第三十八話 手掛
ストックが尽きましたので、次回から不定期に連載いたします
絶滅教団員オリー。
アミックと並んで、雄一にとって最大の敵の一人。
かつてフランの一刀に伏し、自身を刺殺した張本人。
そのような人間が、堂々と街のど真ん中で、店を構えているという異常事態。
それも、本屋というのは偽装らしく、デックス曰く情報屋。しかもよりによって絶滅教団の情報を聞きに来たのだ。
そりゃ知っているだろうさ。と、雄一は歯を食いしばる。
「オリー、てめぇ…………」
思わず叫びそうになった声を、なんとか寸前で押しとどめた。
――落ち着け。ここで押さえつけたところで、まだアミックたちの居場所が割れてない。
ここで暴れ、オリーを倒すことは、おそらく難しくないだろう。一度戦った身として、雄一は自分とオリーの実力差を理解していた。
しかし、本命は別だ。アミックを倒すこと。そして惨劇を防ぐことが最大目標。
怒りに湧き上がる脳味噌を、そんな理由で押さえつけて雄一はぐっと感情を押し込めた。
「オリー? 誰かと見間違えたのかね?」
「……は?」
「ユーイチ、この方はこの店の店主。我々憲兵隊に情報をくれている協力者で、スワザン・カンパーリ氏だ」
名を紹介されて、雄一は頭をかしげた。
偽りの名前を表に出すこと自体は当然であろう。しかし、問題はスワザンと呼ばれた人物の表情だった。
雄一と同じく首を傾げ、眉を少し上げたその表情は、偽りの物ではない。本当に、オリーと言う名前に心当たりが無いというものであった。
そこまで確信を持って表情を読み取れたのには理由がある。
なぜならば、その表情は何度か見た、ルティアスが浮かべた表情と同じものだったからだ。
――二重人格? いや、確かオリーは……
思い出したのはオリーの『ポゼッション』と呼ばれるギフト。
噛み付いた相手の精神を乗っ取るというものであり、前回のループで雄一を刺した際は、ダイクリッドの体に乗り移っていた。
だとすれば、スワザンの表情にも納得がいく。彼はまだ、オリーの能力によって乗っ取られる前の人格なのだ。
ひとまず、この場で争いが起こることはないだろう。雄一は少し体の緊張を解いた。
「いや、悪い。気にしないでくれ。やっぱり人違いみたいだ」
「そうか? ああ、すみませんカンパーリさん。絶滅教団についての新しい情報は入っていませんか?」
「教団についてかね? いや残念ながら、大した追加情報はないが…………君かね? 教団について知りたいのは」
雄一に視線をやってスワザンは尋ねた。
「はい。訳は話せないんですけど、教団の居場所について調べてまして……」
「居場所……か。知っていればすぐにでもデックス君に情報を売りに行くんだがね。今のところそういう情報も無いな」
「そう……ですか」
やはり、そう簡単に行くものではない。
場所さえつかめれば先手が打てる。もちろん、つかめればの話である。
現実はそうそう都合良くは行かない。街の情報屋でさえ居場所がわかっていないとなれば、今現在において、その知識を有する人間はいないのかもしれない。
――やっぱり、最終日に迎え撃つしか手はないってことなのか……
雄一はそんなふうに考えて、その考えを振り払うように頭を振った。
例え打つ手がそれしか無いにせよ、まだ最終日までは時間がある。ならば、少しでも事が優位に運ぶように動かなくてはならない。
受け身になってしまえば、情報が足りない雄一側が圧倒的に不利なのだ。ループという最大の武器をむざむざ捨ててしまうことは無いだろう。
それに、オリーが次に乗り移る人間を確認できたことは大きい。
雄一が確認した絶滅教団と接触できるポイント。三日目の惨劇が起きる前、教会跡に行けば事前に接触はできる。
しかし、スワザンの存在を知った今、それよりも先にオリーがスワザンの元へ訪れることは間違いない。
