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第三十話 怪腕




「せあっ!」

「うぎゃっ!?」


水しぶきから出現したアミックの腕を切り裂いた。中指と薬指の間から抜けるように、出現した腕は二つへと分裂。血しぶきが雄一の顔へと吹き出した。

苦痛の声がアミック本人から放たれたが、すぐにそれは笑い声へと変化した。


「ふ……ははははっ! 本当に素晴らしい! お強い貴方はどれほど神を喜ばせれば気が済むのでしょうか!」


腕が伸びたはずみで、地面へと転がった雄一とルティアス。

水しぶきも同じく地面へと落下して水たまりを作り、更にそこから複数の腕が彼らへと伸びる。

ルティアスの体を引き寄せて一突き。間一髪掴みかかる腕から逃れて一裂き。

なんとも器用に立ち回る雄一を、度々苦痛の声を発しながら、アミックは嬉しそうに眺めていた。

しかし、そのような動きが続くわけもなく、アミックの腕はとうとうルティアスの脚、素肌部分を鷲掴みにした。


「ぐっ……ぬあぁっ!」


間髪入れずにその腕を切り裂くと、ルティアスの顔を見た。


「ルティアス! 平気か!?」

「え、ええ……なんともないけど」


触られたと言うのに、大丈夫というのはどういうことか。

雄一は、血を吹き出しながら地面に転がる複数の腕を見た。もはや動くことのなくなったそれらには、何故か一様に手袋がはめられているようだった。

次いでアミックを見てみると、転がる腕と同じように、アミックも手袋をはめているようだ。

溶けるようにして消滅した腕に視線を移し、雄一の顔は熱くなった。


――――あの野郎……遊んでやがる!


本気で殺しにかかるのであれば、先程の一撃で終わりだ。そもそも、手数が圧倒的に違うのだから、無理して攻めずに少しずつ体に掴みかかれば、負けるのは確実に雄一の方だろう。

ならば、アミックがやっていることは一つ。雄一とルティアスをなぶって遊んでいるのである。

教団の在り方そのものを体現したような存在。それがアミックなのである。

だが、人を殺すという行為に、楽しいことなどありはしない。間接的に雄一が殺したことになる、オリーとシドに関しても、雄一の気分は最悪だった。

怒りに身を任せたとは言え、最終的に訪れたのは虚しさであり悲しさであり、後悔の念だった。

殺人集団を返り討ちにしただけ。正当防衛とも言えるその行為でさえ、雄一の気分は晴れなかったのだ。

雄一は歯を食いしばりながら、


「ふざけんなよてめぇ!」

「ふざけてなどおりません! ワタクシは使命を真剣に果たしているだけでありますから! 神が与えられし使命に喜びを覚えることが悪いことだとも思いません!」


こいつとは絶対に分かり合えない。理解も出来ない。雄一は重ねて確信を持ってアミックを睨みつける。


床に落ちていた兵士の剣を拾い上げ、すかさずアミックへと全力で投げた。

剣は直線的に飛んでゆき、アミックの左手へと突き刺さる。

しかし、アミックは一切怯みもせずに、残った右手を雄一へとかざした。


雄一の背後から、水が爆発するような音が聞こえた。振り向いてみると、噴水からとてつもなく大きいアミックの腕が出現していた。


「なん……っ!?」


言葉を発し切る前に、雄一はルティアスを抱えて飛び退いた。

アミックの巨大な腕は地面へと吸い込まれ、石畳を砕いて破片を辺りへと撒き散らした。大きさに見合うその威力は、まともに食らっていればひとたまりもないだろう。

破片とともに土埃が撒き散らされて、辺り一面へと広がった。


「む……ちょっとやりすぎてしまいましたか」


口をマントで覆い、土埃を吸い込まないように体をひねる。

土埃が目に入ったことも相まって、アミックは雄一たちを見失っていた。



「アミック様……遊びすぎ……」

「おやミリーさん! お仕事は終わったということなのでしょうか! そして遊びというのも大切なことなのですよ!? 大いに遊んで大いに生きて、大いに死んでゆくのが神への供物なのですから! ん!? そうなると、先程彼に言った「ふざけていない」と言う言葉が嘘になってしまう! 殺す前に嘘をついてしまうとは、何と言う酷いことを! ワタクシとしたことが!」



