第14話 ヒーロー異世界にてクラスが介護職員になる ④
「うぼろろろろ⋯⋯⋯⋯」
黄昏時、夕焼けが黒金の戦士を照らす中、口部のみ開かれたマスクから胃の中身をすべて出さんと吐き出している。
エリシアはうずくまって吐いてるその戦士の背中をさすっていた。
あたりには、ゴブリンが肉塊となって転がっていた。
あるゴブリンは、パンチ一発で顔面が爆砕し―――
あるゴブリンは、凶悪なカギ爪で引き裂かれ原型を止めないくらいぐちゃぐちゃになり―――
あるゴブリンは、1番綺麗な死体であったが光剣によって縦真っ二つになっている姿はなかなかショッキング的だ―――
そして、最後のゴブリンはオークキングに放った光と闇の混合の必殺拳をぶつけたところ身体は粉みじんに四散し、臓物やら帰り血をまともにかぶった大我は、もう精神的に耐えられなくなり吐いている最中であった。
「まさか、ここまで凶悪な攻撃力だとは⋯⋯⋯⋯凄まじいな神核石の力は⋯⋯⋯⋯」
かいがいしく背中をさすり続けるエリシアにマナが答える。
『否、神核石はあくまで願望を力に変えるものであってこの結果はマスターの願望による力です』
「なのに、このような惨状に耐えられる精神はないと⋯⋯⋯⋯」
特撮ヒーローものなら、怪人とか倒したら爆発して終わりでこんな風に臓物フェスティバルにならないのだから、一切そんなことは大我は望んでいないと反論したかったが嘔吐が止まらない。
「とりあえず、タイガ。状態の良さそうなやつの耳を剥ぎ取ればいいんじゃないか?」
『否、前回もわたしからもマスターにそう提案しましたが耳なんかどう切り取っていいか分からないと申しまして実行に移せておりません。そのまま変身を解き帰ろうとした時にゴブリンの臓物に足を取られ転び血まみれなり、また嘔吐しそんな精神状態のまま薬草最終の試練を受けましたが、体に染み付いた血の臭いで惨状を思いだしたのか、また吐き続けておりました』
今時、ゴブリンの耳すらはぎ取れないとはどこの坊ちゃんかとエリシアは頭を抱えた。
「うぅぅ⋯⋯⋯⋯とにかく耳を剥ぐとか絶対にダメ⋯⋯⋯⋯おれ、もう全部出ちゃったけど次は胃液でる自信あるよ⋯⋯⋯⋯?」
どんな自信だと、エリシアは思ったが本当に手詰まりだ。エリシアが剥ぎ取ればいいのだろうが、さすがにそれは騎士として不正を看過することは出来なかった。
エリシアはタイガの後ろに周り、ナイフを持たせゴブリンの頭を持ってきてナイフを耳に押し当てる。
「ほら、タイガここまでお膳立てしてやったんだ、少しずつでいいからやってみろ」
普通であれば、胸が当たり男としてとてつもないラッキースケベ状態であったがエリシアは鎧によって胸の感触などなく無機質な鎧の感触しか大我に伝わらなかった、
しかし、仮に鎧がなくダイレクトに胸の感触が伝わっていたとしても大我にはそれを気に掛ける余力はなかった。
少しずつ、ナイフによって引き裂かれていく耳の感触に全身が拒否を訴えている。
「うぁわわわ! やめて! やめて! 変な感触がする! エリシアさん、まじやめて胃液でちゃうよ!」
そんな大我の言葉を無視し、エリシアはゴブリンの耳をはぎ取ろうと大我の腕を進めていくもう少しで切り話せる頃合だと思ったとき――――
「みィつけた♪」
魔族を象徴する二本角に漆黒の髪、14、5歳くらいの年齢に見える身長―――150cmくらいだろうか?露出度の高いビキニアーマーを着ているがいやらしさを感じないのはその武器の禍々しさのせいだろうか
