第13話 ヒーロー異世界にてクラスが介護職員になる ③
エリシアはマナと大我を連れ街道に出る。街の各所には日が街灯が立っており暮れ始めたせいか灯りが灯り始めている。
マナが言うには魔法を込めた魔石を燃料に使われてるそうだ。
例えば風呂も水属性と火属性の魔石使い沸かすのだが一般庶民にも出回ってるそうで、マナがいつか言っていた大我の世界もファンタジーと言った言葉が良く分かる。
よくある異世界の中世の様相を呈してはいたが意外と生活水準が高いのは科学の代わりに魔法が生活の基盤を支えているのだろう。
エリシアと大我、マナは先ほどの介護施設で院長に無事引き継ぎを終え外出願いを許可してもらい冒険者ギルドへと向かっていた。
そこで、ふとエリシアは率直に思った疑問を大我にぶつけた。
「ところで、何故あの時のオーク戦のようにフルプレートの鎧姿ではないのだ?」
「エリシアさん、マスターはいつでもあの姿に変身出来ますよ」
「あの格好じゃ、目立つと思って⋯⋯⋯⋯なにせ、お姫さまに無礼を働いたからね⋯⋯⋯⋯お尋ねものにでもなってるのじゃないかと思って⋯⋯⋯⋯」
大我は、申し訳ないという思いから小さくなって答える。
「へんしん?とりあえず、あの姿にすぐなれるんだな?」
エリシアは足を止め、人気がない場所がないかあたりを見渡し丁度薄暗い路地裏を見つけ大我の腕をひっぱり暗がりに連れ込んでいった。
「神核石の力を使っての姿なのだろうから、人にあまり見られたくないだろう?ここでその姿になってくれ」
(え?こんな人の目の前で、変身するの?)
「ちょ、ちょっと待ってエリシアさん、いきなりそんなこと言われても⋯⋯⋯⋯」
「タイガ、気になっていたんだがわたしとそんなに歳は変わらんのだろう?敬語も気も使わなくていい。気を使うとなればわたしのほうだ。調停者という伝説の存在にはな」
「⋯⋯⋯⋯いや、35歳なので、エリシアさんのほうが圧倒的に若いかと⋯⋯⋯⋯」
その言葉にエリシアは、表情を崩さなかったので驚きはしなかったのだろうと大我は思ったが――
「タイガさん、早くへんしんとやらをお願いします」
急に敬語になるエリシアに、自分がオッサンだと突きつけられる。
「やめてっ!急に敬語とか、ほんとにへこむから、変身どころじゃないから!」
涙目になって、エリシアの両肩に手を乗せ身体を揺するがエリシアは無表情のままで、それがなんともいたたまれない気持ちに大我はなった。
しばらくすると、エリシアはため息を吐きながら大我の手を肩から払った。
「では、タイガ。さっさとへんしんとやらをしろ」
大我は観念して、あのワードを口にする。
35歳になって変身ヒーローの変身姿を見せるなど、なんという羞恥プレイだ。
「ちぇ、チェンジ、トラファイターX3!」
『Change Try Fighter Ver.x3』
バックルから、電子音声が流れる。
その言葉と共にマナがバックルに粒子となって吸い込まれバックルから黒と金の帯が体にまとわりついていく。
一瞬で黒金の戦士がその場にいることにもびっくりしたエリシアであったが、マナが急に大我のバックルに吸い込まれる現象のほうが衝撃強かったらしく叫びたい気持ちを抑え疑問を口にした。
「マ、マナは人じゃないのか⋯⋯⋯⋯?」
『是、わたしはマスターのサポートをするために生み出された女神エースティア様の分け身として神核石に付加された存在です』
「眷属神じゃないか!?」
たまらず、叫ぶエリシアだがすぐさまマナは否定する。
『否、わたしはあくまでマスターのサポート。神核石の補助的な役割を担うものです。神としての力はありません』
「聞きなれない言語も発していたが、神の祝詞かなにかか?」