背後から現れたミリーの言葉に、後悔の念を吐きながら腕から生える剣を引き抜くと、髪の毛をガシガシと掻きむしった。

そんな様子を、雄一とルティアスは廊下の影から観察していた。

先程の巨大な腕の一撃を、ギリギリの所で躱すことに成功し、廊下へと逃れて隠れていたのだ。

どうやらアミックは雄一達が今の一撃で死んでしまったと思っているらしい。そうでなくとも、見失っていることは確実だ。

雄一は声を殺しながら、


「とりあえず、このまま隠れておいたほうが良さそうだな。ルティアス、安全な場所はあるか?」

「多分、王族が暮らす区画なら厳重に警備が……ゆ、ユーイチ君! 額から血が……」


ルティアスに指摘され、ようやく自分の額から血が吹き出ていることに気がついた。

拭っても拭っても滴り落ちる血に、キリがないと諦める雄一。ルティアスは呆れつつ、自分のハンカチを雄一の額に巻いて止血した。


「悪いけど、ルティアスは先に行ってくれ。アミックとミリーがここに居るなら、一人で逃げても大丈夫だから」

「え……ユーイチ君は来ないの?」

「このままあいつらを放置するわけには行かないからな」


静止しようとするルティアスを他所に、雄一は直ぐに行動に移った。

移動し始めたアミックたちに見つからないように姿勢を低くして、物陰に隠れながら後を追う。


――ミリーがここに居るってことは、城門前に向かったダイクリッドは……


シドを一蹴したダイクリッドが、そう簡単にやられるとは思えない。しかし、現にミリーがアミックと合流したということは、彼の身に何かが起きたのは違いないだろう。

おまけに、連れ去られたルトゥカも一緒にいないようだ。

しかし、今彼らを探しに行く手立てがない。何より、アミックとミリーを放置していては、コレ以上の惨劇が必ず起きてしまうのだ。


「今は後をつけるしか無いか……」


二人はどうやら、目的地である塔へと向かっているようだった。

しかし、後をつける中、雄一はおかしなことに気がついた。絶滅教団の二人が堂々と城の中を闊歩する。それは、普通に考えるとありえないことである。

城門前の防衛線が破られたとしても、城の中にはまだまだ兵士は居るはずだ。彼らが迎撃をしないとは考えられない。

廊下で息絶えていた人たちでさえも、城の人間の数からすれば微々たるものと言えるだろう。

流石に、アミックをひきつけた状態で、ミリー単独で兵士を全滅させられるとも思えないのだ。


鐘のある塔の入り口に、アミック達がたどり着いたようだ。

ルティアスが避難するまで、二人を見張っているつもりだった雄一のタイムリミットがやって来た。

何を起こすにせよ、間違いなくろくな事ではない。二人を塔に昇らせるわけには行かないのだ。

徒歩で移動したため、ルティアスが避難する時間は稼いだ。おまけに、塔の入口近くにはガラスも鏡も、噴水もない。アミックと戦うならば、これ以上有利な場所はないだろう。

雄一は意を決して、二人の前に躍り出た。


「おいお前ら!」

「オウッ!? なんと! 生きておいでだったのでしょうか!」

「何をしたいのか分かんねぇけどよ……いい加減ここで終わらせるぞ! 絶滅教団!」


勇ましく啖呵を切った雄一に、嬉しそうに笑うアミックだったが、もう片方のミリーは、やや煩わしそうに雄一を睨みつけていた。

そしてゆらりと体を揺らしたかと思うと、地面を蹴って雄一へと立ち向かう。

マントの下から出現したダガーナイフが雄一の首元へと襲いかかった。


「……っ!」


兵士の剣でコレを防ぐと、鍔迫り合いに持ち込んだ。ミリーは顔を近づけると、眉をひそめながら、


「…………しつこい」

「悪いな! こちとら諦めの悪さだけが取り柄なもんで!」


ミリーは、鍛え上げた雄一よりも遥かに非力であった。

鍔迫り合いはすぐに雄一に弾かれて、ミリーに向かって剣を横に薙ぐ。

辛くもコレを躱したミリーは、軽い身のこなしで空中へ飛び上がり、一回転してから着地した。

ダガーはへし折れ、仕えないと見るとすぐに地面へと捨てる。


「安もん使ってんな。兵士さんの剣のほうが、よほど丈夫みたいだけど?」

「……問題……ない」


そう言うと、ミリーは腰から先ほどと同じダガーを取り出した。しかも、今度は二本である。


「…………手品師かよ」

「……種も仕掛けも……あるよ」


本日三回目の戦いが始まった。




『まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~』同時連載中です。

可能な限り、毎週火曜日の16時ごろに投稿しています。

こちらも合わせてお楽しみください。

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