第10話 二つの城にて ②
黒く大きな二本の角を頭部携え夜を称えるような漆黒な髪、豪華なローブを身にまとった男が椅子にもたれかかってる。
(そろそろ、魔物どころか魔族すらも制御できなくなってきたか⋯⋯⋯⋯)
アゼルガ王国より踏破不能とよばれる山脈よりさらに西に位置する魔族の国、そして魔王が座する魔王城にて、誰に話しかけるわけでもなく魔王は呟いた。
自分が決めた道であり、完遂までもう少しでというところでいろいろ計画にほつれが生じている。
何度修正しようと試みたが、強制力が働くのかほつれはどんどん大きくなっていく。
それでも、なんとかというところまで状況を持ってきたがいささか度がすぎてきてしまった。
―――やりすぎだ。
このままでは、人類そのものが滅亡してしまう。
すでに戦争が始まり虐殺が行われている場所もある。
このままでは、大戦へと発展するだろう。
そして、必ずあの悪魔のような出来事が再現されるのだ。
それだけは、避けなくてはならない。しかし、もはや魔王の力のほとんどは魔物の統制に力を入れており余剰の力は残っていなかった。
本来、魔物は世界の歪みから勝手に現れ増え勝手に人々を襲う動物のようなものである。
ゴブリンやオーク、トロール、リザードマンのような人型といっても文化があるわけでもない。
魔族と呼ばれはするが、魔族はもともと有角族という人種であり、人類の一つとして数えられていた。
故に、魔族と魔物には密接な関係というものがなかった。
魔族も魔物にとっては捕食対象にすぎないのだ――――
この先、魔物を率いて人類を打倒してしまえば魔物の次の標的は魔族だ。
今は、魔王が魔物の矛先を能力で他の人類に向けているにすぎず、その力も有限だ。
姿こそ、往年の男の姿をしているが寿命が迫っていた。
なんとか、寿命が尽きる前にこの世界をなんとかしなくてはと思い行動してきたが
すべてが裏目に出てるようで暗澹たる思いで瞑目していると、ギィッという音ともに扉が開かれる。
「魔王さま、申し訳ありません任務は失敗しました」
オーク襲撃後に大我の元に現れた老執事であった。
「セルバンテスか⋯⋯⋯⋯よい、今となっては人類同盟軍は結成してもらわなくては人類そのものが滅んでしまう」
ローゼレッタをグラム帝国に向かわせその帰り道にオークによる襲撃を用い帝国からの暗殺疑惑をもたせ人類同盟を阻もうと画策したが今となっては失敗してよかった。
他にもいくつか、人類同盟結成の計画を阻もうと画策し実行に移したがすべて失敗に終わった。
これも、世界の強制力なのかとそっとため息を魔王は吐く。
もはや策は自分の手を離れ暴走を起こし魔物たちは数十万という大群を率いて今か今かと人類を虎視眈々と狙い、大戦に向け備えていた。
「問題は、数十万の魔物を撃退出来る力を持つ者たちが人類軍にいるかどうか⋯⋯⋯⋯Sランク冒険者が数名いる程度では数の暴力には勝てはしまい⋯⋯⋯⋯」
魔王は、深く息を吐く
諦めと後悔の気持ちを少しでも吐き出したいという思いと共に―――
「そのことですが、魔王さま。調停者を確認できました」
老執事セルバンテスの言葉に魔王は目を見開く。そして、またゆっくりと目を閉じ瞑目を始める。
「そうか⋯⋯⋯⋯やっとか⋯⋯⋯⋯」
長かった―――
抗いに抗いを続けた結果、やっと最後のピースの欠片を手に入れたかのような思いで魔王は息を吐いた。
ふと、血の臭いがすると感じセルバンテスの右腕をみると血まみれになっているのに気づく。
魔王の視線に気づいたのかセルバンテスが口を開く。
「ああ、これですか。相手の実力と鑑定スキルをより正確に実行するために相手に触れようと拳をぶつけ合いました」
そうセルバンテスは、言うと粉々に骨が砕けた右こぶしを魔王に見せた。
「恐ろしい力です。オークどもの戦闘を見る限りまったくの戦闘の素人でしたが、わたくしの身体強化された拳をなんの魔法属性もこめず、かつ本気ではない合わせただけの拳でわたしの拳はくだけました」
そうセルバンテスは笑いながら魔王に少し楽しげに話した。
「読み取れたスキルはまだ称号の調停者のみでしたがこれなら魔王さまの願いも叶えられるのではないでしょうか?」
