第9話 二つの城にて ①
「エリシア・サーフェス、黒金の戦士を探し出してください」
窓からさす、日の光とそよ風が金色の髪を揺らし輝かせながらアゼルガ王国第1王女ローゼレッタ・フォン・アゼルガがエリシアに命じる。
「承知いたしました、ローゼさま。しかし、まさかあのようなものを我が騎士団にいれるつもりですか?」
青い髪を後ろでポニーテールにまとめたエリシア・サーフェスは、ローゼレッタ姫の対面の椅子に座り疑問を素直にぶつけた。
エリシアは、ローゼレッタの騎士ではあったがローゼレッタの乳母の娘ということもあり幼少のころより育った幼馴染であった。故に公式の場では格式張ることもなくなるべく昔のように話したいと同席を許しているのだがエリシアは騎士の爵位をさずかってからは口調が昔のように軽く話しかけてくれることはなく、少しだけそれがローゼレッタには寂しく感じてはいた。
「そのまさかです。まずはわたしの護衛騎士団にいれるつもりです」
大我は気付かなかったが、オーク襲撃時に襲われていた騎士団はすべて女性から構成されるローゼレッタ専用の護衛騎士団であった。
ローゼレッタは第1王女という地位にあったが、魔法適正がなくアゼルガ王国では魔法適正が重要視されていることがあり、ローゼレッタは廃嫡こそされずにいたが王からも重要視されず、都合のいいように外交などを強いられていた。
その理由は幸いなことに、知能が高く隣国はおろか獣人、亜人の言語にも精通するほどで外交に苦労することはなかったためであったが魔法適正がないため自衛の手段がなく、国からでることもなくこのまま安全に国の中で過ごすものだと感じていたが、100年前の魔王からの人類宣戦布告宣言により各国の一つ一つの力での対応が困難になり、同盟を結ぶための隣国のグラム帝国まで遠征し同盟締結のための前準備として会談をこなすまでは。
襲撃されたのは、その帰り。王女ということもあり配慮したという女性だけからなる護衛騎士団は練度も実力も低くお飾りというほかしかなく、全滅するものかと思われた。
あの時、黒金の戦士が、現れたことによりすぐに負傷者に回復魔法をかけて上げることで死亡者こそ出なかったのが救いであったが騎士団からの離脱者が相次いだ。
元冒険者として名をあげたエリシアでも単体でオークキングを倒すほどの力はなかった。
それ故に黒金の戦士の力は非常に助かったと思っていたのだが冷静になればなるほど後から疑問が湧き出てくる。
「ローゼさま、今回のオーク襲撃は不自然です。間違いなく魔族の関与があったと考えていますがあの黒金の戦士が魔族とは考えられませんか?」
当然の疑問だと思いローゼは用意した答えをエリシアに告げる。
「いえ、それはないでしょう。なぜなら、彼は光属性の魔法を一瞬ですが使っていました。」
「光魔法をですか!?」
「そうです。オークキングを倒すさいに一瞬ですが、光魔法を使っていました。ただ、同時に闇属性の魔力も感じられはしましたが⋯⋯⋯⋯」
「バカなっ!同時に相反する属性を使うなど出来るはずがありません!」
ありえない事象だと、エリシアはつい声をあらげてしまった。
アゼルガ王国では、魔法が重要視され子供でも属性の基本使用を理解していた。その一つに相反する属性は同時に使えない。相反する属性を習得することは出来ない。と、いうものがあった。
基本4属性、水属性を習得すれば火属性が習得出来ず、風属性を習得すれば地属性が習得出来ず
そして、滅多に現れることがない光属性、この属性は魔族が習得することは絶対にない知られ闇属性と反発する。
「す、すみません。取り乱しました⋯⋯⋯⋯しかし、ほんとうなのですか?相反する属性を同時に使うなど⋯⋯⋯⋯」
エリシアは、落ち着きを取り戻しローゼに問いかけた。
ローゼレッタは、動じることなくエリシアに優しくほほえみかけると肯定の言葉を口にした。
「わたしは魔法適正がありませんが高レベルの鑑定スキルを持っていますからね。間違いないです。あの黒金の戦士は光と闇の属性を持っていました」
「いったい、何者なのでしょうか?それに、そのような存在を仮に見つけ出し我が護衛騎士団にいれるのは問題ないのでしょうか?」
