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第二十六話 初戦





街中をゆくダイクリッドの表情は険しい。廃れた教会からどれほど歩いただろうか。大した時間は歩いていないように思うが、彼の歩幅は随分と大きく、すでにかなりの距離まで来ているようだった。

取引は終わり、もはやあの場所に用事はない。雄一が何かをするつもりなのは分かるが、一人で大したことが出来るとも思えない。

せいぜい、教団から何かを聞き出す為に残ったのだろうと、ダイクリッドは考えていた。四対一で、流石に無茶はしないだろうと。

それでも、最後に見た雄一の雰囲気が気になった。

どうしようもなく不安定で、危うい雰囲気。常人が発することの出来る気配では決して無い。


「――――あぁ、もう! 俺は馬鹿だ!」


ダイクリッドは体を反転させた。

このまま雄一を放っておいても、普通に帰ってくるかも知れない。むしろ、そちらの可能性のほうがよほど大きい。

それでも、彼の危うい雰囲気を放置しておくことは、ダイクリッドにはできなかったのである。












*    *


廃れた教会の内部。奥部には崩れ去った教壇があり、その場所へまっすぐ伸びるように長椅子が二列に並べられている。

出口から向かって左側には、石造りの暖炉が置いてあり、天井にはボロボロのシャンデリアが備え付けられている。

絶滅教団の四人は奥側に。雄一は向かい合った入口側に立っている。

雄一による「皆殺しにしてやる」と言う宣言を聞いたアミック達は、一様に気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。


「素晴らしい! 尋常でないほどの殺気を纏った貴方は一体どれほどの経験をされてきているのでしょうか!? 特にその目! 随分とたくさんの死を見てきたように見えるように思います!」

「イヒヒッ! アミック様、先にボクが行ってもいいでしょうか? あの若者に殺されてみたいのです!」

「良いでしょう! オリーさん! 素晴らしい死に様を楽しみに待って見ておきますよ!」


オリーと呼ばれた中年の男が進み出る。一周目でフランを殺した人間である。

腰に携えた剣を抜き、おおきく振りかぶって気勢を上げながら、雄一へと突進した。


「きえぇあぁっ!」

「ふぅっ!」


雄一は拳を構えて迎え撃つ。呼吸を一瞬止め、タイミングを見て一歩前へと踏み込んだ。

振り下ろされたオリーの剣は肉を切り裂くことはなく、雄一が放った正拳突きがオリーの手にめり込んだことによって、彼の手を離れて地面へと転がった。

オリーの手がくしゃりとへし折れる。指がおかしな方向に曲がってしまったものの、そんなことでは怯まずに、折れた手を使って雄一に掴みかかった。

雄一の襟元を掴んだことで、オリーはニヤリと笑った。

しかし、剣の振り方や服の掴み方。全てにおいて、雄一からすれば素人も同然。

掴まれた瞬間にその手を捻り上げ、そのままオリーの体はねじれるように床へと伏せられた。

そしてすぐさま骨を折る。肩と肘、手首の三つの関節持つはずの腕は、その数を七つまで増やしてうなだれた。


「ぎぃあっ!」


痛みによる叫び声か、それとも攻撃の際の雄叫びか。どちらにせよ、奇声を発したオリーは口元に泡を吹きながら、残った腕でナイフを取り出し、雄一を攻撃した。

もはや勝敗は決している。しかし、雄一はもう彼らに油断はしないし、手加減をするつもりもなかった。

オリーの攻撃は掠る事もなく防がれて、砕かれた腕と同じような運命を辿った。

仰向けに倒れたオリーの顔面に、トドメの一撃を喰らわせる。鼻がへし折れて血が吹き出る。頬は砕かれてどす黒く滲んだ。



「ではシドさん! お次をどうぞ差し上げます!」

「…………っ!」



教会の奥側で、アミックが大男に支持を出した。

シドと呼ばれた大男は、仮面のせいか声をだすこと無く、見上げるほどの巨体を雄一へと走らせた。


「なっ!?」


雄一が驚きの声を上げる。巨体に似合わない動きをする男。シドは飛び上がって雄一めがけて拳を振り下ろしたのだった。

なんとかこれを避けた雄一。着地点は、先程まで雄一が立っていた場所であり、オリーが倒れ伏していた場所でもあった。

床が砕け散って木片が散乱。衝撃波は入り口の扉をも吹き飛ばしてようやく止まった。

床に転がって攻撃を躱した雄一は、床に落ちていたオリーの剣を拾い上げると、間髪入れずに振りかぶる。

着地と同時に攻撃を繰り出したシドは、その体勢を崩している。そんな好機を見逃す手はない。

無慈悲な一閃がシドの首元を襲った。


ガキンッ!


