第11話 ヒーロー異世界にてクラスが介護職員になる ①
エリシアは、部下に命じ黒金の戦士の足取りを追うよう命じてから三日がたった。
どうやら、門に常駐している衛兵からはそれらしい目撃情報がなかったが何件かの店に立ち寄り宿を取ったようだ。
「フルプレートじゃなかったけどね、黒髪で黒金色した手甲とかつけてた二人連れなら泊まっていたよ」
宿屋の女将がそういうと、エリシアはそれが怪しいと思ったが自分が持っている情報との相違点も出てきた。
まず、フルプレートじゃないのは防具屋で着替えたという情報があったが二人連れというのは新しい情報であった。
二人は路銀が尽きたらしく、冒険者ギルドに行くと行ったきり戻っては来ていないらしい。
とにかく、もっとも怪しい情報であったため冒険者ギルドにエリシアは足を向けることにした。
▽▽▽
冒険者ギルドの扉が見える、懐かしい郷愁の思いなどがこみ上げてくるが今は任務で来ているのだと思いを押し込め扉をあけると、見慣れた受付嬢がすぐに声をかけてきた。
「あれ、エリシアさんじゃないですか?」
「ああ、マーテル久しぶりだな」
「久しぶりなんてものじゃないですよ、3年もギルドに足を運んでくれなくて寂しかったんですよ?なにせ、我が国の最高冒険者なのですから」
「よしてくれ⋯⋯⋯⋯Bランク程度で持ち上げられると恥ずかしい限りだ⋯⋯⋯⋯」
先日のオークとの一件で自分の無力さを更に痛感しているエリシアの言葉は謙遜のものではなかったのだが、マーテルには謙遜に聞こえたのだろう。
絶えず笑顔で話しかけてくるので、エリシアは要件をさっさと済まそうと本題を切り出した。
「マーテル、ここ2,3日の間に新しく冒険者登録をした者はいなかったか?実力は相当なものだと思うからDランクくらいから始めてるものだとおもうのだが?」
「いえ、そんな新人はいませんよ」
マーテルは天然なのか人差し指を自分のほっぺに当て視点を上に向け考えるそぶりをする。
マーテルの仕草は変わらずだ。これで他の男性冒険者は心を奪われているのだから未だ独り身のエリシアは堪らないでいた。そんな思いのなかマーテルは言葉を続ける。
「ただ、ある意味すごい新人というか希望者がいましたね」
「⋯⋯⋯⋯どんな風にすごかったんだ?」
「まず、模擬戦闘でボロ負けしたんですがそこまではよくある話しで、その後食い下がってきてゴブリン退治の試験に行ったんですよ。なんとしてでも、ギルド登録したかったみたいですね。必死でしたよ」
冒険者ギルドのゴブリン退治、まず冒険者ギルドではDランク冒険者相当のギルド職員と模擬戦闘をしそこで勝てるようならEランク冒険者として登録される。
自信があったりギルド職員実力ありと認めるものであればゴブリンを一匹狩ってきて討伐の証である耳を剥ぎ取ってくればDランク冒険者として登録される。
ゴブリンは、人族の子供より少し大きいくらいの体格でここら辺ではよく単独で行動していることから戦闘力は大したものではない。
試験にはもってこいの魔物である。
魔物と闘うことがままある冒険者には入門用の魔物とも言えるだろう。
「で、そのゴブリン退治もまったくできなかったみたいなんですよね。なんか血まみれでゲロくさかったのでよく覚えてますよ」
マーテルはまったく、迷惑な奴だったとほほを膨らませる。
「最後にFランク冒険者登録として出来るように薬草採取の試験を与えたんですよ」
「⋯⋯⋯⋯それで?」
「薬草の採取すら出来ず帰ってきたんですよ。ギルド始まって以来の冒険者試験落第者ですよ」
オーバーに手のひらを上に向け顔を降るマーテルにエリシアは、混乱していた。
「ちょ、ちょっと待てということは冒険者登録も出来なかったということはステータス鑑定もせず今の居場所も分からないということか?」
「はい、ステータス鑑定は基本冒険者登録されてからのものですから、していませんね。行き先も分かりません。なにやら世界の終わりのような顔をして出て行かれましたが」
オークキングを簡単に屠る力を持ってるものがゴブリン討伐も出来ず、市井の子供すらしっている薬草すらもってこないとは、あの黒金の戦士と同一だとは考えにくい
考え難いが⋯⋯⋯⋯
「マーテル、その者の名前は聞いていないか?もしくは装備に黒金色をしたものを身にまとっていたとか?」
「えーと、タイガとか名乗っていましたね。お連れの女性はマナとお呼びだだったと思いますが⋯⋯⋯⋯あ、手甲が黒金だったと思います」
どうやら、信じがたい事に冒険者ギルド始まって以来の落第者があの黒金の戦士で間違いないらしい。
「エリシアさんが気に止めるような存在なんですか?ステータスは見ませんでしたけど、すごく弱そうでしたし」
マーテルがなにやら、いろいろと話しかけているようだが足取りが途絶えたことに混乱しているせいか頭にはいらず、エリシアは生返事をし冒険者ギルドを出ていった。
実力があるのか無いのか?
分からない。
これでは見つけたとしてもローゼレッタ様の希望に沿うものになりえるのか?
そもそも、宿の賃金もなく金策をあてにしていた冒険者ギルドもダメになったものをどう探せというのか⋯⋯⋯⋯
すでに国外に出たのであろうか
あれほどの力があればどこかで犯罪めいたことに手を染めてでも糊口を凌いでいるのではないか
いろいろとありとあらゆる考えを巡らせながら歩いていると、一際バカでかい声が一件の建物から聞こてくる。
「マルクスおじいちゃんそれまだ食べちゃダメでしょ!マナは、そろそろアルベルトおじいちゃんを動かしてあげて床ずれおこしちゃうから!」
マナ⋯⋯⋯⋯?
マナとは、さきほどマーテルの言葉に出てきた名前ではなかろうか。
おそるおそると、声のする建物の壁をよじ登り建物の中を覗き見るを黒金の手甲した男性がかいがいしく老人たちに食事介助やら床ずれ防止の指示やらだして働いている姿が見えた。
「居たーーーーーっ!」
思わずエリシアは指をさしながら叫んでしまい、その声に大我も気づきエリシアを見るとあの時の貰いゲロをさせてしまった綺麗な騎士だと気づき指をエリシアに差し向けながら大我も叫ぶ。
「あのときの!」
大我は叫んだあとにやってしまったと思ったが、もう後の祭りである。
どうやって追求を交わせばいいのかと考えを巡らせていたが、老人への食事の介護の手だけは止まらずにいた。
読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
※ギルド職員との会話を修正しました




