り、それは確かに、目の前のフルララの姿に似ていた。

《ああ、それで大丈夫だ。》

 俺はドレスを倉庫に収納し、フルララの胸にくっ付いて最後の装着を手伝った。



 黒いマントで体を包み、屋敷の裏庭から空へと飛び上がった俺達は一度高く上昇し、ゆっくりと降下しながら商業ギルドの扉前に降りる。

 まだ人通りがある場所に降り立つフルプレート装備の人物は当然注目され、辺りはざわつき始める。

《このまま、中に入ってくれ。》

 フルララは扉を押し開けて、一歩一歩といつもロチアがいるカウンターへと足を運ぶ。

 商業ギルドのロビーに十数人の人族を認識していた俺は、フルララがカウンターに着く前に商業ギルドの建物全体に念話を飛ばす。

《商業ギルドの所長ハミルドを至急呼んでくれ! 俺の声が届いているなら直ぐに来てくれるか!》

 そしてカウンターへとフルララが到着したので、今度は普通に念話を使った。

《所長のハミルドはここに居るのか?》

「はっ、はい! 所長室で書類の確認などを行っていると思われます!」

 カウンターから聞こえる女性の声は上擦っていたが、返答の言葉はしっかりと聞き取れた。

 その後、後ろの扉から一人の人物が慌てた様子で現れるのを俺は認識する。 

「騎士様、私に用事とは一体何が?」

《ああ、忙しいところすまないな。祭り用の食材が足りないと聞いたからドラゴンを狩ってきた。

 それで、色々と相談したいことがあるんだが、今から少し時間をくれないか。》

「ドラゴンをですか?! それは願ってもない話ですが…相談というのは買取りの話でしょうか?」

《基本はそうなんだが、商業ギルドの屋台と普段取引している商店街のみで販売する事を条件に、食材になる部分を無償で提供したい。

 そして、それ以外で売れる物で商業ギルド主宰のオークションを開いて欲しいのだ。》

「それは…判りました。騎士様の意向を最大限に叶えさせて頂きます。

 ですが、オークションを開くよりは、買取業者に流した方が無難なのでは?」

《祭りの目玉になると思っているんだが、ドラゴンの爪や皮膚などだけだと無理があるか?》

「そうですね。どのようなドラゴン種をお持ちになられたのでしょうか?」

《種類は判らないが、50メートルを超えるドラゴンだ。ダンジョンでも滅多に出会わないやつだからな。》

「なっ?! それは本当なのですか!?」

《ああ、ここでは出せないから、何処か広い場所で見せるぞ。》

「なら! こんな祭りなどではなく、オールストの王都で扱うべきだと思います。歴史的な出来事なんですから!」

 普段とは違うハミルドの強い言葉に、俺がドラゴンを狩ってきた理由を告げる。


「そのような理由で、ドラゴンを…」

《俺にとっては、その程度の労力だったということだ。

 それでだ。全長50メートル越えのドラゴンを…そうだな、解体するところから見せるってのはどうだ? ドラゴンが本物だという証明にもなって、観光客の集客になる。

 それから切り取った肉を順に屋台で調理して売り捌く。

 それ以外の部分をオークションで販売することを宣伝する。それだけで、残りの祭り期間を使ってしまうくらいになってしまうが、どうだ?》


 静かだったロビーがざわつき出す。


「50メートル越えのドラゴン…本物のドラゴンだと…」

「所長! その方の話は本当なのですか!?」

「冒険者ギルドと貴族商会に一泡吹かせるってことだろ?」

「願ったりの話じゃないか。祭りも盛り上がるし、俺は今から徹夜でも構わないくらいだ!」

「ああ、俺もだ! 銀の騎士の話は聞いている。サーカスと孤児院を救ってくれた恩人が、今度は俺達の為に動いてくれたんだからな。」

「そうだとも! 俺達が応えなくてどうする!」


 ロビーには、俺の第一声が届いた者達が既に集まっていて、俺達の会話を聞いていた職員達から声が上がる。

「判りました。解体場は流通倉庫を使います。手の空いている職員は全職員を緊急招集して下さい。それと、解体業者への依頼の手配を今から。ドラゴンの解体と言えば、直ぐにでも飛んで来るでしょう。

 では皆さん! 歴史に刻まれるであろう、私達の祭りを始めましょう。」


 オォオオオオ!