金属音が教会内に響き渡った。

雄一が振り下ろした剣撃は、確かにシドの首元を捉えていた。間違いなく当たったにも関わらず、皮一枚を切っただけ。

血の一滴も出ることはないシドを前に、逆に剣のほうが絶えきれずに折れてしまっていた。折れた剣先は宙を舞い、教会の床へと突き刺さった。


――魔法……いや、ギフトか?


どんなに鍛えようとも、肉体で剣の一撃を防ぐことは出来ない。ならば何かしらの能力を使っているに違いないと、雄一は判断した。

すぐさま頭を切り替えて、ちらりと教会の構造に目をやった。

シドの巨体から次々と繰り出される拳。それは長椅子を吹き飛ばし、へし折るだけの圧倒的な力を誇っている。

足さばきや拳の動きに目を凝らし、なんとかすべてを躱し続ける雄一は、やがて暖炉のそばへと追いつめられた。

背後には石造りの暖炉。剣はへし折れて、柄と僅かな根本しか残っていない。


「……っ!」


シドの一撃。拳が雄一のすぐ横をかすめた。石造りにも関わらず、暖炉は粉々に砕けて衝撃波が雄一の体をよろめかせた。


「……っ!?」


シドは何かの違和感を感じ取った。鉄壁を誇るはずの自らの肉体に、鋭い痛みを感じたのである。

暖炉とシドの拳で挟み込むように、折れた剣を壁へと配置して、シドの強力な一撃を利用して拳に剣を突き立てたのだった。

拳に突き刺さった剣を見て、よろめくシドに向かって追撃を行う。

シドの巨体へと飛び移り、仮面を掴んでそのまま後方へと引き倒した。


「……ゴボッ!?」


直後、地面に倒れたシドの口元から血が吹き出した。シド自身、何が起こったのかわからない様子である。

先程の折れた切っ先部分。そこにシドを引き倒したのである。巨体はその分体重が重く、自重によって能力すら突き破り、シドの背中から体内へと押し込まれたのだ。

ジタバタと剣を引き抜こうとするシドだったが、やがてその動きを止めて動かなくなった。


「――――ぶはぁっ! はぁはぁっ!」


シドを倒したことにより、緊張の糸が切れた。硬直していた体は緩み、戦闘が始まってようやくまともに呼吸をした雄一。

初めてのまともな実戦。それも殺し合いと言った異常な状況。殺す気で人を攻撃したのだって初めての雄一は、湧き上がる吐き気をなんとか押さえながら、アミックを睨みつけた。


「なんと! 素晴らしくお強い方でありますね! 教団内でも腕利きを集めたはずなのですが! こうもアッサリと敗北を喫してしまうとは!」

「……次はお前らだ。存分に喜んで……っ!?」


「しかし油断は頂けませんね!」


雄一の背後から殺気が漏れた。

慌てて振り返ったは良いものの、時すでに遅し。背中の剣を引き抜いたシドが雄一の胸ぐらを掴み上げ、空中へと持ち上げてしまったのである。

首そのものも掴まれて、息ができないどころか脳みそに血が巡ってゆかない。

必死に腕を引き剥がそうと力を込めたものの、いくらなんでも自力に差がありすぎる。

視界が狭まって意識が遠のく。

雄一は油断をしたつもりはなかった。体の緊張を解いたとしても、警戒は怠っていなかった。

単純に、シドの復活が予想外であり、警戒心を上回る動きだったのである。


「…………()ネッ!」


ようやく聞こえたシドの声も雄一の耳には届かない。だが、雄一の意識がブラックアウトする直前に、



「ぜあっ!!」



ダイクリッドの蹴りが、シドの頭を襲った。衝撃によって仮面は半分割れて、唇を糸で縫い付けられたシドの口元が露わになった。

不意の一撃。何らかの能力で体を強化しているのであろうシドでさえも、その一撃に絶えられずに雄一から手を離した。


「ぶはっ! ゴホッゴホッ……だ、ダイクリッド!?」

「お前! 予想の斜め上を行ってんじゃねぇよ! 何ドンパチ始めてんだ、無謀か!」


廃れた教会に戻ってきたダイクリッドの助けによって、雄一は命をとりとめた。彼がいなければ、あのまま死んでいたことだろう。

圧迫されて腫れ上がった喉を押さえつつ、乱れる呼吸を整える。それでも、まともに動けるまで少し時間がいりそうだった。


「まったく……まあ始めちまったんだから仕方がねぇ。ちょっと休んでろ、ユーイチ」

「ゴホッゴホッ! な、何を……?」

「ブラザーフッドの団長。この俺様の本気を見せてやる!」




『まるで無意味な召喚者~女神特典ってどこに申請すればもらえるんですか?~』同時連載中です。

可能な限り、毎週火曜日の16時ごろに投稿しています。

こちらも合わせてお楽しみください。

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