当然の疑問だと言わんばかりの顔でローゼは窓のほうへ視線を移した。
「グラム帝国、エルフ、ドワーフからなる通称連邦、獣人国。女神エースティアを祀る神聖皇国。そして、わたしたちが所属するアゼルガ王国のような小国が多数、それらの人類同盟が締結されます」
ついに人類の反抗がはじまる、まさに歴史の変換点だとエリシアは息を呑む。
「同盟締結は神聖皇国で行われ、そこにそれぞれの国で少数のSランク戦力が集められます」
「え、Sランク戦力ですか⋯⋯⋯⋯?」
Sランクとは国に縛られない冒険者ギルドが定めるクラスである。F~Sまであり、当然Sランクが最高である。
エリシアも護衛騎士団に所属する前には、冒険者ギルドに所属していたがBランクまでしかあがらなかった。
そして、Sランク冒険者を国に留めるにはそれなりの報奨金なり見返りが必要であったがアゼルガ王国のような弱小国ではそのような高ランク冒険者を留めておくことが出来ずエリシアのBランクが最高であり、今現在のアゼルガ王国冒険者ギルドにはCランクまでの冒険者しかいなかったのだ。
「エリシア、あなたの考えていることはわかります。だからこそなのです。あの黒金の戦士をなんとしてでもアゼルガ王国の陣営に据え戦後も考えなくてはいけません」
「戦後ですか?」
エリシアは目を丸くする。まだ目の前の戦いにすら勝算薄く頭を悩ませているというのにローゼレッタはすでに戦後にまで頭を巡らしていことに驚嘆した。
「そうです。冒険者ギルドがいくら中立という立場をとっているとは言っても国が擁しているSランク冒険者がいないとなればすぐに次は人類同士の戦争になりアゼルガ王国はグラム帝国に呑まれるでしょう」
否定したい気持ちでいっぱいだが、魔王の宣戦布告前には人類同士で戦争をし魔王からの宣戦布告があっても人類は小競り合いをしていた。
もともとアゼルガ王国は大昔の血縁筋から出た者が興した国でグラム帝国から排出された国であったが、今の野心あふれる皇帝であればすぐにでも属国にしてしまうだろう。
「いま、現在魔王という存在がいるのはある意味僥倖かもしれません。人類同士で戦争していないのですから、時間をかせげます。もちろん、魔王軍を撃退出来たらの話しですが―――」
一旦、言葉を切りローゼレッタはエリシアをまっすぐ見据える。
「そして撃退後、我がアゼルガに次の戦争の抑止力なりえる存在がいなくてはなりません。なんとしても黒金の戦士をこちらの陣営に引き込まなければならないのです。」
「ローゼさま、お話しは理解できました。しかし、黒金の戦士が他の国の所属する者の可能性はないのでしょうか?」
「もちろん、その可能性も考慮しましたが光と闇の属性を使うSランク冒険者など聞いたことがありません。どのような存在でわたしたちを助けたのか分かりませんが、話し合いが出来る余地があると考えております。」
ローゼレッタは言葉を続ける。
「そして、わたしたちがお、お、嘔吐してる時に飛び去った方角はこのアゼルガ王国です。きっとなんらかの足取りが掴めるでしょう」
嘔吐という言葉に、あのときの酷い臭気と場面が思いおこされ少し黒金の戦士に
(女性の前で嘔吐するとは何事かと!)
と、文句の一つでも言ってやりたくなり、椅子から立ち上がる。
「ローゼさま、おまかせください。必ずや黒金の戦士をローゼさまの御前にて嘔吐の件を謝罪させるようにします、それではさっそく捜索のため失礼いたします」
それだけ、ローゼレッタに告げるとスタスタと部屋を出て必ずや謝罪させるとエリシアは意気込んだのであった。
(嘔吐の件は、もう忘れたいからいいんだけど⋯⋯⋯⋯)
ローゼレッタの小さい呟きは、だれもいない部屋に囁かれるのみであった。
そして、ローゼレッタは嘔吐のことで先ほどの黒金戦士を連れてくるという重要性を忘れないように昔から短気な幼馴染に祈るのみであった。
読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
本日中に10話目投稿できそうです。