そんな身長をはるかに超える巨大な禍々しい鎌を携えた少女がニィっと笑みを浮かべながら大我に突進してきた。
遠慮なく、大我の首を刈ろうとする斬撃に大我は咄嗟にエリシアを跳ね飛ばし距離を稼げたのを感じると左手で巨大鎌の斬撃を受け止めた。
原理は分からないが、よく特撮ヒーロー番組で相手の攻撃を受けた時に出る火花が発生する。
これもヒーロー番組で出る謎現象だったなと思い出す。
「へぇ♪これを無傷で受けちゃんだ⋯⋯⋯⋯すごく楽しい!」
次々に斬撃を繰り出しながら、軽口を叩く。
「わたしの名前はディズエム。近しいものはディズィと呼ぶわ。あなたの名前は?」
質問しているのに、一向に斬撃のスピードが緩まない。
それどころか、どんどん攻撃スピードが早くなっていく。
「おれは⋯⋯⋯⋯くっ! タイガだ! 何故、攻撃してくる!?」
必死に攻撃を捌こうとするが、素人の動きでは防ぎきれず何度も攻撃を受けては斬撃を受けた箇所から火花が飛び散る。
「なにを言ってるの? わたしは魔族で戦争中なんだよ? それにとうさまが言っていたけどあなたすごく強いんでしょ? だって、わたしの攻撃を何度も受けても平然としてるもの♪」
(全然、平気じゃないし答えになっていないんだけど!)
いくら防御が桁外れて、ダメージをほとんど受けてはいないようだが体力の数値が一般人以下の一桁だ。すぐに息が切れてくる。
「ほんと、固いね。どんな防御の数値があったらそうなるんだろ。ちょっと本気だすね」
そう、ディズエムが言うと禍々し鎌に火属性の魔力を込め赤熱化していく。
大我は、とっさに距離を取るがディズエムは、そんのお構いなしに鎌を魔法発動言語と共に鎌を振るう。
「炎熱刃」
次の瞬間、赤い刃が大我に向かって飛んでくる。さすがにこれをまともにくらうのはやばそうだと思い武器を取り出す。
『Try Blade Set Up』
光剣が手に収まると大我はすぐに赤い刃を受け止めるよう光剣を前に差し出し身を守る。するとまたもや意味不明な爆発が生じる。
爆発の煙幕が収まると、そこには無傷の黒金の戦士を確認すると嬉しそうにディズエムは笑った。
「ほんとすごいね。いまので無傷なのは初めてでちょっとショックだよ♪」
ケラケラと笑うディズエムをよそに、大我は焦っていた。
確かに、相手の攻撃をなんとか受けきってはいるが体力が持たない。
完全に動けなくなる前に、なんとかディズエムを撃退しなくては体力が尽きれば一方的に攻撃を受けしまう。
それにここにはエリシアもいる、自分がやられれば次はエリシアかも知れないと思いどうすればいいか思案する。
この光剣をディズエムに当てるのは、それ自体が至難だし問題外だ。
少女のグロ光景など絶対に見たくない!
ならば武器破壊!
そう、大我が決心するとなけなしの体力を使いディズエムに突進していく。
「お、急にやる気になったね♪」
ディズエムは、またもや鎌に魔力を込め赤熱化させる。
「炎熱斬!」
ディズエムが魔法発動言語を唱えまっすぐ大我に向けその禍々しい鎌を大我に振るう。
その光剣で受けきるかと思ったディズエムであったが大我にそんな速さの攻撃を受けきるほどの体力は残っていなかったのであえて左肩で受ける。
バチィ!
と、火花が弾ける。
(ぐぅぅ! あちぃいい! いたいぃぃ!)
ディズエムは、まさか魔力をまとった攻撃をまともに受けると思っていなく、そして目の前の存在が炎熱斬でも断ち切れないことに驚愕した。
(まずい! こいつの攻撃を受ける!)