『否、あれはわたしが発している言葉ではありません。マスターが神核石に望んだ願望のようです。なぜ、それが必要なのかは理解しておりませんが神核石への願望が顕現される時メッセージなどが流れますが珍しいケースだと認識しております』
エリシアが動揺している間に、さきほどの変身シーンの羞恥もやっと薄れたころにさらに傷口に塩塗りこんでくる二人に大我がなんとか流れを変えようと口を挟む。
「ま、まぁ、おれにとってマナはほんとに助かる存在だよ」
『ありがとうございます、マスター。これも神核石へわたしの身体を願ってくれたためサポート出来ることが多くなることが出来ました』
「神核石とは、ほんとすごい力を持つものだな⋯⋯⋯⋯男の欲望まで忠実に叶えるとは⋯⋯⋯⋯理想の女性の具現化⋯⋯⋯⋯恐ろしい力だ⋯⋯⋯⋯」
エリシアが冷めた目で大我を見ると大我はあわてて手を目の前で振り否定した。
「そんな、欲望なんてないよ!ただ、あの時は疲れ果てて服も脱げずに漠然と⋯⋯⋯⋯」
「まぁ、ド変態でもいいから行くぞ」
「まって!なんか、ド変態の認識のまま行くのは困るんだけど!」
▽▽▽
言い訳をする大我を、軽く流しながら冒険者ギルドの前に着いたエリシアは大我に向かい合い軽く打ち合わせをしておいたほうがいいかと考えた。
「タイガ、お前はこれからこの冒険者ギルドに初めて登録しに来た冒険者ということにするんだ。そうすれば、スキップ申請でゴブリン討伐を受けさせ必ず合格させる」
さきほどから、変態のレッテルを剥がそうと必死に言い訳を繰り返してきた大我であったがまるで一切聞いていなかったと言わんばかりのエリシアの一方的な言葉に言葉を詰まらせた。
「え?どうして、最初から?」
分からないのかと、エリシアは頭を掻きながら答える。
「タイガは、すでに有名だ。もう素顔で冒険者ギルドに入れん。なにせFランク試験を落とす希望者などどこを見てもいないからな」
冒険者ランクでのFは、まさにどんな存在でもなれる救済措置のようなランクであった。
それこそ子供でも登録できるような。
「そんな恥ずかしいことだったのか⋯⋯⋯⋯」
『マスター、すみません。わたしがもう少しサポート出来たら良かったのですが⋯⋯⋯⋯』
「そういえば、マナにも分からなかったのか?女神の分け身となれば全知でも不思議ではないのだが」
エリシアがバックルに向け声をかける。
『否、全知ではありません。しかし、薬草の知識はありました。ですが、その時のマスターはとても動ける状態ではなく⋯⋯⋯⋯わたしが薬草を採取できるほどマスターを放置しておける状態でもなかったのです⋯⋯⋯⋯』
「⋯⋯⋯⋯? よくわからんが、タイガ。Fランクに落ちたのは事実なのだろ? とにかく新しく登録に行くぞ」
大我とエリシアが、冒険者ギルドにはいると大我の異様な姿に他の冒険者が息を呑み空気がピンと張り詰めたようだった。
そんな空気をものともせずにエリシアに声を掛けるものがいる。
「エリシアさん!また、来てくださったんですね。探し人は見つかったんですか?」
「ああ、マーテル。彼が探し人だ、今日は彼の登録をお願いしに来た」
そう、エリシアが言うとマーテルは大我を下から頭までその異様な出で立ちを見つめ、見覚えのある手甲を見つけエリシアのほうへ視線を戻した。
「エリシアさん、その人タイガって人じゃないですよね?この前Fランク試験を落とした」
「ち、ちがうぞ!彼の名前は⋯⋯⋯⋯なんだっけ、トラなんたら⋯⋯⋯⋯」
「トラファイターX3だ」
「そうだ、トラファイターだ!彼の名前はトラファイターだ、決してタイガという人物ではない!」
ドンッ!