 ハミルドの掛け声に、商業ギルドのロビーの空気が振動する程の声が湧き上がっていた。


 

 それから俺とフルララは、ハミルドと数名の職員に連れられて、流通倉庫という場所に入る。

 全長100メートルはあり、高さも幅も十分あった。


 フルララはハミルドの後を追うように少し後ろを付いていく。

「空調を最大冷気に変更! 全ての換気を停止! 倉庫に残っている食材を入り口付近に全て移動させて下さい。

 これで、ドラゴンを傷めるとこなく保存出来ます。騎士様の次元倉庫の価値を損なわない環境は街の中でもここだけですので。」

《流石はダンジョン所有の街だけのことはある。もしなければ、氷付けにして展示することも考えていたからな。》

「それも面白い趣向だと思いますが、肉の良さから言えば、やはり冷温熟成が一番ですから。」

《そうなのか? それは知らなかったな。》

「はい。ドラゴン種と言われる食材は、この街に着任してからは扱ってはいませんが、ドラゴン種の肉は特に繊細ですから。

 では、この辺りに出して貰えますでしょうか。」

 俺は次元倉庫からドラゴンを取り出し、ハミルドが手を向けた先にゆっくりと降ろす。


「これは…一度だけドラゴンの顔の剥製を見たことがありますが、この大きさの物は世界中を探しても無いでしょう。」

《頭を剥製にして飾るのか?》

「ええ、騎士様は見たことはありませんか? 珍しい魔獣や魔物を仕留めた証として、頭の剥製をトロフィーと呼んで飾る習慣が貴族の間にはあります。今は権力の証として購入しているのが殆どですけど。」

《そうなのか。貴族とは縁がないからな。》


 人族はそんな事をしていたのか…

 そして少し怪しまれてしまったかも知れないが…まあ、大丈夫だろう。

    

《では交渉を始めても良いか?》

「はい。これを私共が買い取らせて頂くという話ですよね?」

《ああ、屋台で売る肉料理の価格は、破格の値段で売って貰うことを条件に無償で提供して欲しい。

 だから解体費用などが商業ギルド持ちになることを考慮しての値段を出してくれ。》

「なるほど。では、オークションに出品する品々が確実に売れると判断する値段の合計で宜しいでしょうか?」

《それで十分だ。》


「白金貨5000枚。」

「ぇ!!」

 フルララがビクッ! っと一瞬硬直して声を漏らしてしまった。

「と、申し上げたいのですが、正直商業ギルドにはそこまでの資金がありません。」

 申し訳ないと言った口調のハミルドが頭を下げていたので、フルララの言動は見られていなかったようだった。


《フルララ、勇者らしくだぞ。》

 小さく首を縦に動かすフルララ。


「ですので、オークションの売り上げから、後日にお支払いという形に出来ないでしょうか?」

《それで構わない。 後は全て任せることになるから頼むぞ。》

「承知いたしました。」

《それとだ、これはダンジョンの土産だ。貰ってくれ。》

 箱詰めした桃と蜜瓜。それと、獲った巨大魚をハミルドの足元に置く。

「これはまた…この食材も祭りで使わせて頂きます。》

《ではな。 俺の思い付きに付き合ってくれたことに感謝する。》



《フルララ、お疲れ様だ。後の事は商業ギルドに任せて帰るとしよう。》


 集まり出した職員達は入ってくるなりドラゴンに釘付けになっていたから、フルララの足を止める者は誰も居ない。

 倉庫から出た後すぐに空へと飛び上がり、屋敷とは反対方向の街の外に一度出る。

 それから、ずっと我慢していたフルララの話を聞きながら、俺達は人族に見つからないように屋敷へと戻った。


 まずは自室でフルララの着替えを済ませてから、リビングへと向かう。

 リビングに入ると、ソファに座って、寝ているリリアナを抱いているレファルラと目が合った。

「お疲れ様でした。」

《リリアナは寝てしまったか。まあ、普段なら寝ている時間だしな。》

「私達にダンジョンの話を沢山してくれましたけど、途中から寝てしまいましたね。

 凄く楽しかったのが伝わってきました。」

《ああ、前は毎日のように狩りを楽しんでいたからな。》


 定期的に6層へ出掛けるのも良いかもしれないな…

 フルラージュ達とダンジョンに行くとしても、俺に乗っての狩りは出来ないからな。

 人目もあるから、リリアナは見ているだけになるだろうし。

 