大我の両手はフリーだ。明らかに光属性の固まり光剣で切りかかられればディズエムに必ずあたり、ただではすまないであろう至近距離に思わず眼を瞑ってしまう。
次の瞬間、光剣による斬撃はディズエムではなくその禍々しい鎌の刃に向け振るわれなんの抵抗もなく両断される。
目的を達成した、大我は後ろにとびのき距離をとり肩で息をしている。
体力がほんとうに限界だ。
(な⋯⋯⋯⋯なんとか、目的達成した⋯⋯⋯⋯これで撤退してくれたらいいんだけど⋯⋯⋯⋯)
ゼェゼェと、大我の息だけがその場に響いてる空間でディズエムは自身に傷がまったくなく己の鎌が真っ二つに両断されていることに気づくと眼を丸くし固まっていた。
「え⋯⋯⋯⋯うぇ⋯⋯⋯⋯」
怒り狂って、襲って来るかと思い大我は身構える。
が――――
「うぇええええん! 誕生日に貰った鎌がぁあああ!」
急にボロボロと涙を流し、泣き喚き始めた姿に大我は臨戦態勢を解こうとするとマナの声が脳内に響き渡る。
『マスター、油断してはいけません。さきほどの攻撃もまともに受けるなど正気の沙汰ではなありませんよ! 本来なら溶断されておかしくない熱量と魔力、斬撃でした! 少なからず左肩にダメージを負っています!』
(す、すまない。あれしか思いつかなくて。結構やばい攻撃だったんだな)
『相手は明らかにSランク相当のステータス保持者と攻撃スキル保持者でしょう。マスターの神核石への願望が顕現されている状態であればなんとかしのげますが、精神が不安定になり神核石への願望が供給されなくなれば防御の数値も低くなり危険です。魔力やMPが0でも光属性や闇属性の力が使えるのも神核石を通して魔力などに変換されています』
(心が折れれば、すぐやられるってことか)
『是、少しでも心を強く持ってください。そうすれば、数値以上の力も神核石により発揮出来ます』
マナと会話してる最中もディズエムは、えんえんと泣き続ける。
「すっごい、おねだりして貰ったアダマンタイト製の鎌だったのにぃぃいい」
ついには鎌を抱きしめうずくまり泣き始める始末に、いい年したオッサンが少女を号泣させているということに罪悪感を感じ始める。
「おい、タイガ。さすがになにかフォローしないといけないんじゃないか⋯⋯⋯⋯?」
Sクラス同士の戦いに目を奪われ放心していたエリシアだが、さすがに魔族といえど可哀想になってきたのか大我に声をかけた。
「う⋯⋯⋯⋯たしかに⋯⋯⋯⋯そうなんだろうけど⋯⋯⋯⋯」
エリシアにも促され、ディズエムに近づきなんとか宥めようとどんな言葉であれば泣き止むのか悩みながらも声をかけ始める。
「いや⋯⋯⋯⋯あの、ごめん。ディズエムだっけ?君の攻撃があまりにもすごくてさ、さばききれなくてどうしようもなくてさ。それで武器破壊するしかないと思って⋯⋯⋯⋯」
まったく効果のない慰めにもなってない言葉に泣き続けるディズエム。
呆れてこの場は、なんとかわたしが収めようとエリシアが大我とディズエムのほうへ歩きだそうと足を進めようとする。
「タイガ、そんな言葉じゃ慰めになっていない⋯⋯⋯⋯」
急に足がもつれ地面が目の前に来たときエリシアは自分が地に伏せていると認識すると、急に体に激痛が走ってくる。
「エリシア!?」
大我が、そう叫ぶとディズエムがなにか攻撃をしかけているのかと思いディズエムに視線を移すとディズエムもエリシア同様に苦しんでいた。
「マナ! これはなんだ!?」
『辺りに毒霧がまかれています! 前方に魔物の反応⋯⋯⋯⋯バジリスクです!』
マナがそういうと、同時に森の茂みから体長200m超えようかという巨大な大蛇が口から紫の煙を吐きながら這い出してきた。
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