そう、エリシアが言うと大我はカウンターを拳で叩いていた。
「違う!トラファイターX3だ!」
思いのほか、強く叩いたのかカウンターが綺麗に拳の形に凹んでいた。
「す、すまない。名前を間違われるとつい⋯⋯⋯⋯」
エリシアとマーテルは、カウンターの惨状に目を丸くする。
木製とはいえ、ちょっとやそっとの衝撃には耐えられる素材だったのだが、どんな力をもってすればこんな綺麗な形に拳の形がつくのか。
「エリシアさん、ゴブリン討伐からの試験であれば誰でも始めることはできますが、その前に念のためステータス鑑定させてもらってもいいですか?正直、なにか犯罪めいたスキル持ってるか怪しいもので⋯⋯⋯⋯」
エリシアは、さきほどのステータスを見ているから問題ないと思い快諾した。さすがにカウンターを破壊するような短気な面があるとは思っていなかったので、最初にステータスを見てなければ渋ったかもしれないが。
「では、これが鑑定石でこれを握りこんでください」
「わ、わかった」
大我が鑑定石を握りこむと、またもや見慣れない文字が現れるが最初に見たステータス表示と明らかに違っていた。
―――――――――
トラファイターX3
種族 人族
クラス 介護職員
LV 8
HP 32/32
MP 0/0
力=9999
防御=9999
敏捷=6
体力=4
知力=3
魔力=0
運=6
魔法適正
闇Lv2
光Lv2
スキル
翻訳Lv10(あらゆる言語が理解可能となる、常時発動)
称号
介護する者Lv3(介護をしつづけた物に与えられる称号)
英雄を望む者Lv8(英雄に強い願望を持つ者に与えられる称号)
―――――――――
(なんだ、これ⋯⋯⋯⋯?)
大我はさきほど介護施設で見た数値とあまりにもかけ離れた数値に頭をかしげていたがエリシアとマーテルはそれ以上の衝撃があったのか口をパクパクさせ金魚状態になっている。
Cランク冒険者で平均500、Bランク冒険者で平均1000、Aランク冒険者で平均1500、そしてSランク冒険者で平均2000くらいのステータスの世界にとって力と防御の数値が異常であった。
もちろん、ステータスだけが勝敗を決めるのではなくそこにはスキルや称号などの力があわさり総合的な戦闘力を考慮してギルドでは判断している。
力と防御の数値も異常だが知力が低いのに、知力が高くないと習得できない翻訳のスキルがLv10でMAXまで上がりきっている。
知力が3など、はっきりいってゴブリンとそう変わらない。
魔力も魔法発動に必要なMPも0なのに相反する魔法適正である光属性と闇属性を覚えていて僅かであるがレベルもあがっている。
0であれば、魔法発動など出来ないにも関わらずどうやってレベルをあげたのか?
どこをどうみても歪そのもののステータスだ。
「エ、エリシアさん!なんですか、この方は!?歪ですがSランク冒険者と言ってもいいステータスですよ!?それに反発する属性を二つもっていたりなんですか!?」
エリシアも神核石を発動した変身状態がこれほどまでとは思わなかったのだろう。
ちょっと、考えればさきほどのステータスでオークキングなど倒せるわけがないと分かっていたのだが、まさかここまでおかしいステータスだとは思っていなかった。
「いや⋯⋯⋯⋯そこらへんは⋯⋯⋯⋯国の事情も絡んでだな⋯⋯⋯⋯うん⋯⋯⋯⋯国家機密というやつだ⋯⋯⋯⋯」
なんとか、冷静を保とうとするがなんとも拙い答えしか出てこない。
「と、とりあえず、危険なスキルは保持してなかっただろ?完全に夜になるまえにさくっとゴブリン討伐にいってくるぞ!」
これ以上はボロが出そうなのでなんとか勢いでごまかそうとエリシアは大我を連れ冒険者ギルドを
出ていった。
マーテルはポカンと口を開けたまま固まりエリシアたちの後ろ姿を見送るしかなかった。
そんなそばで、事の成り行きを見ていた冒険者たちが話しを始める。
「おい、さっきのやつのステータスみたか?」
「ああ、なんかとんでもないバケモノだったな」
「たしかに、とんでもない力と防御の数値、ゴブリン並みの知力だったが俺が言ってるのはクラスだよ」
「クラス?そこまで気にとめられなかったな。なんだ、そんなすごいクラスだったのか?」
「⋯⋯⋯⋯介護職員だった⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯史上最強の介護職員か⋯⋯⋯⋯」
冒険者たちが、信じられないといった顔で酒をあおりつづけてる場で、マーテルもやっと気を取り直しこれはギルド長に報告しなければと考えギルド長室に向かうのであった。
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