魔族のなかでも、魔王の真意を理解している数少ないセルバンテスは魔王にそう告げた。
他の魔族は、単に人類制圧ということを盲信している。はるか昔に有翼人という背中に白い翼が生えた人類との戦争により、なぜか見た目だけで邪悪な存在として他の人類に認識されてしまった。
魔族も翼があったが漆黒のコウモリのような翼という見た目と頭部の角により、有翼人は後に天使族とよばれるが、その有翼人を滅ぼした魔族はより強大な力をもつ邪悪な種族と認識され迫害を受け徐々にその数を減らされていった。
そのような背景があり長命な魔族は、他の人類を恨んでいる物は少なくない。
魔王はあえて、その想いを利用しことを動かしてきた。
(我は凡人だ⋯⋯⋯⋯凡人だが、諦めるわけにはいかぬ⋯⋯⋯⋯)
「戦闘は素人と言ったな?魔物数十万を相手にするには、まだまだ力が足りないな⋯⋯⋯⋯」
「左様です。しかし、彼のものは調停者こちらから刺客をあてがえば自ずとその力は増していくのではないでしょうか?」
「ふむ⋯⋯⋯⋯と、なると誰が適任か⋯⋯⋯⋯」
殺してはいけず、そこそこの戦闘力を持ち周りの人類軍をも被害を与えないような存在―
魔王とセルバンテスが逡巡していると、またもやバンッ!と勢いよく扉が開かれた。
「話しは聞いたわ!とうさま!」
勢いよく開かれた扉には、魔王をとうさまと呼び、魔王と同じ漆黒の髪に二本の漆黒の角を持つビキニアーアーマーと呼ばれる露出度の高い鎧を着用した、どうみても14,5歳にしか見えない少女が立っていた。
「とうさま!その調停者というのをやっつけてくればいいのよね!わたしがやっつけてくるわ!」
魔王の頭痛の種が増える。どこから聞いていれば倒すということになる会話だったのだろうか?
どんどん勝手に話を進める魔王の娘ディズエムは言葉を続ける。
「セルバンテス、その調停者とやらの特徴を教えなさい!」
ビシっと人差し指をセルバンテスに突きつけ、答えを急かす。
「はい、お嬢様。調停者は黒金色のフルプレート、あとは赤いマフラーをしておりました」
「それだけあれば、情報としては充分ね。アゼルガ王国にいってくる!もちろん、隠密スキルは使っていくから大丈夫よ!それじゃ! 」
「ま、まちなさい!ディズィー!」
魔王がなんとかディズエムを制止させようと声をかけるが、すでにその場にディズエムの姿はなくなっていた。
猪突猛進、魔族として力は強いが思慮が浅いため先ほどの会話をどのように理解していたのか疑問に想い悩んでいる言葉にセルバンテスは声をかける。
「魔王さま、大丈夫ですよ。ディズエム様はお強いです」
それはそうだ、魔王自身が鍛え武芸も魔法もSランク冒険者に匹敵するだろう。
だが、相手は調停者どのような形で力が発揮されるか分からない、万が一ということもありえると魔王は考えるが、セルバンテスは言葉を続ける。
「それに、あの調停者はどうやら殺生をひどく拒絶するようです。明らかにわたくしめを魔族と認識していましたが、とっさとはいえ手加減してきました」
「手加減?戦闘経験が素人なのだろう?あわてて力を発揮できなかったのではないのか?」
「確かにそうかもしれませんが、彼の調停者はオークを倒した無数の屍を前に嘔吐しておりました。明らかに殺すということに戸惑いがあるものです」
嘔吐するほど、戦闘経験がないということか?
逆にディズエムに殺されないか心配になってくる魔王であった。
「念のため、もう1人調停者に部下をつけておけ、どちらも死なせぬようにとな」
「かしこまりました」
セルバンテスは、そう言葉を発しすぐに適任の部下は誰か思考しながら、魔王の居る執務室から退室していった。
誰もいなくなった空間。
魔王が久しぶりに自分が勝手に笑みがこぼれるほど気分が高揚していることに気づいた。
「やっとだ⋯⋯⋯⋯調停者の力をもってすれば水面の歪みを止めることが出来るやもしれん⋯⋯⋯⋯」
そっと、誰に語りかけるわけでもない魔王の言葉は静寂の間にそっと消えていった。
10話目です、見て下さりありがとうございますm(_ _)m
ニチアサタイムに刺激され、そろそろヒーローの戦闘書きたいです。