つまり、彼の動向を追っていけば、最終日よりも早く絶滅教団にたどり着くことができるかもしれないのだ。
「ふむ……なぜ君が教団について知りたいのかは分からないがね、良ければ明日もここに来るといい。情報とは刻一刻と変わるもの。もしかしたら、明日には新しい情報が入ってるかもしれないよ」
そう言ってスワザンは微笑んだ。
願ってもない申し出だが、どうにも、雄一にはその姿に違和感を覚える。彼が知っているスワザン――オリーは、このように笑う輩ではないからだ。
おかしな違和感に苦笑いを浮かべると、スワザンは最後に、人差し指と親指を使って輪っかを作り、
「もちろん、次はお金を持ってきてほしいがね」
「…………な、なんとかします」
* *
「という訳で、お小遣いを下さい」
「何がという訳なのだ、意味がわからん」
初日の情報収集を終え、時刻は真夜中。
雄一は面会ができる時間だと聞いて、シルフィの部屋へと押しかけていた。
ベットの上に本を山と積んでおり、その中央に座るシルフィは、押しかけた雄一に怪訝な目つきで睨みつけていた。
彼女からすれば、起きてたとは言え深夜に同年代の男が押しかけてきたのだから無理はない。
「そもそも、絶滅教団について調べていたのは、帰る方法をギフトに見出したからだろう? それがなぜ、情報屋に教団の居場所を聞く必要がある。専門家はどうした」
「いやぁ、なんか思ってたのと違っててさ。もうちょっと別の視点から調べてみようかと。まあついでに街の治安維持だな。一石二鳥!」
「いや、そのあたりは衛兵に任せておけよ……まあ、何もしていないよりはマシな時間の使い方か……ルティアス!」
シルフィが名を呼ぶと、扉がガチャリと開いて、外で待機していたルティアスが入室した。
一礼してから手招きするシルフィの元へと近づくと、耳打ちをしてから雄一を正面に見る。
「という訳で、明日は私がついていくことになりました」
「何がという訳なんだ。意味分かんないんだけど」
「お金の管理は私がするということです。目的がズレないように、監視する任務も承りました」
若干ため息を含んだニュアンスであった。
「え、えーっと……嫌ならついてこなくても良いぜ? 俺なら一人で街に……」
「駄目だ。一応アエル先生の護符はついているようだが、監視は必ずつける。安全のためだ、我慢しろ」
「それに私のことなら心配しなくても結構よユーイチ君。なにせ今日一日は、ユーイチ君が出かけていたお陰で凄く暇でゆっくり休めたもの」
「そう言う心配をしてるんじゃないんだけどなぁ……」
雄一としては、ルティアスには動き回らずにゆっくりしてもらいたいという気持ちがある。下手に雄一に関わっているよりも、そちらのほうがよほど安全なのだ。
しかし、目の前の二人は不機嫌である。
一方は夜中に私室に男が押しかけてきたことが原因。
一方は自分に仕事をさせまいとする、目の前の男への不満が原因。
とてもではないが、今の雄一に言い返せる雰囲気ではなかった。
「ま、まあちゃんと見張ってれば大丈夫か……」
街でアミックに襲われた時と違い、今はベットの上ではなく自由に動ける。
油断さえしなければ、決して勝てない連中ではないのだ。ルティアスを守ることだって、不可能ではない。
――考え方を変えれば、ルティアスがそばに居る限り、教団の方から勝手に寄ってくるから…………っと、これは流石に不謹慎か。
一瞬、効率のことだけを考えて、ルティアスを囮として見てしまったことを反省。
雄一は、自分自身に関してならどれだけ傷つこうが、手段を選ぶつもりはない。しかし、守るべき人々を、守るためとは言え利用するのは、何かが違うと考える。
そんなヒューマニズムを持ちながら戦う状況ではないのだろうが、雄一にとっては、それが最後の一線であるのだ。