 バーカウンターで、母達とお酒を飲んでいたフルラージュとオリファが席を立って俺の傍へと来る。

「ディムさん、それで商業ギルドの方はどうでしたか?」

《問題なく、話は済ませてきた。》


 それから、商業ギルドで決まった話を俺から話、フルラージュからは冒険者ギルドの事とダンジョンでの狩りの話を聞いた。


《その話が真実なら、俺は迷わずに死で償わす事を選ぶんだがな…》

「ですが、それを証明する物も無ければ、殺害したところで、第二のシジトールが選ばれる可能性もあります。」

 話を聞いていたレファルラの指摘に、《だから、困っている。》と俺は答えた。


「孤児院の事も含めて今回の件。冒険者ギルドが適切な運営をしていないのは明らかですら、レテイア領の領主としてクラリムの冒険者ギルドに改善を求める事は出来ます。

 夫も息子も、この事を知らないでしょうし、ダンジョンはレテイアの貴重な財源でもありますから。」

《やはり、頼るしかないのか…》

「ここを収める伯爵も調べてみる必要もありますし、夫に手紙を出します。」

《すまないな。》

「いえ、領主としての務めを促すだけですから、ディムさんが気にすることではありませんよ。」

《確かにそういう話ではあるんだが、レファルラは俺の客人であり、フルララの母としてこの街で暮らして欲しいと思っていたわけだ。」

「ありがとうございます。ですが、領主の妻としての役割も私には大切な事ですから。」

《そうだな。では改めて冒険者ギルドの事を頼む。それと、俺の手が必要な時は遠慮せずに言ってくれ。》

「はい。そうさせて頂きます。」



 祭り4日目の朝、朝食を軽めに済ませた俺達は、母以外のメンバーで商店街へと向かった。

 フルラージュとオリファは早朝に出掛けたが、予想通り今日からのクエストが無くなり、臨時の契約も解約になったと、戻って来ていた。

 その時にドラゴンを実際に見てきたとのことで、既に解体が始めっていて祭り屋台などに朝から提供している事を知らされていた。

 だから朝食を少なくして、商店街で2度目の朝食をとることにしたのだ。


 案の定、商店街はいつも以上の活気が溢れていた。

 そして、急遽作ったと判る『ドラゴン肉』という看板が至る所に掲げられている。

 

「リリアナちゃんに皆さん。ちょっと聞いてくれるかい! 今日は凄い食材が入ったのよ! 普段は大通りの店でしか手に入らないダンジョン産の果物! しかも祭り期間だけの、通常価格の10分の1で販売しているから食べてみないかい! 今日の昼には売り切れてしまう早い者勝ちだよ!」

 いつもの野菜店の店主が、カットした桃と蜜瓜が入ったガラスの器を俺達に見せる。

「ん! たべるぅ!」


 今日の朝食でも桃と蜜瓜を食べたリリアナだったが、美味い果物は何度食べても飽きない物だからな。


 それから、魚屋と肉屋が出しているドラゴン肉の料理を食べることにした。

 魚屋にもダンジョン産の巨大魚の切り身が入っていたが、ドラゴン肉を料理したくなったからと、肉屋と共同で色々と試作して、その内の2品を販売することにしたとのことだ。


 胡椒を使った定番の串焼きに、塩と香草で少し寝かした肉で作った串焼きが肉屋。

 薄く切った肉を甘辛いソースで軽く煮た物と、白身魚で使っていたソースが肉に塗られた串焼きの魚屋。

 4品全てを人数分購入して俺達はテーブル席に着く。


 まあ、俺は帽子だからリリアナの頭の上で、人数にも入っていないけどな。


「これがドラゴンの肉なのね。」

「まずは胡椒だけの肉で味を確かめてみてください。」

 フルラージュの言葉に合わせ、初めて食べる者達へとナトレーが助言する。


 ドラゴン種の肉を食べた事がないのはリリアナとフルラージュの2人と、記憶が無いフルララ。

 オリファは、村を襲っていたドラゴン種の討伐で一度だけ食べていたとのことだ。

 レファルラとナトレーは王城での生活時に何度も食べていたし、レテイアの屋敷でも食べていたが、体調が悪くなってからは食べる事が無くなったと。

 だからフルララはレテイアに居た頃に食べていたのだが、当人は覚えていないらしい。


 この話を聞いた時に俺は、いつも美味しそうに食べているリリアナもそうなのだろうかと、寂しい気持ちになった。

 それを察したレファルラが、「例え忘れたとしても、その時の幸せな気持ちはちゃんと積み重なって、忘れることのない幸せな日々だったと刻まれていきます。」

《そうなのか?》

「はい。それを私は愛情と呼んでいます。」


 愛情を注ぐ。育む。と、耳に聞いたことはあっても、それを深く考えたことはなかった。

 ただ、大切に思う気持ちを与えたり、自分の中で大きくすることなのだろうと、漠然に思っていただけに過ぎなかった。

 だがそれは違っていて、レファルラの言葉で相手の中に溜まって初めて愛情になるのだと気付かされた。


《なるほどな。愛情とは、受け取った側の心で生まれるものなんだな。》

「そうですね。だからリリアナちゃんの心には、沢山の愛情が詰まっています。それは溢れる程に。」

 レファルラのその言葉の意味に、俺は少しの恥ずかしさと嬉しさを感じた。

 だから俺はこの時思ったのだ。


 世界中のダンジョンで、リリアナと一緒にドラゴンを狩ると!

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